国家労働関係調整三者会議の浮上

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年6月

中国共産党の第16回全国代表大会の与えた影響

2002年11月、中国共産党は第16回全国代表大会(以下第16回大会)で私営企業家の党への加入を決定した。この決定を契機に労使関係の調整機能として国家労使関係調整三者会議(「以下、国家三者会議」と略)の機能見直し作業が浮上している。

(1)江沢民・活動報告

活動報告で江沢民総書記は、労働者や農民を主役としてきた党が、新たに私営企業家を含む「最も広範囲な人民の利益」を代表する政党に変化してゆくための政策変更を提案した。この中で「私営企業のオーナー」を「中国の特色ある社会主義事業の建設者」と位置づけ、この合法的権益を保護すると言明した。

この提言の背景として1980年には、GDPの2%に過ぎなかった民間経済が、2001年には24%を占めるまで成長したこと。この結果として、私営企業家の育成をバネに経済発展を促進したい中国企業聯合会と、労働者の権利の保護を掲げる中華全国総工会との政策上の相違を調整する必要が生じており、さらに江総書記は今回の会議で、2020年の国内総生産(GDP)を8兆9403億元まで拡大するとの長期高度経済成長目標を掲げており、その実現のためにも安定した労使関係の構築が必要であるとする事情も指摘されている。

一方、国有企業でのリストラの結果として吐き出される下崗労働者や失業者、毎年労働市場の流入する大量の新卒労働者、農村地域から都市に流入する農村余剰労働力の受け皿として私営企業を利用したいとの思惑、加えて、2001年のWTO加入以来、国有、私営を問わず、国際的な競争を生き残るために余剰労働力を整理し、財務内容を改善する必要が出てきたことも理由になっており、こうしたことが国家三者会議を浮上させた要因とみられる。

(2)第4回国家三者会議

2003年1月に開催された第4回国家三者会議の内容は、三者間の協議制度の普及を通じて、社会的安定を図ることを狙いとしたものであり2003年には、これを土台に以下の事項の実施が計画されている。

  1. 条件整備の進んでいる市ないし県では、市・県レベルでの三者会議の設立を推進すると同時に実効あるものとする。
  2. 三者会議と社会安定維持を組み合わせ、重大な不安定要素、突発的事件に対する情報伝達組織を整備するとともに予防措置を図る。
  3. 海外の三者会議制度を研究し、中国の国情に合った三者調整制度の運用方式を模索する。
  4. 各地の三者会議に対し、企業の人員削減、分社化による労働者の移動について指導するよう規約を改める。
  5. 集団労働争議の予防を強化するために、仲裁員の仲裁システムへの参加率を高める。

(3)当面の課題

国家三者会議は2001年8月に設立された後2年を経過したが、工会関係者でさえこの制度を知らないものもいるなどその成果については不明瞭な点が多い。中華全国総工会の機関紙「工人日報」、中国企業聯合会の機関紙「中国企業報」でも、ほとんど報道されておらず、こうした反省から国家三者会議の制度や内容の明確化や活動内容の全面的な公開、を通じて経営者や労働者に理解しやすくする必要があるといわれている。

2002年11月の共産党全国代表大会を契機に、党と政府が、国家三者会議の労働争議調整機能を重要視し始めたのは、労働者の権益保護というよりも、むしろ社会的安定の維持と共産党政権の長期化を図るための方策という見方もある。

共産党の政策に関する基本的な見方は、改革の程度、改革の速度は、社会的に受け入れ可能な範囲のもの、としている。こうした上で人民の生活の向上と改革の進展とを結合させ、社会的に安定したペースで改革を推進させようとするものといわれる。

安定した労使関係は、社会的安定の維持、共産党政権の維持に重要な影響を与え要因であることから、労使関係調整ための制度が必要であり、中国共産党も、こうした発想から、国家三者会議を重要視し始めたのが実情のようである。

