米国との自由貿易協定が成立、労組は反発

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

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  • 国別労働トピック:2004年10月

連邦議会は、8月13日に米国との自由貿易協定を認める法案を通過させた。法案通過に対しては、労組や環境保護団体が強く反発している。法案通過の鍵を握ったのは野党労働党であった。労働党内部でも左派系議員は反対の意思を明らかにしていたが、それ以外の議員は自由貿易協定が短期的には問題があるにせよ、長期的には十分な価値をもたらすと考えていた。

成立に至るまでの紆余曲折とその影響

自由貿易協定をめぐる労働党内部での対立が明白になったのは2004年1月のこと。しかし党の公式見解は、協定を審理している上院委員会の報告待ちというものだった。これにより協定をめぐる深い対立は一時的に収まったものの、労働組合は協定には大きな懸念を示していた。

特に問題とされたのは、自由貿易協定が医薬品給付制度(PBS)の崩壊をもたらすのではないかというものである。PBSは国内における医薬品取引を規制し、その価格を抑制している。協定締結交渉の過程で、米国の製薬業界はこのPBSを問題にした。その後連邦政府は、PBSに対する製薬業界の影響力を排除するために、手続に透明性を持たせるという方針を明らかにした。しかし多くの国民は政府のこの方針を信用せず、またPBSはいずれ崩壊し、それに伴い薬価も上昇するという暗黙の合意がなされたのではないかと疑う声も根強く示されている。

これ以外に問題とされているのは、第一に関税ゼロ政策を採ることで製造業における雇用が失われ、特に自動車組立業に深刻な損害をもたらすのではないかという点である。第二に、自由貿易協定が対等なものでなく、オーストラリアに負担を強いる不均衡なものでないかという点である。第三には、協定は知的財産に関しオーストラリアに多大な損失をもたらすのではという点。特に米国の安価なテレビ番組により、国内産のプログラムが減少し、ひいてはオーストラリア独自文化の危機を招くのではないかとの懸念も示されている。

そこで労働組合の中には自ら世論調査を実施し、国民の反対を根拠に労働党に対し協定反対の意思を明らかにするよう迫るものも現れた。オーストラリア労働組合評議会(ACTU)もこうした動きを受け、7月の全国大会では協定反対の決議を行っている。

これにより労働党は非常に困難な立場に立たされた。というのはレイサム労働党党首は自由貿易を強く支持しており、加えて以前の彼の発言により米国との関係が微妙なものとなっていたからである。そこで労働党としては協定を支持しながら、同時に労働組合などの懸念を払拭する方法を見いださねばならなかった。具体的には、協定に対する修正案を提出するという方法がとられた。それはPBS保護を目的としたものであり、最終的に政府もこれを受け入れた。その結果、労働党が協定支持にまわり、法案が成立したのである。

労働党のこの決定に対し、多くの労組は反発している。特にオーストラリア製造業労働者組合は労働党に対する寄付金の削減を明らかにした。ただACTUは協定には反対の立場を取りながら、反労働党運動は行わないとしている。これらはすべて、経済自由主義的思想によって労働組合運動内部で生じたある種の緊張状態を象徴するものといえよう。

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