就業者数の減少・「雇用なき成長」現象と政労使の雇用創出に向けた取り組み

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2004年3月

通貨危機以降、景気の回復に伴い増加傾向にあった就業者数が2003年に再び減少に転じ、経済成長の雇用創出効果も著しく低下している。とりわけ、製造業や大企業などで就業者数の減少傾向が目立ち、30-40歳代の早期退職とともに、従業員の高齢化が急速に進んでいる。そのため、雇用創出や従業員の高齢化対策に向けた政労使の取り組みが活発になっている。

以下、雇用実態の変化と政労使の取り組みについて詳しく見てみよう。

就業者数の減少傾向と「雇用なき成長」現象

最近、雇用実態の変化をより正確にとらえるための指標としてよく用いられるのは、失業率より就業者数である。厳しい就職状況を理由に求職活動を断念する者が増えているのに、失業率にはその実態が反映されないため、それに代わって就業者数が注目されているのである。統計庁によると、就業者数は通貨危機の影響をもろに受けた1998年に127万人減少した後、99年には35万3000人の増加に転じ、引き続き2000年には86万5000人増、2001年には41万6000人増、2002年には59万7000人増など、増加傾向を見せていたが、2003年に4万人減へと、98年以来初めて減少に転じた。2002年まではサービス業部門が農林水産業や製造業部門での就業者数の減少分を吸収して余りあるほどの雇用創出効果を見せ、就業者数の増加傾向を牽引したが、2003年には景気低迷の影響もあって、サービス業部門の雇用創出効果も頭打ちになっていることがその背景にある。

より深刻なのは、経済成長に伴う雇用創出効果が著しく低下していることである。韓国開発研究院によると、経済成長率1%の雇用創出規模の推移を見ると、2001年に13万3390人でピークに達した後、2002年には9万4460人、2003年には3万6450人へと減り続けている。この「雇用なき成長」現象をめぐっては、「高い賃金上昇率や大企業労働組合の独占利益志向、厳しい雇用保護制度などによるところが大きいため、雇用創出効果の向上に向けて労働市場の流動性(解雇および再就職の容易性)を高めるための制度改革(解雇要件の緩和)が急がれる」との声が上がっている。これに加えて、韓国銀行総裁は、「重化学・情報通信の輸出産業では中国特需で輸出が好調であるのに対して、中小企業や内需産業では中国の低賃金生産拠点の価格競争力に押され、空洞化が進んでいるため、設備投資や消費が減り、雇用無き成長現象がみられる」と述べ、輸出主導型の経済構造や高コスト低効率体質の影響で輸出部門と内需部門が大きく明暗を分けていることが「雇用無き成長現象」を招いているとの見解を示している。

この雇用創出効果が著しく低下した部門は、皮肉にも求職者の間で人気の高い「大手企業グループ(上位30)・公営企業・金融機関」である。労働部によると、同部門における就業者数は、通貨危機に見舞われた1997年末の157万3000人をピークに、98年には140万7000人へと急減し、99年には132万1000人、2000年には131万9000人、2001年には123万4000人へと減少傾向が続いたが、2002年に124万7000人へと若干持ち直した。このような就業者数の減少傾向と共に、中途採用の増加傾向が目立つ。その割合は1997年の40.7%から、98年には54.5%、99年には73.3%、2000年には78.1%、2001年には78.7%、2002年には81.8%へと上昇傾向が続いており、中途採用への依存度が急速に高まっていることが分かる。それは逆に同部門が新卒者にとっていかに狭き門になっているかを物語っている。

そして、大企業においては雇用保険の非保険者数の減少傾向も目立つ。労働部によると、雇用保険の適用対象が全事業所や非正規労働者へと拡大されたこともあって、被保険者数は1997年末の428万430人から2002年末には717万1277人へと大幅に増えたが、そのうち、従業員500人以上の大企業におけるそれは1997年末の174万6939人から2002年末には151万9813人へと22万7126人減った。また100-499人の中堅企業でも被保険者数は97年末の173万5025人から2002年には135万4376人へと38万649人減った。

