外国人労働者問題

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:外国人労働者労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2003年9月

タイへ近隣諸国から出稼ぎに来ている外国人労働者問題、またタイから外国に出稼ぎに行くタイ人労働者の問題もタイにとって様々な意味で大きな問題である。こうした労働者達はより寛容に受けいれられるべきだとILOは公表した。

ILOの見解

タイに働きに来ている外国人労働者も、タイから外国に出稼ぎに行っているタイ人も、非合法なかたちで働いているものが少なくないため、どちらもその正確な数を知ることは難しく、推計値では、一般にタイに働きに来ている外国人労働者は約80万~200万人と考えられており、タイから国外に出稼ぎに行っているタイ人の数は約40万~80万人と考えられている。

ILOのマノロ・アベラ(Manolo Abella)氏は、タイには近隣諸国から多くの労働者が流入・増加・長期滞在化しており、そうした労働者は、雇用登録されより良い待遇で扱われるべきだと語った。

タイではタイ人が嫌う汚く、品位を落とし、危険な仕事の担い手として、外国人労働者を必要としてきた。アベラ氏は、バンコクで開催された会議の場で、タイには約200万人の外国人労働者が存在し彼らは、「新しい血」「新しい考え」を国家に染み込ませることにもなるので、彼ら、特にミャンマーからの労働者は寛容に受け入れられるべきだと語った。

また、アベラ氏は、外国人労働者が汚名をきせられていることは認識しているが、彼らは犯罪者ではないので、不法(illegal)就労者というよりも不規則(irregular)な労働者として考慮すべきだとした。そして、組合加入権が与えられると共に、最低限の労働基準、賃金が保障されるべきであるとした。また長期の労働許可を与えることは、悪質な雇用者による労働者乱用の抑制に繋がるかもしれないと語った。そして、個人が雇用登録することを提案してきたが、あまり行われてこなかったと述べた。

使用者団体(ECOT)の見解

ECOTのシリワン氏は、外国人労働者、特にミャンマーからの労働者については、楽観視できないと語った。なぜなら、政府は国家安全保障上の問題に関心を持っており、彼らの権利は守らなければならないが、現在の問題点は、彼らがタイの社会保障制度に依存している点であり、さらにタイには多くの失業者が存在し、彼らが低賃金で働くことを強いられていることである。

近隣諸国から多くの労働者が毎日流入してくるが、彼らの帰属意識には確信が持てず、また多くのタイ人労働者が組合を組織化できていないのに、早期に外国人労働者に組合に加入する権利を与えることは現実的なことではないと語った。

シリワン氏は、こうした外国人労働者問題について、歴史上の問題、そして多くのタイ人失業者が存在し、低賃金での労働を強いられているという現状もあるので、非常に敏感な問題であると語った。

外国人労働者の流入とタイ政府の対応の経緯

タイは、1987年から金融危機に見舞われた97年までの10年間にわたって、毎年10%前後の高度経済成長を経験した。そしてこの高度経済成長の時期に、タイの近隣諸国からタイに出稼ぎに来る外国人の数が急増した。

1980年代後半以降、ミャンマー、ラオス、カンボジアからタイに不法入国してタイ国内で就労する者が急増したが、それに対するタイ政府の当初の対応は、外国人労働者問題に対する日本政府の対応とかなり似通ったものであった。つまり、外国人の不法入国、不法就労は認めないという原則を掲げながらも、実際には取り締まりには力を入れず、不法滞在の外国人労働者の存在を黙認するという対応をした。しかし90年代後半にタイ政府は、外国人労働者を合法的に受け入れることを真剣に検討するようになった。

その際、タイ政府が参考にしようとしたのは、シンガポールやマレーシアの外国人労働者受け入れ政策だった。1992年にタイ政府は、タイに不法入国したミャンマー人に対して、内務省の地方の出先機関に出頭して登録を行えば、ミャンマーと国境を接するチェンラーイ、ターク、カンチャナブリ、ラノーンの4県については、政府が認定した27の業種で働くことを認めることにした。この政策はのちにミャンマーと国境を接する他の5つの県にも適用されることになった。

1996年には、タイ全国に76ある県のうち、不法入国した外国人労働者が数多く働いている39県については、不法入国した者であっても、労働省に出頭して登録した者は、政府が指定した11の業種で2年間働く特別許可が与えられることになった。ただしこの制度の対象となるのは、ミャンマー、ラオス、カンボジアの3か国からの不法入国者のみとされた。この制度はその後さまざまな修正が加えられながら現在も続いている。

現在のタイでは、未熟練労働者が就労目的で合法的に入国することはごくわずかな例外を除けば認められていないが、不法入国した外国人未熟練労働者が「合法的」に働くことができる枠組みが作られている。

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