SARSの経済成長に及ぼす影響

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年7月

SARSは、タイ経済にも大きな影響を及ぼしており、特に、観光業への打撃は大きい。観光・スポーツ省によれば4月の観光客数は、前年同期比で46%、32万人に落ち込み、5月も前年同期比45%の水準としている。1~4月では前年同期比11%減の230万人であった。

観光業へ及ぼす影響

タイ国政府観光庁(TAT)は、観光収入は前年比12%減の3200億バーツになり、観光業界で20万人の失業者が発生する見通しだとし、何らかの対応策を打たなければ観光客が9割も減少する可能性もあると危機感を募らせている。また、タイ・ホテル協会によれば4~5月の客室稼働率は前年同期比平均45~25%まで低下しているとした。こうした低稼働率により従業員削減や無給休暇の取得を命じているホテルもある。

経済成長に及ぼす影響

SARSは、こうした観光業をはじめとする産業に影を落とし始めており、スチャート・チャオウィシット財務相は、経済成長率は最大で1%低下するとの見通しを示した。これに対してタクシン首相は、SARSの影響を認めながらも今年の経済成長率は6%は可能であると強気のコメントをしている。

またタイ開発調査研究所(TDRI)は、最悪のシナリオでは、成長率が昨年の5.2%から2.5%に減速すると発表した。SARS被害を最小限に抑えた場合でも成長率は、4.7%にとどまるとした。TDRIは、政府による万全な対策が必要であるとし、SARSフリー宣言を非難した。

これに対してタクシン首相は、「政府はWHOとも密接に連絡を取っており、SARSフリー宣言もWHOのお墨付きである」と反論した。

タイ中央銀行が4月30日に発表した「インフレーション・レポート」によれば、今年の経済成長率は、3.5~4.5%とし3カ月前のレポートから据え置いた。そして2004年の成長率は、4.5~6%と予測している。

国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局、財務省、タイ中央銀行は、4月29日に開催された三者会合でSARSの及ぼす影響について議論した。その結果、経済成長率への影響は0.4%程度とした。財務省は財政支出を増加させることで成長を維持できるとみている。タイ経済にとっての救いは、内需がしっかりとした成長軌道にある点と、輸出の増大が予想以上に拡大している点である。

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