CPF拠出率変更を受け、企業年金の導入を検討

カテゴリー:高齢者雇用労働条件・就業環境

シンガポールの記事一覧

  • 国別労働トピック:2003年12月

中央積立基金(CPF)(注1)の使用者側拠出率が10月から引き下げられるのに伴い、従業員の退職後の資産形成を支援するため、個別に企業年金プランの導入を検討する企業が出始めている。拠出率を変動制にする世界初の試みもある。

CPFの使用者拠出率は55歳以下の従業員について10月から3%ポイント引き下げられ13%になる。従業員拠出率と合わせた全体の拠出率は現行の36%から33%になる。使用者のコスト負担を軽減することで、中国やインドなど低コスト国への資本移動を防ぎ、雇用の維持を図るためだ。

これを受け、一部の企業やコンサルタント会社が、企業年金制度の導入を認めている所得税法第5項の規定に注目している。同規定を利用した企業年金の導入計画はまだ初期段階にあり、いずれの計画も最終的には内国歳入庁(IRAS)の承認が必要である。

検討されている案は2つに大別できる。1つは、拠出率を変動制にする案で、拠出率を企業収益に連動させる。実現すれば世界で初めてとなる。もう1つは、自力で企業年金プランを設立することが困難な小規模事業者(従業員50人未満)が集まり、共同出資基金「マスター・トラスト」を設立する案。基金の管財・管理業務は外部委託される。

引き下げられるCPF3%分の扱いに関して、現行で企業が導入できるプランとしては、

  1. 拠出率3%の引き下げ分を利益として保持するか株主に還元する、
  2. 3%分を従業員に現金支給する、
  3. 3%分をCPF口座に直接振り込む、
  4. CPFの規定に沿った拠出率を維持しつつ、上記所得税法第5項で認められた年金プランを導入する

――といったオプションがある。

ただし、現金支給については、使用者の支給分は税控除の対象とならず、従業員は課税される。また3%分を口座に振り込む場合も、使用者に税控除は認められず、従業員も課税される。一方、第5項で認められた年金プランの場合は、雇用主の拠出金は税控除の対象となり、従業員は税負担を免れる。

CPFカット分を従業員に還元する企業は2割

引き下げられるCPFの3%分の扱いに関して、人材コンサルタントのヘイ・グループが9月に224社を対象に実施した調査で、従業員に還元する企業は5社のうち1社しかないことが分かった。

調査によると、96%(有効回答214社中193社)が10月からCPF拠出率を法定の13%へ引き下げる。そのうちCPF引き下げに伴う負担減を従業員に還元するのは39社だけで、63%は還元の予定はない。17%は考慮中。

39社が回答した具体的な還元方法には、

  1. 一時ボーナス(28%)、
  2. 可変ボーナスの増額(21%)、
  3. 手当増額(13%)、
  4. CPF補填(10%)、
  5. 研修・レクリエーション費用(10%)、
  6. 月次可変給に転換(8%)

――がある。

  1. 原則として、すべての被用者が加入者となり、その使用者はCPFへの掛金の支払い義務を負う。掛金は年齢と所得に応じて使用者と本人が負担し(現行は使用者=16%、本人=20%)、個人名義のCPF口座に拠出する。口座は用途に合わせて分かれており、掛金は年齢層別に定められた割合で各口座に拠出される。

関連情報