新労働相、一連の政策提案を発表

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

スペインの記事一覧

  • 国別労働トピック:2004年8月

3月の総選挙により新しく成立した社会労働党(PSOE)のヘスス・カルデラ労働社会問題相は、 5月18日の下院労働委員会で一連の政策提案を発表した。そのうち、職業間最低賃金(SMI)の引き上げについては、6月25日の閣議で正式決定され、最低賃金を受け取っている労働者(約15万人)と、最低賃金に基づく計算による失業手当最低額を受け取っている失業者の合計60万人程が、影響を受けるとされる。

PSOEは、SMIを月額600ユーロ(注1)に引き上げることを公約のひとつに掲げていたが、今回決定した額は月額490.8ユーロで、これまでの月額460.5ユーロから6.6%増となる。引き上げは7月1日からで、カルデラ労働相は、政権期間内(前倒し選挙がなければ次期総選挙が行われる2008年まで)に月額600ユーロに引き上げる公約を堅持するとしている。なお、スペインでは実際にSMI相当の賃金のみを受け取っている労働者はごくわずかであり、SMIはそれ自体として重要ではない。むしろ、各種手当(奨学金、住宅取得補助等)の受取りに際して用いられる「収入の目安」としての意味の方が大きい。しかし今回のSMI引き上げ後は、失業手当の場合を除き、SMIは手当支給の基準として一切用いられないことになった。各種手当支給の基準としてSMIのかわりに導入されたのが、多目的収入指数(IPREM)である。IPREMは、当初は引き上げ前の最低賃金(月額460.5ユーロ)と同額に設定され、年額で460.5ユーロ×14ヶ月(12ヶ月+ボーナス2ヶ月分)とされる。カルデラ労相は、各年度予算でインフレに合わせてIPREMの見直しがなされるとしている。しかし、最終合意にはこれについて明記されておらず、労組の一部から不満の声があがっている。

政府は、生産性の向上と有期雇用の減少に基づく新しい成長モデルの構築も掲げている。スペインでは賃金労働者の約3分の1近くが有期雇用労働者であり、中にはバカンスの時期になると雇用契約期間が切れる形で同一の労働者を繰り返し有期で雇用する等、有期雇用の濫用と見られるケースも多々ある。政府は、法制度を見直すことによって、有期雇用の利点の制限、労働監査の強化、無期パートタイム雇用の奨励等を目指したいとし、特に、スペイン最大の産業である観光業に注目している。カルデラ労働相は、季節変動に曝されやすい観光業において、パートタイム雇用や断続的無期雇用という雇用形態を増やすことにより、有期雇用を大幅に減らせるのではないかという期待を示している。また、集団交渉においても「雇用の質」を重視する改革が必要であるとし、政府は、労使双方の代表を加えた専門家委員会を設置して、過去10年間における労働市場改革を検証、問題点を洗い出すと同時に政策策定への貢献を求めたいとしている。

関連情報