労働者退職金制度に関する改正新法が成立

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  • 国別労働トピック:2004年8月

6月30日、「労働者退職年金法」が公布された。この法律は、「同一企業内における勤続年数」および「一時金」「確定給付制度」に変わり、「勤続年数通算制度」、「年金方式」および「確定拠出制度」について定めている。新法の施行は、交付から1年後となっており、約800万人の労働者に大きな影響をもたらす。

現行制度に関する問題

退職金制度は、1973年以来労働基準法を根拠に高齢労働者の退職後の生活を保護する目的で運用されてきた。現実的な問題として、欠点の多い制度として、多くの労働者が退職時に年金や退職金すらもうけとれない現状が指摘されていた。

退職金は、勤続年数に基づき支払われ、1年につき2単位支給される。しかし、15年を超過する部分については、1年につき1単位支給されるが、全体で45単位を超えてはならない(第55条)。

雇用者は、毎月、特別口座(企業専用)に一定の金額を掛金として拠出し、従業員退職基金として積み立てなければない。拠出率は、中央管轄当局により決定され、行政院により承認されなければならない(現在は2%~15%)。労働者退職基金は、中央管轄当局と大蔵省が指定した金融当局(現在は台湾中央信託局)の下で管理・運営されなければならない。掛金の拠出率は、国内金融機関が定めた2年物定期預金の利率を下回ってはならない(第56条)。

従って、現行の労働者退職金制度は、長期雇用および雇用主から退職金を受給できるよう同一会社で長く勤務することを奨励する個人功績主義に基づいている。問題は、労働者が同一雇用主の下で勤務する平均年数は8年以下であり、企業(台湾では大半は中小企業)の平均存続年数は13.3年ということである。結果として、雇用主から退職金を実際に受け取ることができるのは労働者の40%にすぎない。特に中小企業の従業員にとって、この条件の下で退職金の資格要件を満たすのは困難である。

また、現行の退職金制度は「確定給付」または「一時金」制度という考えに基づいている。これはもちろん、雇用主の費用負担増である。しかし問題の核心は、将来の退職者数の予測は不確実性が高いため、企業が費用見積りを計算するのは困難だということだ。加えて、罰金が比較的少額であったため、実際に労働基準法に基づき従業員退職金を積み立てていた会社は、僅か10%しか存在しない。

さらに、現行の退職金制度の制約により、多くの場合、高齢失業者の求職は容易ではない。高齢者を雇わないということは、人件費を押し上げる退職金支払いが免除されることになるからだ。また、一部の企業は退職金支払いを回避する目的を達成するだけのために、特別な理由を用いて雇用契約を解除した。結果として、雇用者と従業員を常に緊迫した関係にさせた。

新制度の重要点

新制度下では各従業員は、以前の積み立て分を加算できる個人退職年金口座の開設が求められる。雇用主は、毎月個人口座に従業員の賃金・給与の6%を拠出することが義務づけられる。また、従業員は自らの意志で賃金・給与の6%を超えない範囲をこの口座に拠出することができるようになり、拠出した金額は免税扱いとなる。従って、従業員は何度転職したとしても、掛金を継続して積み立てることができる。同時に退職者は事業が閉鎖・倒産した場合でも確実に年金を受給できる。さらに将来、有期契約社員が自分の退職年金を持つことができ、労働者が退職金と離職金を同時に受け取ることが可能になる。

新制度に関しては、個人年金口座に加入するための勤続年数の制約はない。従業員は満60才に達した時、毎月年金を生涯にわたり受給できる。また、退職者が早期に死亡(平均余命より早く)した場合、遺族は退職年金の残額を一括して受け取ることができる。それに対し、退職者は、月次年金の受給開始後、平均余命よりも長く生きた場合の資金源を確保するために、一定の年金保険を支払わなければならない。

現行制度と新制度を比較すると、いくつかの変更点をみることができる。まず勤続年数については、現行制度が同一企業で積み立てるのを義務づけていたのに対し、新制度は別の企業で引き継ぐことが可能になった。第二に、支払い方法については、現行制度は確定給付であるのに対し、新制度では確定拠出給付が採用された。第三に、年金の名義は、現行制度は雇用主、新制度は従業員である。第四に、個人年金保険料の掛金に関しては、現行は不明確であるが、新制度は明確であり調査することができる。第五に、雇用主の支払い費用について現行は不明確であったが、新制度では把握可能である。

新法によると、労働基準法に適用される高齢労働者は、5年後に現行制度を継続するか否かの選択ができる。しかし、一旦新制度を採用した場合、旧制度に戻ることはできない。労働基準法に基づき、新制度を選択した高齢労働者は、従来の勤続年数を退職または離職するまで維持することができる。

このような従業員を保護するため、雇用主は労働者数、賃金、勤続年数、離職率を考慮し、5年間余裕をもって掛金を払い続けられるよう、拠出率を明確に算出しなければならない。また、新法に違反した雇用主に対する罰金は著しく増加し、2万台湾元から10万台湾元の範囲となり、雇用主が規則に従うまで科せられるのである。

