中央積立基金の使用者拠出率、13%に引き下げ

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  • 国別労働トピック:2003年11月

ゴー・チョクトン首相は8月28日、国会演説で、中央積立基金(CPF)の使用者拠出率を、10月から現行の16%から13%へ引き下げる方針を明らかにした。労働者拠出率を合わせた全体の拠出率は現行の36%から33%になる。使用者のコスト負担を軽減することで、中国やインドなど低コスト国への資本移動を防ぎ、雇用の維持を図るのが狙いだ。これまで40%であった長期目標レートも断念し、30~36%に変更する。

CPFとは

中央積立基金(CPF)は、老後の生活原資を国営基金の個人勘定に積み立てる国立積立基金の一種で、その内実は「強制積立貯蓄制度」である。1955年に被用者の老後の所得保障、死亡・傷害時の生活保障を目的に導入され、以降、住宅保障、財産形成、医療保障の機能を併せ持つ総合的な社会保障システムとして発達してきた。

原則として、すべての被用者が加入者となり、その使用者はCPFへの掛金の支払い義務を負う。掛金は年齢と所得に応じて使用者と本人が負担し(現行は使用者=16%、本人=20%)、個人名義のCPF口座に拠出する。口座は用途に合わせて分かれており、掛金は年齢層別に定められた割合で各口座に拠出される(注1)。

拠出率の動向

CPFの拠出負担は使用者にとって人件費として決して軽くなく、不況期には人員削減の一因にもなっている。拠出率は1994年以来、従業員および使用者とも従業員月収の20%、合わせて40%であったが、97年に始まったアジア経済危機への対応の一環として企業コストの軽減を図るため、99年1月に使用者拠出率は20%から10%に引き下げられた。

その後、段階的に16%まで戻し、労働界では20%への完全復帰を求める声が日増しに強くなっていたが、政府の諮問機関である経済再生委員会(ERC)は2003年2月、シンガポールのコスト競争力が顕著に低下しつつあるのを懸念して、16%の使用者拠出率を向こう2年間据え置くことを提案し、政府もこれを受け入れていた。

抜本的な改正

しかし今回の措置は、現行の使用者拠出率を据え置くどころか、3%ポイント引き下げて13%にするのに加え、長期的な目標レートも40%から30~36%に変更するという抜本的な改正となった。背景には、シンガポールから中国やインドなど低コスト国へ生産移転する企業が増えているなか、政府がビジネスコストの抑制策を積極的に講じなければシンガポールはますます国際競争力を失い、雇用の確保がいっそう困難になるという危機感がある。

改正の具体的内容だが、10月1日から使用者拠出率が13%に引き下げられるのは55歳以下の従業員。従業員拠出率は現行の20%のままなので、全体の拠出率は現行の36%から33%になる。ただ51~55歳の従業員については、2005年1月1日に使用者側を11%、従業員側を19%に、さらに2006年1月1日に同9%と18%に引き下げる。今回の改正で、56歳以上について変更はない。

長期的な目標レートについては、50歳以下については使用者側が10~16%、従業員側が20%、合わせて30~36%。51~55歳の場合、使用者側が6~12%、従業員側が18%、合わせて24~30%に、それぞれ改正される。

またCPF対象者の所得上限額を現行の6000Sドルから段階的に引き下げる。2004年1月1日から5500Sドル、2005年1月1日から5000Sドルへ引き下げることはERCの提案に沿ってすでに決まっているが、ゴー首相はさらに今回、2006年1月1日から4500Sドルに引き下げる方針を決めた。CPFは上位20%の所得層は対象にしておらず、現状を踏まえて、所得上限額をこの基準に近づける措置である。

8割の企業が「CPFカットは雇用維持に役立たない」

ところが、今回の拠出率引き下げについて、大半の企業は雇用の維持には貢献しないと考えていることが、マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング社の調査で分かった。

200社を対象にCPFカットが自社の雇用維持に寄与するかという問いに「ノー」と答えた企業が80%を占め、「イエス」は15%しかなかった。さらにスタッフの増員については、9割が予定なしと回答した。

ただ、半数の企業が、今回の改正によって競争力が強化されると回答している。

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