失業中のCPFの引き出し、認められず
リー副首相は6月29日、中央積立基金(CPF)の積立金を失業中の所得補助として引き出すことを認めるべきとしたシンガポール改革委員会(RSC)の勧告を退けた。雇用情勢は決して良好とは言えないながらもなお雇用先がある以上、職業訓練制度などを積極的に活用して就職に務めることを優先すべきとの認識を示した。
RSCは、経済改革の方針策定を担う経済再生委員会(ERC)を政治、社会、文化の面から補完することを目的に2002年2月に設置された。そのなかのクレジット小委員会は6月24日、経済構造の変化の影響で失業したり減給処分にあった労働者の便宜を図るとともに、自助努力を促す政策を政府に勧告した。
その一環として、失業中の労働者がCPFの積立金を所得補助として引き出すことを認めるよう提案した。CPF(注1)は、1955年に労働者の老後の所得保障、死亡・傷害時の生活保障を目的に導入され、以降、住宅保障、財産形成、医療保障の機能を併せ持つ総合的な社会保障システムとして発達してきたが、失業中の所得補助を目的とする引き出しは認めていない。
RSCの勧告に対してリー副首相は、当面その必要性はないとの政府の立場を明らかにした。
その理由として、国内には依然として雇用先があることに加え、CPFの本来の用途である健康保険や年金に回す積立金に余裕が無いことを指摘した。労使の拠出率が合わせて40~50%であれば余剰を回すことも可能だが、同36%の現在では保険・年金だけでも十分カバーできるかどうかは疑問であるとの見方を示した。
こうした政府の立場は、6月30日の国会でさらに明確にされた。
子弟の海外留学費用や自営業を始めるための資金としてCPFの引き出しを認めるべきとの議員の質問に対してンー・エンヘン人的資源相代理は、CPF加入者は55歳の時点で基金の最低積立額を貯蓄していなければならないが、実際にこれを満たしているのは42%にすぎない点をあげ、CPFの引き出し制限を緩和することは認められないと答えた。
なお、CPFの最低積立額は7月1日に7万5000Sドルから8万Sドルに引き上げられている。
注
- 中央積立基金(CPF)は、老後の生活原資を国営基金の個人勘定に積み立てる国立積立基金の一種で、その内実は「強制積立貯蓄制度」である。原則として、すべての被用者が加入者となり、使用者はCPFへの掛金の支払い義務を負う。掛金の拠出は年齢と所得に応じて使用者と本人が負担し(現行は一般拠出率が使用者=16%、本人=20%)、個人名義のCPF口座に積み立てられる。口座は用途にあわせて分かれており、掛金は年齢層ごと設定された割合で各口座に拠出する。
- 普通口座は、掛金の大部分を受け入れ、退職後は老後の資金として退職口座へ振り替えられる。また現役時には、住宅購入や投資などに充てることができる。医療口座は、医療関係の費用に充てられ、特別口座は主として老後の資金積立のみを行う。
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