CLAの労働保険局は、個人年金口座を基金として一括管理している。また、新制度に関わる専門的な指導監督委員会が設立予定である。これら2つの機関による新制度の管理費用は政府の予算から賄われる。個人退職年金基金を効率的に運営するため、指導監督委員会は金融当局を資産運用機構として任命することが可能である。また、退職年金基金の最低運用収益の維持に関する規制も設けられている。実際の収益と保証されている収益率の差額は国庫により充当される。

個人口座制に加え、企業は年金保険制を新しい退職年金制度下で運用することが可能である。年金保険制を実施できる企業の必要条件は、200人以上の従業員を有し、労働組合または過半数の従業員の同意があり、加入者数は全従業員の半数を下回らないことである。また、運用収益率は国内の銀行が定めた2年物定期預金の利率を下回ってはならない。

改正の経緯

上記に掲げる通り、中央管轄当局が改正法案に着手して以来14年が経過している。この期間中に展開した改正に関する主要な動きは、下記のとおり4段階にわけられる。

  1. 議論の第1段階-老齢・追加年金保険 (1990年8月~1997年6月)

    1990年7月、行政院労工委員会(CLA)は、労働基準法で定められた退職金支払いの改正を検討し始め、政策決定に関する3件のケースを立案した。 1.個人口座年金積立制度(積立準備金制度)の実施2.年金保険・老齢年金制度の実施 3.労働者退職年金制度を実施。従来の労働基準法に適用する労働者に対し、旧制度を選択できる権利を確保した。一連の討論の末、老齢追加年金保険制と積立金制度の長所と短所を比較検討するという結論が下された。

  2. 議論の第2段階-労働者退職金法 (1997年9月~2001年6月)

    一連のセミナーおよび会議の結果、個人の退職金口座方式を構築するための「労働者退職金制度の改善策」が策定された。

  3. 議論の第3段階-「個人口座制」「付加年金制」「その他年金制度」の同時実施(2001年8月~2003年12月)

    各主要政党代表、実業家、労働者が参加した2001年の大統領経済発展諮問委員会による会議の結論として、CLAは3つの制度の枠組みを設定し、法案を策定した。一方、台湾全土の各都市では一連の説明会、また他の地域においてはセミナーや公聴会が開催された。しかし、確定給付制度や確定拠出制度にかかわる「個人口座制」や「付加年金制」に関しては、労働者と雇用者の間で基本的な意見の隔たりがあった。

  4. 議論の第4段階-主として個人口座制、従属して年金保険制 (2003年12月~2004年5月)

    「3制度」の段階における意見の隔たりをなくすため、法案は主として「個人口座制」、従属して「年金保険制」を調整した。

    様々な立法者、行政官や関係団体のリーダーが何度も意見交換を行った結果、「労働者退職年金法」が6月11日ついに立法院により承認された。

法律の施行にあたっての主な課題

労働者退職年金法によると、法律は大統領が公布して1年後に施行される。これは、雇用者、従業員、政府や関係当局・団体が新制度を実施するための最低準備期間であり、新制度がうまく運用するかの決め手となる期間とも言える。

雇用主は運営するために必要な準備に加え、新法に従い、従業員に対し退職金の旧制度もしくは新制度の採用を決定するよう書面で通知しなければならない。さらに、同一企業に勤務し旧制度を選択した従業員、および新制度を採用し、従来の勤続年数を引き継いだ従業員のために、雇用主は5年間十分な退職年金を拠出する計画を立てなければならない。

従業員は、法律公布の1年後に旧制度か新制度の選択を迫られるため、両制度の違いを明確に理解し、企業の現在ならびに将来の経営状態について十分な情報を入手する必要がある。

政府は中央管轄当局として新法に関係する16の下位法令を整備しなければならない。これらは、「労働者退職年金法の実施規定」「労働者退職年金に関する監督・管理組織法」「労働者退職年金保険の実施企業に関する法律」「労働者退職年金保険を扱う保険業者の資格基準に関する規則」「労働者退職基金の管理・運営に関する規則」「月給徴収専用フォームに関する規則」「労働者退職基金の委託管理に関する規則」「労働者退職基金監督・管理委員会の募集に関する規則」「労働者退職金監督・管理委員会の運営規則」を含む。また、参考資料、申請・契約書類に加え、下記を改正しなければならない。「労働者退職基金の拠出・管理に関する規則」「労働者退職基金監視・管理委員会に関する組織規則」「労働者退職基金の収支・投資・管理規則に関する対策」「労働者退職金の適用規則」。

さらに、政府は雇用主、従業員や関係する保険業者を対象に必要な広報活動を行わなければならない。また、政府は労働保険局が必要な準備をするよう働きかけなければならない。政府は、今後、新法公布1年後の施行に向けて、人材・予算を増強しつつ、学者や専門家による特別委員会を発足する必要がある。

