域内で依然として高水準の最低賃金、その一方で年々低下する国際競争力

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  • 国別労働トピック:2004年1月

フィリピンの労働者の1日当たりの最低賃金は、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国のなかで依然として高水準であることが、国家賃金生産性委員会(NWPC)発表のデータから明らかとなった。一方、スイスの国際経営研究所(IMD)が発表した「国際競争力年鑑(2003年版)」によると、フィリピンの順位は前年の18位から22位に後退した。

NWPCがまとめた10月27日時点での、アジア各国の1日当たりの最低賃金比較データ(米ドル換算)によると、タイ3.25~4.24米ドル、インドネシア・ジャカルタが1.54米ドル、ベトナムが0.91米ドルに対し、フィリピン・マニラ首都圏は5.09米ドルと群を抜いており、フィリピン以外では、シンガポールの14.43~40.40米ドル、マレーシアの4.23~9.08米ドルが高い数字を示している。

アジア各国の1日当たりの最低賃金比較(10月27日現在)
国・都市 現地通貨賃金 米ドル換算
ベトナム 14,666~14,983(ドン) 0.91
中国・北京 2.60~10.63(人民元) 0.31~1.28
インドネシア・ジャカルタ 13,000(ルピア) 1.54
タイ 133.00~168.00(バーツ) 3.25~4.24
フィリピン・マニラ首都圏 280.00(ペソ) 5.09
マレーシア 16.10~34.57(リンギ) 4.23~9.08
韓国 18,200(ウォン) 15.55
シンガポール 25.00~70.00(シンガポール・ドル) 14.43~40.40

出所:NWPC

依然として貧困対策が大きな課題であるフィリピンにとって(注1)、賃金問題は一方的に「高い」という一言で片付けてはならないが、最低賃金が上昇する一方で、国際競争力の低下が懸念されているのも事実である。

スイスに本拠地を置くビジネススクール、国際経営研究所(IMD)が発表した「国際競争力年鑑(2003年版)」によると、2003年のフィリピンの順位は22位であった。この調査は人口規模で国と地域をグループ分けし、フィリピンは、人口2000万人以上の30カ国のなかに位置する。1999年に12位にランクして以来、2000年は17位、2001年および2002年は18位、そして2003年は22位と、フィリピンの順位は毎年下がっていることになる。

IMDは「経済状況」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ整備」の4分野で、競争力を分析している。フィリピンは、「経済状況」で昨年の14位から19位に、さらに「政府の効率性」にいたっては、昨年の15位から21位にまで順位を落とした。

マカティで開催されたフォーラムで講演したデオカンポ元財務相(現アジア経営研究所代表)は、この順位の下落傾向がそのまま国内経済の不調を示すわけではないとしながらも、グローバル化や生産拠点誘致に関する国としての対応が不十分であり、対外イメージの改善、為替市場取引の円滑化、そして生産性の確保等について、官民一体となった対策をとらなければならないと主張した。また、同フォーラムで、ワレス・ビジネス・フォーラム社のピーター・ワレス社長は、フィリピンのインフラ整備は現在マレーシアから11年、タイからは6年遅れているとし、2008年までにその差が、それぞれ70年、20年まで拡大する可能性を示唆した。さらに、汚職や政情不安、治安問題、官僚的形式主義に対して政府は適切な対応をとれず、このことがフィリピンの成長・発展の大きな妨げになっているという見解を示している。

フィリピンでは、これまで「英語が達者でよく訓練されている人材」が豊富であることが強みとされてきた。しかし、最近では国民の学力や英語力の低下が問題視され始め、教育省では指導員の育成に力を入れ、教育システムを立て直す方針だという。前述のワレス氏も、フィリピンにとっての強みは、その豊富な人的資源であるとしながらも、教育システムの根本的な改革への対応の必要性を説いている。

グローバル化の波を受けて互いに激しい競争を強いられているアジア諸国のなかで、フィリピンの生産性は低く、最低賃金は高い。今後さらなる激化が予想されるアジア近隣諸国との競争に勝ち残るには、インフラの整備に加え、生産性の向上に向けて、教育システムの改革と高度な技能を習得したより質の高い労働者の育成が大きな課題となる。

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