オーストラリアと米国が自由貿易協定に署名

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  • 国別労働トピック:2004年5月

2004年2月9日、オーストラリアと米国の代表は自由貿易協定(AUSFTA)に署名した。同協定発効のためには、両国における民主的手続きによる協定の承認が必要となる。オーストラリアや米国は貿易自由化のために2国間協定締結を求めており、オーストラリアはすでにこうした協定をニュージーランドと、そして最近ではシンガポールやタイと締結している。

AUSFTAの最終的な内容は未だ一般には公開されておらず、さらに両国代表がその利益について相反する主張を行っているため、詳細な内容とその評価は難しい。そこで今回は、協定の主な内容と政治的課題、さらに協定が労働組合等に与える影響を報告する。

協定の内容

協定は、オーストラリア経済に40億豪ドルの利益をもたらすものと国民に喧伝されている。ただその利益については評価が分かれている。協定の主な内容は、米国の農業市場がオーストラリアの生産者に開放され、その代わりにオーストラリアが米国からの輸入品に対する関税を撤廃ないしは引き下げるというものである。後者の関税撤廃の部分は、組織率の高い製造部門の雇用を減少させる可能性があるため、労組にとって長年の懸案となっていた。

ここでは、協定の中で明らかに米国に有利と思われる部分について検討したい。

まず第1に、オーストラリアに大きな利益をもたらすと考えられている農業分野についてである。オーストラリアは、砂糖についてより一層の市場開放がなければ交渉を行わないとまで主張していた。これに対し米国は砂糖を協定の対象から排除するよう求め、結局オーストラリアが譲歩する形となった。結果的に見ると、南米諸国に対する割当の方が多くなっている。また、牛肉の割当は段階的に廃止される一方、乳製品とラムはわずかに増加した。

次に、加工品に関しては、保護関税率引き下げが合意された。特に自動車部品や営業車の輸入には関税が課されなくなる。自動車組立業では労組の活動が活発であるため、労組にとって同協定は打撃となりうるし、またビッグ4と呼ばれるトヨタ、三菱、GM、フォードの経営にも影響を及ぼすものと思われる。つまり、米国に本拠地を置くGMやフォードにとっては、米国から多くの部品を供給できることとなるため協定が有利に働きうる。ただ「供給国」の問題は十分に話し合われていない。大きな懸念は、NAFTA圏内で生産され米国から輸入される部品の多くが、低賃金のメキシコ人労働者によるものとなるのではないかという点に集中している。このことは、オーストラリア国民の生活水準にも重大な結果をもたらしうる。その一方で米国の交渉代表は、オーストラリアの輸出する繊維製品がオーストラリア産の綿や糸のみから生産されねばならないと主張した。

これ以外に議論を呼んだのは、医薬品とエンターテイメント・ビジネスについてである。これらに関しては両当事者の主張が異なっているため、協定の内容が明らかとなっていない現時点での評価は差し控えたい。

労働組合に与える影響

オーストラリア労働組合評議会(ACTU)は、協定に対する批判的見解を公表した。その中でACTUは、AUSFTAを一方的な協定であり、製造業(特に自動車部品)の雇用が失われる可能性があると非難した。また、オーストラリアにとって協定締結の利点として主張されている米国の農業市場の開放についても疑念が示された。ただこうした反応は予想されたものであり、その一方でACTUの反応が意外にも穏やかであったことが注目される。おそらくその理由の1つとして、AUSFTAの中に環境基準と労働基準を守るという条項が挿入されたことが指摘できる。タイやシンガポールとの自由貿易協定にはこの種の条項はなかったため、AUSFTAの中に同条項が挿入されたこと自体、驚きを持って迎えられた。加えて、この問題に関してはオーストラリア金属労働者組合(AMWU)に比べACTUがそれほど労力を注ぎ込んでこなかったという背景もある。AMWUは、協定のコストと利益に関し客観的な当事者による十分な分析がなされていないと主張し、さらに製造業とそこで働く労働者が敗者となるのではないかと疑っている。

今後の課題

AUSFTAの内容は、「自由」貿易協定というよりもむしろ「管理」貿易であるといえる。同時に、AUSFTAは両国の政治状況(つまり、両国とも選挙が間近であるという事情)を色濃く反映したものとなっている。加えて、交渉当事者間の力関係が不均衡であったことも、オーストラリアにとっては大きな問題である。力関係の格差は、前述した農業分野とりわけ砂糖をめぐる交渉を見れば明らかである。米国はこの分野ではほとんど何も提供しなかったが、その一方で製造業の分野では大きな利益を引き出した。AUSFTAが製造業に与える影響はかなりのものとなると思われる。特に日本企業には不利に働く可能性がある。

同協定がオーストラリア企業にもたらす利益としては、米国政府調達契約の開放が挙げられている。ただこの分野への新規参入はなかなか難しいであろう。

AUSFTAに関しては、今後上院で詳細な審理が行われる予定である。野党労働党は協定を綿密に検討する意向を示している。労組にとっての主要な関心は、前述のように労働基準条項の挿入である。ただその有効性については今後の検討課題となろう。

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