大統領が新移民労働政策案を発表

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  • 国別労働トピック:2004年3月

ブッシュ大統領は、2004年1月7日にホワイトハウスで演説を行い、移民労働政策に関する大規模な改革新案を発表した。2001年9月の同時多発テロ事件以降、厳しい規制方向にあった移民政策を見直し、現在800万人から1200万人といわれているアメリカ国内の不法移民労働者を一時的に合法化して、彼らに労働許可を与えることを柱として提案している。

新案の骨子

新案の骨子は、現在アメリカ国内に不法滞在している外国人で、かつアメリカでの就業・移住を希望している人を対象に、雇用主の保証により3年間の労働許可を与えるというものである。労働許可が与えられると、本国からの家族呼び寄せや雇用上の最低賃金や退職金などの「基本的な社会保護」を受けることができ、本国とアメリカとの行き来も基本的に自由になる。原則として3年の期限を過ぎると本国に帰国しなければならないが、必要に応じて延長も認める方針である。同時に3年後の本国への帰国を促すために、米国での労働期間が本国で加算される年金制度の創設や、不法入国の取り締まり、テロ阻止策の強化も提案している。ただし、具体的な法案の詳細は議会にゆだねられており、大統領の方針自体も立法過程で大きく変化する可能性がある。

新案をめぐる社会背景

今回ブッシュ大統領が新案を発表した背景には、メキシコ国境地帯で行っている現在の不法移民労働者の取り締まりの効果が上がらず、合理的かつ根本的な不法移民対策の転換を要請されていることが挙げられる。そのためアメリカは、国内に滞在する不法移民の送り出し国の半分以上を占めているといわれるメキシコと協議を重ねた結果、新案に先立ち2国間における年金制度や社会保障制度の調整を行い、統合(Totalization)協約を締結した。今後は新案により不法移民労働者の取り締まりを強化し、現在国内に滞在している不法移民労働者の労働や社会保障を公認する一方で、移民者数の把握を行い、将来合意のうえで本国へ帰国してもらうという狙いがある。そのほか今年の大統領選挙を控えて、選挙戦の勝敗に重要な鍵を握る西海岸のヒスパニック(ラテン系アメリカ人)系住民の支持を獲得するという政治的意図もあり、今回の新案は不法移民労働者に手厚い保護を与える内容となっている。

各界の反応と今後の展望

アメリカと国境を接し、多数の不法移民労働者の送り出し国となっているメキシコのフォックス大統領は、今回のブッシュ大統領の案について歓迎の意を表している。UCデイビス大学のマーティン教授によると、ラテンアメリカの多くの国々は、国外の移民労働者からの送金に大きく依存しているのが現状で、2003年には、約120億ドル以上が流入していると推測されている。

一方、アメリカ国内の労働組合は、今回の新法について、低賃金労働者を多数雇い入れているウォルマートに代表される搾取企業のための移民法案であり、新案は低所得の労働者層を増加させ、国内労働者の就職先を奪うものとなるだろうとの懸念を表している。

対する使用者団体からは、不法滞在者を違法に雇用して罰則を受けるよりも合法化させて同賃金で雇用する方がよいとの思惑から、同新案に賛同する声も聞かれる。しかし、これまで不法移民を雇用していた企業を罰するかどうかなど、はっきりしない点が多い。

行政官たちは、ブッシュ大統領の提案は移民不法労働者と企業の要求を一致させるものであるとしているが、社会保障総局が見積もったメキシコとアメリカの2国間協約でかかる潜在的社会保障支出額は、初年度で7800万ドル、2050年までには6億5000万ドルまで膨張すると予測している。しかもこの見積もりは、議会の調査手法に従って社会保障の受益者を5万人程度しか想定しておらず、米国連邦会計監査院は「数字に表われていない実際の不法移民労働者数を想定していないこの計算手法は誤りである」との意見を、議会に提出した報告書に盛り込んでいる。

以上のように、新案の導入をめぐっては各界様々な反応があるが、正式な導入には法改正が必要になる。そのため議会の承認が必要となるが、保守派内にはこの法律の改定は法律を犯している者に恩赦を与えるものだとの反対意見が強い。

移民問題は、利害関係者が多く問題が複雑であるため、法案成立まで通常数年を要する。また草案を作成する際に両党議員が協力することが不可欠だが、選挙が行われる年に協力関係を築くのは困難で、法案成立までには時間がかかるものと予想される。

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