もう一つ、失業給付の受給動向をみると、1998年から2002年まで失業給付を受けた延167万5356人のうち、年齢別には30代(49万6332人)と40代(35万3777人)、職種別には事務職(57万9188人)と生産・技能職(30万8069人)がそれぞれ多い。失業給付の申請理由をみると、退職勧奨が93万9254人で最も多く、次いで整理解雇(18万3662人)、倒産・廃業(17万3781人)、定年退職・契約満了(16万814人)などの順となっている。

このように30代・40代を中心に早期退職が増える一方で、従業員の高齢化も急速に進んでおり、ここにきて経営側の「人件費削減に向けた取り組み」と労働側の「雇用保障を求める声」の両立を試みる動きが活発になっている。労働部の賃金構造基本統計調査によると、従業員10人以上の事業所における雇用者数は1990年の467万6000人から2002年には549万1000人へと81万5000人増えたが、年齢別にみると、30歳未満は208万4000人(44.6%)から162万4000人(29.6%)へと46万人減ったのに対して、40代は77万人(16.5%)から130万2000人(23.7%)、50代は31万7000人(6.8%)から55万6000人(10.1%)へとそれぞれ53万2000人、23万9000人増えた。

従業員の高齢化への対策として注目されるのは賃金ピーク制度(定年まで雇用を保障する代わりに一定の年齢を過ぎてからは賃金を段階的に引き下げていくというもの)である。今のところ、金融機関の間で賃金ピーク制度の導入が目立つ。まず信用保証基金で2003年7月に初めて同制度が導入されたのに続いて、産業銀行でも2004年1月に同制度の導入が決まった。同銀行では、早期退職の対象となる行員を契約職に切り替え、満54歳の賃金をピークに55歳にはその80%、56歳には60%、57歳には40%へと段階的に賃金を削減していく案が検討されている。その反面、国民銀行では労組側の反対で同制度の導入が見送られ、従来通り早期退職による雇用調整が実施されている。

その一方、雇用創出への政労使の関心が高まるなか、ワークシェアリングによる雇用創出及び生産性向上の試みがにわかに注目を集めている。そのモデルケースになっているのは生活用品メーカーユハンキンバリである。同社は、1998年からワークシェアリングの一環として生産職社員を対象に4組2交替の勤務体制で16日間を1周期とする勤務シフト制を実施している。1周期の16日間は8日間の勤務、7日間の休日、1日の教育訓練のように組まれ、最初の4日間は昼間に12時間勤務し、3日間休んだ後、1日教育訓練を受け、次の4日間は夜間に12時間勤務し、4日間休むという具合である。

この勤務制度には次のようなメリットがあるという。まず、33%の雇用創出効果が生まれるほか、社員にとっては総勤務時間に変わりはなく、7日間をまとめて休むことができるし、会社にとっても社員1人当たり延300時間以上の教育訓練時間が確保でき、体系的な教育訓練を通して生産性向上を図ることができるということである。同社は、雇用増に伴う人件費増加分に対しては不要な土地・建物などを処分し、設備の稼働率を高めるなど固定費を削減することでカバーしている。つまり、「変動費40%・固定費40%・人件費15%・利潤5%」から「変動費40%・固定費20%・人件費20%・教育及び研究開発費10%・利潤10%」へと費用構造を変えることで、雇用創出および生産性向上を実現しているのである。これにより、1998年から2002年にかけて、時間当たり生産量は47%増え、売上高と営業利益はそれぞれ81%増、162%増を記録した。

