移民と労働市場

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:外国人労働者労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2003年9月

2001年の人口・住宅センサスによると、スペインに住んで いる中低所得国出身の外国人で労働年齢(16歳~64歳)にある者は96万2453人となっている。一方、内務省が有する統計を見ると、この数値は同じく 2001年で64万4746人である。つまり、移民労働者3人のうち1人は、スペインに不法に滞在していることになる。このうち社会保障制度に加入してい るのは43万9633人である。言いかえれば、労働年齢にある合法移民労働者の68.2%は社会保障制度に加入していることになる。人口センサスを実施す るのは労働力調査(EPA)の実施機関と同じく国立統計庁であるが、EPAによるとスペインで働くEU域外出身の外国人労働者は28万3700人となって おり、従がってEU域外外国人労働者は皆、平均で1.55回社会保障制度に加入したことになる。外国人労働者が頻繁に社会保障制度に加入する傾向は、時間 の経過にもEPAの調整にもかかわらず衰えを見せておらず、2002年末にはEPAによる外国人就業者数に対し社会保障制度加入者数の方が相変わらず 50%多くなっている。

このような一貫性を欠く統計結果の一方で、あらゆる 統計について一定して見られる現象がある。第一に、労働年齢にある中低所得国出身外国人の数は過去数年間で激増している。99年~2002年にかけて、社 会保障制度に加入する中低所得国の外国人の数は20万4000人から64万3000人へと3倍になっている。また、92年~20001年で見ると、これら の国々からの合法移民は18万4000人から75万1000人へと4倍に増えている。移民の流入は時とともに増えており、ラ・カイシャ財団の調査によると 67年~80年には年間3%増であったのが、80年~96年には年間12%増、そして96年~2002年では年間22%増となっている。98年までは高所 得国出身者の方が中低所得国出身者よりも多かったが、2002年には後者が前者の倍になっている。人口センサスによると、最も多いのはモロッコ人(19万 5000人)、エクアドル人(18万3000人)、コロンビア人(13万人)である。一方、内務省の統計によると、92年~2001年にかけて最も大きく 増加したのはエクアドル人(1000人から8万5000人)で、また同じ期間にルーマニア人は37倍、ロシア人は18倍、ブルガリア人は15倍に増えてい る。同じくコロンビア人は9倍、中国人は5倍、モロッコ人及びドミニカ共和国人は4倍となっている。移民アンケートによると、ラテンアメリカ出身者の 73%はスペインにおける滞在期間が3年未満である。しかし、近年見られた急激な増加にもかかわらず、スペインにおける外国人の数は他のEU諸国と比べて 明らかに少なく、ポルトガル及びギリシャを上回るのみである。

各国における在留外国人の割合(99年)

図1

出典:ユーロスタット、OECD

次に、これら移民の大多数が労働年齢にあることが明 らかである(センサスによる移民数の80%、合法移民の83%、EPAによる移民数の81%)。スペイン人のみについて見ると、労働年齢人口の割合は 73%にとどまっている。定年退職年齢を過ぎているのは移民100人に2人のみである(スペイン人及びEU出身者では18%)。第三は、労働年齢にある移 民の52%が男性で、すなわち男女の数に大きな差がなく均衡していることである。しかしながら、国籍別に見るとかなりのばらつきが見られることも確かであ る。パキスタン人では92%が男性で、アルジェリア人及びセネガル人では83%、モロッコ人では67%、ルーマニア人では61%が男性となっているが、逆 に女性が多いのはドミニカ共和国人(73%)、ブラジル人(73%)、ロシア人(65%)、フィリピン人(62%)である。

第四は、貧しい国の出身者で労働年齢にある移民のス ペイン国内における分布は、地域的に大きな格差が見られることである。これら移民が多い地域は、北アフリカに位置するセウタ市及びメリリャ市の他、マド リッド州及びムルシア州である。地中海沿岸諸州及びスペイン北東部のエブロ川流域諸州でも平均を上回る。一方、北部カンタブリア海沿岸諸州、南部及び内陸 部、カナリアス諸島では移民の数は少ない。マドリッド州にはラテンアメリカ出身者及び東欧諸国出身者が多く、ペルー人移民の50%、エクアドル人移民の 40%、ルーマニア人移民の37%はマドリッド州に在住する。一方、カタルーニャ州にはモロッコ人移民の33%が集中する他、全般にアジア出身者(特にパ キスタン人)及びアフリカ出身者が多い。その他目立つところでは、キューバ人はカナリアス諸島に多く、アルジェリア人はバレンシア州に多い。スペイン国内 で移民が選ぶ行く先と、各地の労働市場の特徴とには、密接な関係がある。地方労働市場のPLATO指数が5ポイント増すごとに、15歳~64歳の移民の割 合が2ポイント上昇する傾向が見られる。