今後の展開について

新法公布は、台湾の労働者退職金制度改正に向けた大きな一歩となっている。現行の従業員退職金問題の解決および退職金制度改善の必要性に関する世界的傾向を考慮すると、新制度の構築は斬新的であるといっても過言ではない。

今後の展開において、新しい労働者退職金制度が円滑に遂行するかどうかは、下記の要因により決定づけられる。

  • 的確かつ効果的な経営管理サイクル-規則の体系的な構造、合理的な各規制および策定方法、推進および問題解決方法、時間管理、1年後の調査および調整方法がどのようであるか。
  • 雇用主による退職金拠出を行う意志および姿勢。
  • 政府による違反企業に対する効果的な対策の実施。
  • 運用に際しての全般的な経済発展や企業の経営状況への影響。

旧制度および従来の勤続年数を引き継いた労働者に対して適切な退職金支払いを実施することは、新制度の運用にも影響を与えることを認識することが重要である。

新旧労働者退職金制度の比較
  労働基準法 労働者退職金条例
制度 確定給付制を採用・実施。雇用者は平時に労働者退職準備金を寄託し、かつ事業団体労働者退職準備金監督委員会の名義で、口座に預け入れるものとする。 確定控除制を採用・実施。雇用者は平時に労働者個人のため退職準備金もしくは保険料を預け入れるものとする。個人退職金口座制(個人口座制)を主とし、年金保険制を補とする。
勤続期間 の計算 勤続期間は同一の事業団体内のみで計算され、退職もしくは事業団体の工場閉鎖・廃業により新しい職に就く場合においては、改めて計算が開始される。 勤続期間は同一の事業団体内のみに限られることなく、転職もしくは事業団体の工場閉鎖・廃業によっても影響を受けない。
退職金支給
申請要件
15年以上勤務し満55歳に達した労働者もしくは25年以上勤務した労働者は自ら退職金の支給を申請することができる。労働基準法第54条の解職の要件を満たすときも、退職金の支給申請をすることができる。 新制度実施後:
  1. 旧制度下の勤続期間の適用を受ける場合の退職金:労働者が労働基準法第53条(辞職)もしくは第54条(解職)に定める退職金申請要件を満たすとき、雇用者に対し退職金の支給申請をすることができる。
  2. 新制度下の勤続期間の適用を受ける場合の退職金:労働者個人退職金口座制の適用を選択する労働者は、満60歳に達しかつ新制度適用下の勤続期間が15年以上であれば、労働保険局に対し月ごとの定期退職金の支給を申請することができる。新制度適用下の勤続期間が15年に満たないときは、一括払い退職金の支給申請がなされなければならない。
  3. 年金保険制の適用を選択する労働者が保険金の給付を受領するための要件については、保険契約の約定により定められる。
受領方法 一括払い退職金の受け取り 月ごとの定期退職金もしくは一括払い退職金の受け取り
退職金 の
計算方法
勤続期間に応じ、満1年ごとに2個の基準数が与えられる。ただし、勤続期間が15年を超えた場合に与えられる基準数は満1年ごとに1個とし、基準数は最高45個を限度とする。その期間が半年に満たないときは、半年として計算される。半年を超えたものは、1年として計算される。 個人退職金口座制:
  1. 月ごとの定期退職金:平均寿命に基づき、労働者が受領し得る退職金支給期間を算出した後、労働者個人の退職金口座の元本ならびに累積収益を均等に配分した額が月ごとの定期退職金として受領される。
  2. 一括払い退職金:労働者個人退職金口座の元金ならびに累積収益が一括して受領される。
    年金保険制:受領額は保険契約の約定により定められる。
雇用者の負担 弾力性に富んだ費用負担率が採用されている。労働者の月給総額の100分の2ないし100分の15を基準として、退職準備金が控除されるので、その計算が困難である。 退職積立金の控除率は固定された費用負担率による。雇用者が負担するコストが明確にされており、控除率は100分の6を下回ってはならない。
労働者の負担 労働者は退職準備金が控除されることはない。 労働者は、賃金の100分の6の範囲内であれば、自ら退職準備金の控除を申し出ることができ、税制上の優遇政策を享受することができる。
長所
  1. 労働者の長期勤務が促されること。
  2. 単一の制度であるためその理解が容易であること。
  1. 勤続期間は同一事業団体内に限られるとの制限を受けないため、労働者誰もが退職金を受領することができること。
  2. 退職準備金控除率が固定されているため、企業経営の不明確さが回避されること。
  3. 公平な就業機会の付与が促進されること。
短所
  1. 労働者が退職金受領要件を満たすのが困難であること。
  2. 退職準備金の控除率が弾力性に富む費用割合によっているため、雇用者のコスト負担が不明確になること。
  3. 中高年労働者を雇用するコストが相対的に高くなるため、中高年労働者の就業の障害となること。
  1. 200人以上の雇用労働者を抱える事業団体の労働者は、必ず個人退職金口座制ならびに年金保険制のいずれの適用を受けるか選択しなければならないこと。
  2. 労働者の流動率が高くなる恐れがあること。

(出所:行政院労工委員会)

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