EU加盟と漁業への影響

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2004年6月

今年5月、中東欧を中心とする10か国(キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア及びスロベニア)がEUに加盟した。これによりEUの人口・領域は約2割増しになったが、拡大したのは陸地だけではない。新規加盟国のうちチェコ、ハンガリー及びスロバキアを除く7か国は海に面している。このためEU加盟国のうち沿岸の国は13から20に増え、EU水域はバルト海ほぼ全域をカバーし、地中海にまで及ぶこととなった。

図
資料出所:NNA POWER EU より転載

EUは漁業を雇用及び食料の重要な供給源と位置づけ、加盟国の漁業・養殖業について共通漁業政策(CFP:Common Fishing Policy)という基本的ルールを定めている。その目的は将来にわたる漁業の長期的存続を確保するため、水産資源の保護を柱とする漁業管理を行うことにある。またCFPの枠組みでは、漁業指導基金(FIFG)による加盟国への財政支援も行われる。これは漁業・養殖業のみならず、それらの製品の加工・販売も支援対象となっている。

今回のEU新規加盟国は今後このCFPの規制を受けると同時に、財政支援としてFIFGに計上されている総額約272百万ユーロ(2006年まで)の配分を受けることになる。漁業製品のEU市場はまもなく450百万規模に達するという。東欧諸国の漁業、関連産業及びその雇用動向は、今回のEU加盟で大きく影響を受けることになる。

共通漁業政策(CFP)の枠組み

CFPの基礎となっているのは、以下のような項目である(EU資料より)。

  • 魚群の保護

    EU水域では科学者のアドバイスに基づき、毎年の総許容捕獲量(TACs)が合意される。加盟国は自国の漁業船舶にTACsを割り当て、尊重させる責任がある。また若魚や産卵中の成魚の捕獲を防ぎ、海洋環境への影響を最小限に抑えるため、漁業索具の特殊化や特定地域へのアクセス規制についてのルールを設定する。

  • EU水域外での漁業

    EU水域のみならず域外でも過剰漁業を防止し、また加盟国による漁業が可能となるよう、アフリカ、インド洋、大西洋諸国及び北欧諸国と漁業協定の交渉を行う。EUは公海での漁業ルールを定める地域漁業組織の会員となる。また、不法漁業への対抗に関して国際レベルでの指導的役割を担う。

  • 財政支援

    EUの漁業・養殖業部門は加盟国への財政支援のため、漁業指導基金(FIFG)という専門の構造基金を持つ。その支援対象となるのは、利用可能な魚資源に合わせた船団能力の削減、漁港施設や養殖・加工設備のアップグレード、水産製品のマーケティング措置等である。

  • 施行

    加盟国は自国の水域・領土及び自国の船団の全ての操業場所において、CPFの全措置が施行されることを保証する責任がある。欧州委員会(注1)は加盟国の活動を監視する。各漁業者に対しても、捕獲から販売、移送及び水産加工までの漁業活動にCFP措置が適用される。

CFPは2002年に改定され、2003年から施行されている。改定の目的は「生物学的、環境的及び経済的に継続可能な漁業」を目指すことにある。長期的な漁業管理戦略、利害関係者のCFPへの関与の強化、CFPルールの徹底のための監査機関の設置等が盛り込まれている。今回のEUの東方拡大は、その施行後間もない中で行われた。

東欧諸国とCFP

新規加盟国に対するFIFGからの財政支援は、2004年5月から2006年12月末までの総額で2億7200万ユーロを上回る見込みである。支援を受けられる措置としては、漁業・養殖業及びそれらの製品の加工・販売までがカバーされている(具体的には船舶の再構築、港湾施設の近代化、養殖部門でのより環境に配慮した技術の開発、漁業製品の品質・衛生条件の改善、販売促進及び内陸漁業の改善など)。

新規加盟国へのFIFG割り当て額
加盟国 金額
キプロス 3.41
チェコ 7.25
エストニア 12.46
ハンガリー 4.38
ラトビア 24.33
リトアニア 12.11
マルタ 2.83
ポーランド 201.83
スロバキア 1.82
スロベニア 1.78
  • 単位:100万ユーロ
  • 資料出所:EUROPA. European Fisheries and enlargement.

バルト海では、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドのEU加盟により、ロシア連邦を除く全ての沿岸諸国が加盟国となった。最近、加盟国の漁業担当大臣は漁業管理に関する地域協議会(Regional Consultative Council: RCC)の設置に合意した。予定される7地域の1つはバルト海である。この合意はRCCに対する欧州委員会の財政支援等、いくつかの問題が解決された後に満場一致で得られたという(5月24日ブリュッセル発)。

養殖業に期待される雇用創出

魚資源の減少を相殺する手段の一つとして、とりわけ大きな期待を担っているのが養殖業である。雇用創出の観点からも、失業率が高い地域や観光、季節的漁業に依存しているために雇用の変動が大きい地域で、養殖業は新たな雇用を産みだす可能性がある。しかしこれまでのところEUの養殖業は、他の地域と比べてその成長が鈍いという。

新たに加盟した東欧各国の漁業生産高をみると(次表)、養殖業の生産高は数値としては小さいものの、いずれも増加傾向にある。EU共通ルールの適用や財政支援によって、今後これらはどう変化していくのか。

新規加盟国(一部)の漁業生産高
品目 漁獲量 養殖量
2000年 1998年 2000年 1998年
チェコ共和国 さけ・ます類 127 132 867 759
ハンガリー さけ・ます類 - - 24 9
ポーランド さけ・ます類 1198 754 11445 9044
たら類 58272 117204 - -
にしん・いわし類 108840 80963 - -
えび類 1732 691 - -
スロバキア さけ・ます類 836 77 767 538
スロベニア さけ・ます類 37 40 879 623
たら類 16 15 - -
にしん・いわし類 1514 1839 - -

EU15か国 さけ・ます類 29491 26228 373675 362828
たら類 973699 1079683 - -
にしん・いわし類 1602043 1868248 - -
かつお・まぐろ類 420385 424896 3682 1959
えび類 139574 169065 163 237
かに類 50204 51807 - -
藻類 123874 120040 3020 3060
  • 単位:MT
  • 出典:FAO. Fishstat Plus: Aquaculture production 1970-2000.
  • 資料出所:農林水産省「水産物国別生産統計」

参考資料

  • EUROPA. European Fisheries and enlargement.
  • EUROPA. Activities of the European Union: Fisheries.
  • AGENCE EUROPE. Bulletin Quotidien Europe No.8711
  • 農林水産省水産物国別生産統計

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