フランステレコムが「欧州従業員代表委員会(注1)」を設置

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2004年7月

4月14日、フランステレコムは「欧州従業員代表委員会(EWC)」指令(注2)に従うことをようやく決定した。EUへ新たに10カ国が加わる2週間前のことである。同指令は、EU域内の複数国に事業所をもつ大企業に対して、「共同体規模企業及び共同体規模の企業グループにおける従業員の情報提供・協議を受ける権利を改善すること」を目的とした「欧州従業員代表委員会」の設置を義務づけるものである。

フランステレコムはすでに欧州の18カ国へ進出しているが、「欧州従業員代表委員会」の正式な設置が各国の従業員代表たちに予期されていたわけではなかった。しかし、「容赦なしに実施されるリストラの規模を確認するために国境を越えた情報交換が行われた」ことが、同委員会の発足を導いたといえる。たとえば、民営化が進められたポーランドのポーランドテレコムは2002年にフランステレコムに買収され、7万人の従業員を2003年末までに4万2000人へ削減することを強いられたばかりか、2004年にはさらに3万6000人へのダウンサイズが予定されている。このような人員削減は自分たちの企業の問題というよりも、「グループの世界戦略の一環」として決定される。こうした状況に対応するために、国境を越えた「労働者の共同行動」の有効性が注目された。また、フランス電力公社の「欧州従業員代表委員会」も、ポーランドでの雇用を守るひとつの試みとして、ワルシャワで最初の会合を開催した。企業が自分たちとの約束を反故にすることがないように、支部代表たちはフランス人の支持を期待している。

しかし、「欧州従業員代表委員会」の設置が一般化しているとは言い難い。同委員会の設置が義務づけられているのは、1)EU加盟国内内で少なくとも1000人以上の従業員を雇用し、かつ、最低2つ以上の加盟国でそれぞれ150人以上雇用する共同体規模企業、2)EU加盟国内において、グループ全体で少なくとも1000人以上の従業員を雇用し、かつ異なる加盟国にそれぞれ150人以上雇用する企業を2つ以上持つ共同体規模企業グループ――で、その数は1200あるとされる。欧州労働大学開発協会のトリオンフ総代表によれば、そのうち同委員会を設置しているのは、4割程度にすぎないという。新規加盟国(10カ国)に子会社を有する547企業をみても、ポーランドの50社、チェコ共和国の26社、ハンガリーの23社など、323社にとどまっている。しかも、設置を受け入れた企業の多くは、「最低限のルールを採用した」にすぎない。それは、これらの国の従業員代表が「オブザーバーの資格」による参加しか認められていないことを意味する。

国境を越えた統合が容易なことではないのも事実である。米国の巨大家電企業ホワールプールも「欧州従業員代表委員会」を設置しているが、フランス代表のカンダス氏(CFDT:民主労働同盟)は、言語や文化の障壁に加え、労働条件の大きな格差が統合を困難にしていると指摘する。たとえば、パリの北方約100kmにあるアミアン工場とスロバキアのポプラドにおける労働条件をみると、アミアン工場の労働時間は週32時間30分である(ちなみに、アミアンの工場は、265人の雇用が削減され、従業員は現在630人である)のに対して、ポプラドでは、6カ月の間、週に6日、毎週40時間から46時間働かなくてはならない。

一方、電気機器メーカーのシュネデールも「欧州従業員代表委員会」を設置しているが、そのフランス代表のビゴット氏(CFDT)は、「我々が交流を発展させて、抵抗する力を持つことになれば、拡大は危険ではなく、チャンスとなる。障害となるのは、経営側が我々にそのための手段を提供してくれないことにある」と指摘している。EU新規加盟国の代表を組み込むために、新協約が締結される見込みだが、この組織の存在意義を守るには、EU未加盟のルーマニアやブルガリア、あるいはウクライナの代表を受け入れることも大きな課題となる。

ETUC(欧州労連)は4月23日、「唯一の超国家的な組合機構である欧州従業員代表委員会に関する指令の不可欠にして緊急的な改正」を求める声明を発表している。採択から10年を経た今、同指令が労使関係改善のための手がかりとなるのか注目される。

参考

  • 荒木尚志「欧州従業員代表委員会指令とEU労働法の新局面」『日本労働研究雑誌 第421号』日本労働研究機構、1995年4月
  • 伊澤章『欧州労使協議会への挑戦EU企業別労使協議会制度の成立と発展 』日本労働研究機構、1996年

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