国家労使関係調整三者会議の概要は以下のとおり。

1 国家労使関係調整三者会議の成立

国家労使関係調整三者会議(以下「国家三者会議」と略)が2001年8月3日、成立のための第1回会議を北京市で開催した。王東進労働社会保障部副部長、孫宝樹中華全国総工会書記処書記、張彦寧中国企業連合会・中国企業家協会理事長及び関係者31人が参加した。

国家三者会議の設立の目的は、三者の相互理解を促進し、有効的に労使関係を調整し、労使関係を協調的で安定化したものにし、改革の安定的発展に役立つものにすることである。具体的な機能は、社会主義市場経済化の中で、政府、工会、企業の三者が、共同で全国的な労使関係調整事業を実施する機関である。

2 南京会議の影響

2001年11月、労働社会保障部、国家経済貿易委員会、中華全国総工会、中国企業聯合会/中国企業家協会は、南京で「労働法、工会法を全国的に完全実施し、集団労働契約事業を推進する経験交流会」を開催した。この会議は通称『南京会議』と呼ばれる。

南京会議は、張左己労働社会保障部長が、主催したもので中国の労使関係調整事業が新たな段階に入ったことを表すものだった。三者会議で、労働社会保障部が政府を代表し、中華全国総工会が労働者を代表し、中国企業聯合会が使用者側を代表することが決められた(注1)

三者会議は、当面の重点事業を次のように決めた。

  • 省政府でも政労使三者調整機関の設立を推進し、合理的な労使紛争調整の手続きを制定する。
  • 各級の三者協議機関は、各級政府に対し、労使関係の政策、法律、規則を立案するよう働きかけ、労使関係の矛盾を解決し、労働者と社会の安定をもたらすよう努力する。
  • 労働法、工会法の完全実施と集団労働契約の普及により、労使関係を安定させる。

この会議では集団労働契約の普及が特に重要視され、以下の重点事項を定めた。

  • 全ての企業が、平等協議と集団労働契約制度の実施をするよう指導する。
  • 企業に対して、全ての企業に労働問題が存在すること、平等協議と集団労働契約制度は、労使関係を調整する上で重要な手段であり制度でもあることを認識させ、企業が、この2つの制度を実施するよう指導する。
  • 賃金問題を、集団協議と労働契約制度の重要項目とする。
  • 労働問題の核心を把握し、重要な問題を平等協議や集団労働契約の重点項目にするよう指導する。

3 国家三者会議の組織内容

国家三者会議は、労働社会保障部の代表が主席を占め、中華全国総工会と中国企業聯合会/中国企業家協会の代表者がそれぞれ副主席を占めるが、代表者の他に各組織の関係者が国家三者会議に参加する。国家三者会議の事務局は、労働社会保障部労働賃金司に設置され、労働争議の調整や全国会議開催の業務を行っている。

4 国家三者会議の責務内容

主な責務は、次の事項である。

  1. 経済体制改革の政策と経済社会発展計画が労使関係に与える影響について研究し、政府に意見と建議を提出する。
  2. 各地の労使関係の調整事業の状況と問題を把握し、全国的な労使関係の状況と趨勢を分析し、全体的な傾向と重要問題を迅速に把握する。
  3. 労使関係を調整する法律、法規、規則、政策の実施状況を監督し、政府に意見と建議を提出する。
  4. 地方政府の三者調整機関の設立し、そこを通じて労使間の集団労働契約の締結に対し指導と調整を実施する。地方の典型的な労働争議調整結果を中央に報告させる。
  5. 幾つかの地域を跨る問題、或いは全国に影響を与えうる大規模な労働争議や群集的事件に対して調査・研究を進め、意見と建議を提出する。

5 国家三者会議の調整内容

国家三者会議は、次のような項目に対して調整を実施する。

  1. 労使間の平等協議、集団労働契約制度の実施協議。
  2. 企業の組織改革の中での労使関係の再構築。
  3. 企業利益分配に関する労使間協議。
  4. 最低賃金、労働時間、休憩時間、安全と衛生、女性労働者や未成年労働者に対する特別な保護、福利厚生、技術研修などに対する実施基準の協議。
  5. 企業における労働争議の予防と処理。
  6. 工会の組織化や民主的な組織作り。

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