民間部門の労使交渉(2004年)合意へ

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

デンマークの記事一覧

  • 国別労働トピック:2004年6月

今回の民間部門の労使交渉は、賃金引上げと並び、中央産前産後休暇基金(以下、産休基金)の設立や労働市場付加年金(ATP)の掛け金増額などが大きな課題として位置づけられ、交渉は難航したものの、民間部門のデンマーク労働総同盟(以下、LO)とデンマーク使用者連盟(以下、DA)は3月22日に調停機関が提示した「妥協案」に合意した。4月19日、妥協案の是非を問うために行われたLO傘下労組の組合員による投票結果(注1)が公表され、賛成57.6%、反対42.4%で同案は採択された。

今回の労使交渉で懸案とされていた産休中の賃金保障や年金の掛金増額等に関する協約については、LO傘下の労組(注2)組合員のうち、およそ45%に当たる65万人(注3)を対象に向こう三年間にわたって適用される。

2004年の労使協約の骨子は、以下の通りである。

1.中央産休基金

今次の労使交渉の成果として最も注目に値するのが中央産休金の設立であろう。これまで産休中における従業員の賃金の一部は当該従業員を雇用する企業が独自に負担していたが、今後は中央産休基金を通じ、DAに加盟する全ての企業が共同で勤労者の賃金を保障することになる。

特に女性の社会進出が著しい産業分野においては、産休中の従業員に対する給与の支払いは多くの企業にとって大きな負担であり、「出産適齢期の女性」の雇用に消極的な企業も少なくなかった。しかし、同基金の設立により、今後女性の雇用がより積極的に推進されることが期待されている。

a. プール資金

産休基金の資金は、次のような方法で確保・運用される。

  1. DA傘下の企業(約2万9000社)は、産休中の給与準備金として、従業員1人当たり年785クローネ(注4)を同基金に支払う。
  2. 産休基金は、産休中の勤労者に対する所得保障として労働時間1時間当たり最高115クローネを企業に支給。実質的には企業の賃金負担分の約80%が同基金により補償される。

b. 所得保障

労使協約が定める従前の賃金保障制度(女性:産後14週間、男性:産後2週間)が改善され、2004年6月1日より女性に対する産後の賃金保障期間が6週間延長(計20週間)されたことに加え、産前4週間の休暇についても賃金を保障。

c. 他の産休基金

既に育児休暇基金を独自に設置している業界分野も幾つか存在するが、これら小規模な基金は将来的には中央産休基金に吸収・合併されるだろうと予想される。

d.産前産後休暇に関する賃金保障の推移

(労使協約に基づく規定)

  1997年 1998年 2000年 2003年 2004年
産前(母親) - - - - 4週間
産後
・母親 14週間 14週間 14週間 14週間 14 + 6 = 20週間
・父親 2週間 2週間 2週間 2週間 2週間
保護者(計) 16週間 16週間 16週間 16週間 26週間
支給額 95kr./時 115kr./時 120kr./時 従前給与 従前給与*

*ただし、最後の6週間については、最高125kr./時。

e. 産前産後休暇に関する法律

産前産後休暇について定めた法律は2003年3月に改正され、産休は同年1月1日にさか上って従前の32週間から52週間に延長された。従業員に対する企業の賃金負担期間が終了した後、残りの産休期間の所得は日割り出産手当(注5)により保障される。

現行法に基づく産前産後休暇は、以下の通りである。

<4週間> 出産 <14週間> <32週間>
母親:4週間 母親:14週間 母親・父親:合わせて32週間
*保護者のニーズに応じて分担可。
父親: 2週間

2.労働市場付加年金(ATP)(注6

2006年より勤労者一人当たりの労働市場付加年金の掛金を9%増額し、2006年以降においてはフルタイム就業者(週労時間:37)に対する掛金は、242クローネ増の2,925クローネとなる。

3.企業年金

時間給雇用者に対する企業年金の掛金を現行の9%から10.8%にアップ。

4.賃上げ

  1. 賃上げ率は単産により多少異なるが、基本的には2007年3月までの向こう3年間で、3から3.5ポイント増。インフレ率を考慮すると、実質賃金上昇率はおよそ約2%と推測される。
  2. 実習生・見習い(職人など職業専門を受ける者)の賃金:4.5%増。
  3. シフト就業する勤労者に対するシフト手当:向こう3年間で10%増。

5.病欠時の給与保障

  1. 2004年3月1日以降、雇用者が被雇用者の病欠時の給与を負担する期間を延長。延長期間は、建築分野:2週間、運輸分野:3週間、工業分野:4週間。
  2. 子どもの病気第一日目の欠勤に対する給与保障を定めた従前の規定に加え、14未満の子どもの入院に際し、勤労者である保護者の一方が子どもに付き添うことで欠勤する場合、雇用主は勤労者の賃金を最高1週間まで保障。

6.研修(LO・DA教育基金)

雇用者がLO・DA教育基金に計上する資金については、2005年1月1日以降、勤労者の労働時間1時間当たり0.035クローネ増で、計28.5クローネとする。1973年に締結された労使協約に基づき設立されたLO・DA教育基金は、主として勤労者の研修資金の確保が目的であるが、財源は使用者により負担される。同基金にプールされた資金のうち、75%はLO、25%はDAにより活用される。

関連情報