EU新規加盟国からの労働者数、予想を上回る
―「労働者登録計画」導入のその後

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2004年12月

英国内務省が11月発表した公式統計(Accession Monitoring Report May - September 2004)によると、今年5月新たにEUに加盟した東欧諸国からの移民数が当初の政府予想を大きく上回ったことが明らかとなった。

統計によると、2004年5月~9月の5カ月間の新規加盟国(キプロスとマルタを除く)からの登録労働者数は約9万1000人で、政府の予想(5000~1万3000人)を大幅に上回っている。登録者を国別に見ると、ポーランド人の登録が半数以上を占めている(表1)。

野党保守党はこの結果に関して、新移民制度が英国に混乱をまねいていると政府を非難している。影の内相デービッド・デイビス氏は、イギリス労働組合会議(TUC)の労働者登録に関する報告を証拠として、就労登録している労働者は1部に過ぎず、実際には公式発表登録者数を大きく上回る数の違法就労移民が国内に存在していると指摘した。また、Migration Watch(マイグレーション・ウォッチ、英国圧力団体の1つ)は、新規加盟国からの労働者増大に対抗するには、非EU諸国出身の移民に対する労働許可証の発行を大幅に削減すべきだと主張している。

これらの批判に対しブランケット内務大臣は、「社会保障の給付レベルは制限するが、新規加盟10カ国からの移民労働者の働く権利は抑制しないというのが英国政府の方針。新規加盟国からの労働者は、60万人といわれる英国内の労働力不足の解消に大いに貢献している」と強調した。また、英国人材マネジメント協会のチーフ・エコノミスト、ジョン・フィルポット氏は、任意の引き締めは公共サービスの改善を目指す政府の取組みを損ねるリスクがあると、移民関連規定の厳格化に懸念を示している。

TUC報告書は、英国への移民パターンが変わりつつあることを明らかにしている。東欧など新規EU加盟国からの移民労働者は、ロンドンやその他の大都市には定住せず、リンカーンシャー州、ノーフォーク州、ケント州、サセックス州などの地方および小規模都市で働く傾向が強いという。これらの地域では、出稼ぎ労働者が食物加工、農業およびサービス業の労働者不足を補う中心的存在だ。これは国内産業部門中、移民労働者への依存度がますます高まっているセクターがあることを示している。例えば、英国の大手輸送会社First Bus(ファースト・バス)社は、他の輸送会社と同様、信頼性の高い運転手の確保に苦慮していた。同社は、ポーランド系運転手およびエンジニアに目を向けて採用ニーズを満たすことを試行。現在56名のポーランド系移民労働者による運転手がバース・ブリストル間の運行で活躍している。同社は、今後英国全土に、移民労働者採用拡大を計画しているという。

内務省は保守党をはじめとする労働者受け入れ制限を求める意見に対し、就労登録をしている新規EU加盟国出身の移民労働者は英国の全労働力のわずか0.3%を占めるにすぎないこと、登録労働者の45%は5月1日時点で違法出稼ぎ労働者であったものが自らを合法化する目的で労働者登録制度を利用してきたこと、果物摘み作業などの農業に従事する労働者の多くがすでに夏の仕事を終えて英国を離れていることなどの点を挙げ反論している。東欧諸国からの労働者(その半数以上がポーランド出身)がすでに9月までの5カ月間に同国GDPに1億2000ポンド、税収入および国民保険財源として2000万ポンド貢献したという試算もある。

ブランケット内務大臣は、新規EU加盟国からの労働者の受け入れが英国労働市場さらには経済全体に多大なプラスの影響を与えているのみならず、他のEU諸国のほとんどが、移民の働く権利を制限する移行措置を設けているのに比して、EU拡大に対処する常識的な政策によって英国が有利な立場に立っていることは明らかであると「労働者登録計画」の正当性を主張している。

国別労働者登録数(2004年5-9月)

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