ルーラ大統領が総合労働法改正案に意見発表

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  • 国別労働トピック:2004年5月

ルーラ大統領は、2004年10月に行われる全国市長選挙のために、2004年下半期の国会審議が、上下両院共に7月以降は中断すると予想し、政府が2004年中に成立を予定している政治改革案、組合法、総合労働法改正案の国会審議は、厳しい審議日程になると予想して、審議を急ぐ方針を持っている。しかし、最も注目されている総合労働法の改正は、政治調整が困難となっていることから、2005年に持ち込まれる可能性を認めている。総合労働法改正に関して、最近ルーラ大統領が洩らしている考えは、労働者を驚かせはじめた。

労組、特に労働党と密接に連携を保ってきた中央統一労組(CUT)系では、労働党政権下で労働者保護政策が拡大されると期待していたところ、労働党政権に入って、失業増加、収入低下が目立ち、前政権以上に厳格な政府財政再建政策を実施して、経済成長が抑制されている。この緊縮財政は国際社会からの評価は受けたが、労働者は期待がはずれ、最近は労働党政権に対する批判を強めている。

その最中に、ルーラ大統領は、総合労働法改正案には、労働法に更なる柔軟性をもたせたい意向を発表した。規制緩和によって正式契約雇用を拡大し、正式雇用に伴う分担金の徴収を拡大しようと考えている。例えば、

  1. 正当な理由のない解雇の場合、その労働者のために、使用者が政府に積み立てている勤続年限保証基金の、40%に相当する金額を、企業は罰金として解雇する労働者に支払う義務を負っているが、これを廃止して、他の手段で代行させる。(これはルーラ大統領が議員時代に運動の中心となって設定させた制度)
  2. 年間1ヵ月間の有給休暇には、給料の30%の割増を支払う義務を課しているが、これは企業負担を拡大しているために廃止する提案を行っている。

大統領によると、これまで政府は労働者が獲得した権利を維持することを重要と考えていたが、現状では雇用拡大が優先する時代となった。法規により労働者の権利を拡大してきた結果、企業負担が増大し、これを嫌う企業によって、現在のように、法規の保護を受けられない非合法就労者が増加してきた。現在の総合労働法をどうするかよりも、成熟した労使関係により、多方面に渡る労使交渉を重視し、労使交渉を100%自由化する法令が必要と考える。大統領は、労働者の感情を考慮して、総合労働法を緩和させるという表現は避けているが、労使交渉を優先し、法規による束縛ではなく、自由化が必要と主張している。こうした意見について、労働問題の研究者たちは、労働党政権が憲法で制定されている労働者の権利まで改正しようとしており、前政権以上に労働法の根本的改革に意欲的であると評価している。しかし一方では、労働法に柔軟性をもたせることで、雇用が拡大すると期待するような大統領の見方は、間違っていると批判している。

中央労組では大統領の考えに驚きが強まった。特に中央統一労組(CUT)のルイス・マリニョ委員長は、「勤続年限保障基金の罰金廃止など、記者団との昼食会で、ぶどう酒を飲みすぎて、酔っ払って発言したのだろう。雇用拡大の必要を理由に、労働者の既得権を解消するような考えは許さない」と不満を発表した。政治的に対立しているフォルサ・シンジカルのPaulo Silva(パウロ・シルバ)委員長は、労働者出身、労組役員出身の大統領選から、このような発言を聞くとは思わなかった。3大中央労組は大統領に、労働法改正に関する政府の真意を聞きたいと、会見を申し込んだと発表した。

中央労組では、失業増加によって、労組の指導力と発言力が弱まっている中で、「大統領のこのような発言は、現在の総合労働法が、失業増加、あるいは非合法就労増加の原因であるかのような印象を、社会に与えるものだ。解雇に伴う企業負担を軽減すれば、企業は給料が高くなった労働者を安易に解雇して、安い給料の労働者に交代させるばかりであろう。労働法規の改正よりも経済回復に努力すべきではないか。また先ず組合法を先に改正して、労働者が発言力を強められる構造を作ってから、総合労働法の改正に移行すべきである。」と政府に要求している。

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