このようなワークシェアリングの試みは政府の「2004年度の経済運営方針」でも雇用創出および生産性向上のモデルケースとして取り上げられている。

雇用創出に向けた政労使の取り組み

雇用創出は2004年度の最大の政策課題と位置づけられ、政労使の間では「雇用創出は社会の安定や労使関係の安定に欠かせない条件である」との認識を共有し、「雇用創出のための社会協約づくり」に乗り出す動きも見られる。まず、労使政委員会は2003年12月26日、2004年の最重要議題に「雇用創出」を取り上げ、それに向けた社会協約づくりに取り組むことで合意した。今のところ、「雇用創出のための社会協約」にどのような項目を盛り込むかをめぐっては、政労使の間で意見が分かれている。例えば、雇用創出の前提をめぐって、経営側は「生産性を上回る賃上げの抑制やストの自制、労働市場の流動化など」を挙げるのに対して、労働側は「既存の労働条件の維持や経営の透明性向上など」を求めるなど、労使の間では隔たりが大きい。ただし、同社会協約は直接の雇用創出もさることながら、協調的労使関係への転換を促す効果も期待されているだけに、その行方が注目される。

そして、政府は2003年12月30日に確定した「2004年度の経済運営方針」のなかで、雇用創出のために、「前述のようなワークシェアリングのモデルケースの普及に注力するとともに、従来製造業に偏っていた金融・税制・行政上の支援策を雇用創出効果の大きいサービス業部門(情報通信・物流・デザイン・環境など)に拡大する案」を盛り込んでいる。

もう1つの政策課題として浮上しているのは従業員の高齢化への対策である。政府は2004年1月19日、定年の延長を柱とする「少子高齢化社会への対策」を発表した。定年延長案は次のように大きく3段階に分けて推進される。

第1段階では、年齢を理由とする雇用差別の禁止を主な内容とする「雇用平等促進に関する法(仮称)」を2004年内に制定するほか、従業員300人以上の事業所の平均定年である57歳(2002年末)に満たない定年を設けている事業所に対して、定年延長計画の提出を義務づけ、定年退職した従業員を再雇用したり定年を延長したりする事業所に対しては雇用奨励金を支給する。

第2段階(2005-2007年)では、「雇用平等促進法」が施行され、関連条項を違反した場合、「権利救済機構」によって企業は罰せられ、労働者は救済される。そのほか、定年を延長した企業に対しては税制上の優遇措置が講じられる。

第3段階では、2008年から定年を60歳に延長し、2033年をめどに65歳に引き上げる。「雇用平等促進法」に定められる差別禁止年齢を2008年から18-60歳に設定し、その上限年齢が国民年金の支給開始年齢と連動するように定年を段階的に延長していく。

そのほかに、一定の年齢を過ぎた労働者を雇用したり、定年後再雇用したりする場合、現行の1年契約の代わりに最長3年までの複数年雇用契約を結ぶよう奨励し、また40-64歳の中高年失業者を対象に、再就職のための訓練を受ける場合は最長2年間失業給付の70%まで訓練延長給付を支給する案も盛り込まれている。

このような政府の定年延長案に対して、早くも経済界は「企業の人事権を侵害するのみでなく、職場より職業を重視する時代の流れに逆行する措置である(大韓商工会議所)」、「強制的に雇用を維持させることは経営環境の悪化を招くのみである(韓国経総)」、「雇用創出に逆効果である(全国経済人連合会)」と、そろって反対を表明している。

現在、定年は企業別に55歳から60歳までの幅で労働協約や就業規則に定められているが、実際には経営側が人件費削減のために早期退職や整理解雇などに踏み切ることが多く、定年まで雇用が守られるという保証はないのが実状である。特に、能力・成果主義への賃金制度の改革が進んではいるものの、年功序列分が依然として多く残されている企業の場合、人件費削減策として「高賃金の中高年層を対象とする早期退職」が主流になっており、前述のような賃金ピーク制度はそれに代わる妥協案として浮上しているのである。

経済界はこのような実状を踏まえ、「政府の定年延長案は労組の団結力が強い大企業や公営企業などの労働側には有利な条件を与える反面、経営側には大きな負担を強いることになりかねない」と警戒しているのである。

2004年3月 韓国の記事一覧

関連情報