居眠り防止用に「やせ薬」を支給

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2003年10月

タイタイ市で縫製の下請けをしていたアンビル社は、労働者に対し、居眠り防止用にやせ薬を、ビタミン剤や栄養剤と偽って長期間に支給していたのではないかという疑惑が発覚した。

1.事件の経緯

アンビル社は、幼児用の衣類を製造している大手のファーストワールド社などの下請け工場を経営していた。非常勤の労働者を多く雇い、繁忙期には、労働者に48時間から72時間連続勤務を強要していた。

アンビル社は、労働者から、賃金や手当の支給が滞っているとして、労働雇用省(DOLE)の地方事務所に訴えられた。このやせ薬支給問題は、賃金と各種社会保障制度の掛金の未払いに対する調査・報道の過程で、労働者がフィリピンデイリーインクワイアラー紙の記者に漏らし発覚した。

労働者の主張によると、最初、ビタミンCの錠剤、栄養剤のリポビタンやエクストラジョスなどを支給されていたと思っていた。しかし、服用後、不眠症の症状を自覚するようになり、市販薬のデュロマイン(注1)というやせ薬ではないかという疑いを持ち始めていた。

2.労働組合の対応

事態を重く見たフィリピン労働組合会議のアーネスト・ヘレラ委員長は、DOLEに、早急に調査するよう強く働きかけた。ヘレラ委員長は、職場での違法な薬物の服用問題は、増加傾向にあると語り、TUCP独自の調査によれば、2002年、約650万人の若年労働者の10~15%が違法な薬物を服用していると述べた。

「5月1日運動」(KMU)の幹部は、「これは、氷山の一角にすぎない」と批判し、劣悪な労働を強いられている労働者は、季節雇用の労働者が多いと指摘し、最低賃金以下で使用者側から非人道的な対応を受けているにもかかわらず、DOLEの地方事務所はこうした状況を見て見ぬふりをしている、と批判した。

3.政府の対応

タイタイ市のジェ-ン・ザパンタ市長は、2003年7月4日、この事件を人道的見地から重要視し、直接事情聴取に乗り出し、アンビル社の財務担当を市政府に呼び事情を確かめた。しかし、同社のアウグスト・ラゾ財務担当は、ザパンタ市長にやせ薬を支給した事実を否定した。その後、マスコミ報道により、やせ薬を支給していた新事実が次々に明らかになるにしたがい、ザパンタ市長は直接工場を訪問したが、会社側は、市長が労働者と接触するのを拒否した。ザパンタ市長は、会社側は、市当局が工場閉鎖命令を発令するのを恐れていると述べた。

Sto .トーマス労働雇用大臣は、2003年7月11日、今回の事件は、労働搾取企業を一掃させるうえでよい機会だと述べ、今後、こうした労働者を非人道的に雇用させる工場の摘発に全力を尽くすと強調した。DOLEの調査班は、労働者への初期調査で、錠剤は、ビタミンCの錠剤ではないことが明らかになったと発表した。

マニュエル・ロハスⅡ世財務相は、貿易産業省と協力し、貿易産業省の付属機関である衣料・繊維輸出委員会が調査を開始したと発表した。

4.議会の対応

議会も、人道的見地からこの問題を重要視している。

上院の「正義と人権」委員会のセン・フランシス・パンジリナン委員長は、DOLEに対し、だれが実際の経営者か厳しく調査するよう要求した。また、上院労働委員会のセン・ラモン・マジサイサイJr.副委員長は、DOLEに対し詳細な調査を実施するよう要求したと述べた。

5.今後の見通し

世論の批判が高まるなかで、一部の労組からは工場を閉鎖せよという意見も出ているが、今回の調査要求の推進役だったヘレラTUCP委員長でさえ、工場を閉鎖することは失業を招くだけだと否定的な意見を出している。政府や議会関係者からも、人道的見地から批判した発言は相次いでいるが、工場を閉鎖せよという意見は今のところ出ていない。

政府は、労働市場において、圧倒的供給過剰ななかで優位な立場にある使用者側に対し、労働基準を順守させるような厳しい政策を打ち出す必要に迫られている。

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