最後に、不法移民(センサス上の外国人数と内務省が 把握する外国人数の差)が最も多いのは中南米人及びルーマニア人で、具体的にはコロンビア人及びボリビア人では75%に達し、エクアドル人及びアルゼンチ ン人でも60%前後となっている。こうしてみると、主にアフリカからの不法移民取り締まりを目的としたジブラルタル海峡やカナリアス周辺の海上における国 境管理活動は、根本的に誤った考え方に基づいているのではないかということになる。つまり、南米移民の入口であるマドリッドのバラハス空港での取り締まり を厳しくする方が、不法移民対策としてはよほど効果的と考えられるのである。

移民と労働市場の相関関係(2001年)

図2

出典:独自に作成

ブルガリア人及びルーマニア人に占める不法移 民の割合は60%前後で、ロシア人ではこれより低く35%となっている。一方、カリブ海地域出身者では不法移民の割合は比較的低く、キューバ人で15%、 ドミニカ共和国人で5%である。アフリカ出身者全般、特にマグレブ人の不法移民の割合も低く、アルジェリア人では30%を越えるが、モロッコ人では10% 未満、セネガル人に至っては合法移民の数の方がセンサスによる在留者の数よりも多くなっている。アジア出身者の場合も、国籍にかかわらずセネガル人と同じ ような現象が見られる。なお、ドイツ人における不法在留者の割合は20%である。

EU域外外国人労働者のスペイン労働市場への参入は、 「バラ色の道」にはほど遠いものである。まず、働きたくても仕事を見つけるのが困難で、その失業率はスペイン人の失業率を大きく上回っている。移民アン ケートによると、中低所得国出身者の労働力人口における失業率は、スペイン人労働者の10%に対し18%となっている。外国人労働者の失業率を出身国別に 見た場合、最も低いのが米国で(男性労働者ではほぼゼロ)、続いてEU諸国出身者(8%)である。逆に、スペインの平均失業率を上回るのは東欧出身者 (14%)、ラテンアメリカ出身者(15%)、アフリカ出身者(20%)で、加えて失業した場合に失業手当を受給する上でより大きな困難を伴うという問題 を抱えている。ラ・カイシャ財団のデータによると、2001年に国立雇用庁(INEM)を通じて職探しをしていた移民労働者のうち、何らかの手当を受給し ていたのは2万3000人にとどまっている。スペイン人では、職探しをしている3人に2人は手当を受給している。

次に、仕事が見つかっても条件が良くないという問題が ある。EU域外外国人就労者の44%は未熟練労働に従事しているが、スペイン人労働者の場合この割合は14%であり、逆に管理職となるとEU域外外国人の 3%に対しスペイン人では8%である。また、肉体労働が多いのも特徴で、訓練水準の高いホワイトカラーはわずか10%であり、スペイン人の33%と大きな 開きがある。

移民労働者の雇用は部門別に見ても偏りが見られる。社 会保障制度のデータによると、移民が最も多く従事しているのは建設業(17%)、ホテル・レストラン業(15%)、農業及び家事労働サービス(10%)で ある。一方、スペイン人労働者全体の間では、これら4部門を合わせて4分の1にも達していない。スペイン人労働者の18%を雇用する工業は、移民労働者で は10%にとどまっている。

また、このような特定の部門に移民労働者が集中する傾 向は変化していない。91年に内務省が発行した労働許可のうち、上記4部門は全体の52%を占めている。98年には労働許可の10件に4件までが家事労働 サービスのものであり、2000年には4部門合わせて73%に達しているが、その大半は家事労働サービス労働許可の増加によるものである(16%から 30%に増加)。

