日本とのEPA交渉:「人の移動」の議論は、看護師と介護士に絞る

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2004年8月

7月7日、日比両政府は、FTA(自由貿易協定)を軸とするEPA(経済連携協定)締結に向け、第3回目の会合を終えた。前回の交渉に引き続き「人の移動」が焦点となった。フィリピン側は受入れを求める業種を「看護師と介護士に絞りたい」と提案。日本側も省庁間の調整に着手する意向を示した。

これまでの政府間交渉では、職種を絞らずに一般論として「労働者の受け入れ」について議論してきたが、今回フィリピン政府が、具体的な業種を初めて示した。これを受けて日本政府も、看護師と介護士に絞った具体策を検討する。日本看護協会は、「看護は世界共通の知識・技術」であり、外国人看護師の受入れを反対しているわけではないとしながらも、自国における看護師不足を外国人看護師の受け入れによって解消しようとすることは、間違いであるとしている。さらに、外国人看護師の受け入れにより、日本の看護師の労働条件が悪化するようなことがあってはならないとし、日本看護協会は、外国人看護師の受け入れ条件として以下の4点を挙げている。

  1. 日本の看護学校に入学し国家資格に合格すること
  2. 看護に必要な日本語を理解する能力があること
  3. 日本人の看護師と同じ労働条件で雇用されること
  4. 相手国の看護資格を日本でも適用させる「相互認証」はしないこと

今回の交渉に向けて、日本政府は6月に閣議決定した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」に「看護、介護分野で外国人労働者を受け入れの検討」を明記。政府が地域を限定して規制を緩和する「構造改革特区」の第5次申請では、全国から12の病院や介護施設などが、外国人の看護師や介護士の受け入れの申請を行っている。現在、日本では、高齢化に加え、若年層の都市部集中などにより、地方では看護や介護の担い手が不足している。また、病院だけでなく、訪問介護に同行する看護師を確保するのが困難な状況にある。資格を持ち、看護の知識・技術を十分に身につけた優秀な人材であれば、外国人看護師でもぜひとも働いてもらいたいというのが、現場の率直な意見だ。

フィリピンでは6月の看護師免許試験で、7371人が合格(受験者数は1万3225人)している。看護師や介護士は、他の職種よりも比較的高い賃金で、海外で職を得やすいということから、大学卒業後に養成学校に入学し直すという若者も増えている。専門職資格認定委員会(PRC)によれば、今回の試験でも受験者の13.2%が別の学位を修めているという。自国の看護師や医師が海外に流出し、医療体制の危機が懸念されながらも、海外就労者による送金に経済を支えられているフィリピンは、外貨獲得のため、日本に対しても看護師や介護士の受入れを強く求めている。

これまでの英語圏への派遣と違い、日本への派遣については、「言葉の壁」が大きな課題とされている。それについても、今後日本へ流入するフィリピン人の看護師や介護士の増加を想定し、日本政府は現在、フィリピン国内における日本語教育の充実に向けて動き出している。例えば、マニラ大学への日本語学習用機材や教材の供与や、新たな日本語能力試験制度の導入についての検討も始まっている。

日本との間で「人の移動」は、少しずつだが確実に動き出している。次回の会合は、8月末から9月初め頃にかけて開催予定。

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