労働災害

カテゴリー:労働条件・就業環境

スペインの記事一覧

  • 国別労働トピック:2004年2月

集団交渉において労働災害を避けるためのなんらかの協定が結ばれることはあるが、一般に労災は集団交渉の枠外に存在する問題である。過去数年間の間に労災、特に死亡を伴う事故が増えたとの印象は、マスコミ報道の影響もあり、かなり広がっている。事実、1993- 2002年にかけて労災件数は100万件から200万件、すなわち年間7%近い勢いで増加してきている。言い換えれば、1993年には労働者1000人につき80人がなんらかの労災の被害者となったことになるが、現在では1000人に対し120人にまで増えている。

労働者の死亡を伴う労災事故は当然大きな反響と抗議を引き起こすが、その件数は過去10年間を通してほぼ一定しており、1993年の1532件に対して2002年には1557件となっている(もっとも、1996年には1300件まで減っている)。ただし、労災による死亡件数の変動とは別に、現在は10年前よりも約400万人近くも多くの労働者が働いていることを考慮しなければならない。したがって、就業者数に対する労災件数の割合で比較すると、その率はかなり低下していることが分かる。1993年には労災で死亡する労働者が100万人に対し125人であったのに比し、現在では90人に減っている。労災の減少は、2002年わずかに増えたのを除いて、過去5年間にわたり続いている。

労災件数 (1993-2002年)

(図)1993年から2002年の労災件数

労災はリスクを伴う行動と密接に結びついているが、これは職業や職種によってかなり不均一に見られる。例えば石炭採掘業では、年間労働者10人につき4人までが事故により欠勤しなければならない状況に陥っているが、2002年のデータによれば家事労働者で事故に遭った者は1万人に1人となっている。このような両極端の例を除くと、労災が最も多くなりがちな部門は金属工業、公衆衛生、非燃料鉱業、建設業となっている。建設業では年間労働者の4人に1人がなんらかの事故で欠勤している。逆に最も安全な職業は、すべて高い技能訓練度を有する非肉体労働者が多いサービス部門に属する。家事労働のほか、金融仲介業、教育、通信、個人に対するサービス等が挙げられる。

労働におけるリスクは賃金には反映されず、就業者当たり労災件数と平均賃金の相関関係はわずかながらもマイナスになっている。すなわち、全般にリスクが少ない部門ほど賃金が高くなっているのである。もっとも、両極端の部門において高賃金、低賃金の両方が見られることも確かである。例えば、労災が最少の部門である家事労働では賃金は最低水準であり、逆に労災が多い部門を見ると、石炭採掘業や金属工業のように平均賃金が高い部門もあれば、都市公衆衛生や建設業のように低賃金の部門もある。

部門別に見た労災件数
(労働者1000人当たりの欠勤を伴う労災件数、2002年)

(図)2002年に部門別に見た労災件数(労働者1000人当たりの欠勤を伴う)

労災の地理的分布を見ると、意外な地図ができあがる。就業者当たりの労災件数が最も多い地方を拾っていくと、スペイン観光産業の80%が集中する地方であることが分かる。すなわち就業者1000人当たり平均労災件数を上回る州は、多い順にバレアレス州、カタルーニャ州、カナリアス州、バレンシア州、アンダルシア州となっている。これらの州には労災との結びつきが大きい工業が特に目立って存在するわけではなく、むしろ労災が少ないホテル・レストラン業が非常に多いことを考えると、なかなか興味深い結果である。労災の割合が平均を下回る地方としては、ガリシア州のほか、セウタ、メリリャの両自治都市が挙げられる。

労働者が労働条件をどの程度満足して受け入れているかを見る指標として、スト件数を用いるとすると、これは過去10年間で顕著に改善されている。2002年に労働条件上の理由でストを行った労働者数は25万人、労働日数に換算すると60万日であるが、これは過去10年間で最低となっている。

この傾向は有期雇用契約が一般化するにつれてさらに早まっているようである。労働者を雇用し続けるか否かの決定がもっぱら雇用者側にかかってくるため、労働条件が悪くとも、労働者にとってはストが非常に高くつくものとなりかねず、勢いストを避ける形になるからである。そのほか、労働紛争に影響を与える要因として景気変動が挙げられる。一見矛盾しているようにも見えるが、好況期には労働条件の改善を求めるストが増え、逆に不況期には解雇あるいは企業閉鎖による失業への恐れから、労働者の動員は弱まる。

純粋に労働条件上の理由によるストの参加労働者数、
およびストにより失われた労働日数
(1993-2002年)

(図)1993年から2002年において、純粋に労働条件上の理由によるストの参加労働者数、およびストにより失われた労働日数

2004年2月 スペインの記事一覧

関連情報