家事労働サービスは専らEU域外の外国人労働者によっ て占められている。社会保障制度のデータによると、2002年に新たに加入した家事労働サービス労働者の45%は外国人であるが、その他にも制度に加入し ていない労働者は数限りなくいるものと見られる。ラテンアメリカ出身の女性労働者で制度に加入している者のほぼ40%は、家事労働サービスに従事してい る。マドリッド及びセビージャでは、制度に加入している外国人労働者の大半が家事労働サービス労働者である。一方、農業労働者の間では外国人は11%と なっているが、社会保障制度に加入しているアフリカ出身の労働者のほぼ3分の1は農業労働者である。ホテル・レストラン業における被雇用者の13%も外国人である。

社会保障制度加入者総数に対する外国人の割合(自営業者を除く)、2002年
家事労働サービス 34.6
ホテル・レストラン業 13.4
農業・畜産業 8.5
建設業 7.9
不動産業 7.4
エネルギー資源採掘業 6.4
水産業 5.4
個人に対する各種サービス 5.0
各種企業活動 4.7
木材・コルク産業 4.0
団体・レクリエーション・文化活動 3.9
食品・飲料・タバコ産業 3.8
卸売業 3.8
輸送関連業 3.7
繊維・縫製業 3.7
非エネルギー鉱物採掘業 3.7
非金属鉱物製品製造業 3.6
陸上輸送 3.3
教育 3.3
金属製品製造業 3.3
小売業 3.2

出典:社会保障制度のデータに基づき独自に作成

全般に、ある部門における外国人労働者の割合とその部門における平均賃金水準には、密接な関係がある。平均時給が5ユーロ増すごとに、外国人労働者の割合は2ポイント減り、時給が18ユーロを越える部門では外国人労働者はほぼ皆無といってよい。

部門別に見た外国人労働者の割合及び賃金(2002年)

図3

出典:社会保障制度加入者データ及び労働費用指数に基づき独自に作成

この状況は、他の国々における外国人労働者の雇用分布と対照的である。ドイツでは外国人労働者の3分 の1が製造業・鉱業に従事しているのに対し、スペインではこれらの部門は全体の10%足らずである。またイギリスでは外国人労働者の30%近くが医療・教 育を含めた社会サービスに従事しているのに対し、スペインでは10人に1人にも満たない。逆に、農業部門における外国人労働者の割合は、他の先進諸国の倍 となっている。家事労働サービスにおける外国人労働者の割合がスペインよりも多いのは、ギリシャのみである。

外国人労働者は、高い水準の技能・教育を有する者であっても、就職に困難を伴う。EU出身者を除いて も、外国人労働者はスペイン人労働者よりも高い技能訓練度を有する。出身国によって、性別のみならず教育水準にも大きなばらつきが見られる。労働力調査 (EPA)によると、スペイン労働市場における欧州出身者(EU域内及びEU域外を含む)の教育水準はスペイン人労働者を大きく上回っており、40%以上 が高等教育を受けている。ラテンアメリカの教育水準はスペインよりもかなり低いが、スペインで働くラテンアメリカ出身の労働者の教育水準はスペイン人労働 者をやや上回っており、文盲はほとんど見られない。最後に、その他の地域(カナダ、オーストラリア、アフリカを含む)の出身者の教育水準は明らかに平均を 下回っており、高等教育を受けた者は10%にも至らない。また5%が文盲である。

以上まとめると、スペインにおける外国人労働者の分布には強い偏りが見られ、また他の先進諸国と異 なった分布を見せているということになる。外国人労働者の多くにおいては、その教育水準が十分に生かされない低熟練労働に従事しており、しかも農業を除い ては専ら国内市場向けの部門であるため、スペインの国際競争力の向上に貢献しているわけでもない。外国人労働者が特定の部門に従事しているのは純粋に個人 的な選択によるものではなく、移民を管理する様々な法規制の影響を強く受けている。このような不均衡に鑑みて、外国人労働者の存在は、スペイン人の熟練労 働者、特に非肉体労働に従事する専門職の所得向上につながっていると考えることができるが、それは労働集約型のサービスにおいてより安価な労働力が確保で きるからである。他方、スペイン人の未熟練労働者にとっては、外国人労働者は競争相手であり、また賃金水準を引き下げる役割も果たしているということになる。

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