労組所有の保険会社ウリコ社で労組幹部が不正株取引との調査結果

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年6月

労組が所有、運営している保険・金融会社ウリコ社で、一部の取締役が同社株の不正取引で利益を上げ、同社に保険料を支払っていた組合員などに損失を与えたのではないかとする疑惑が高まっている。労組は、エンロン社などで起きた粉飾決算などを批判し、経営責任の明確化を求め、企業統治改革キャンペーンを展開している。しかし皮肉なことに、多くの労組幹部が取締役として経営に関与している会社が、改革の必要に迫られている。

ウリコ社は、生命保険、傷害保険、損害保険など各種の保険、金融サービスを行っており、株主は労組と労組の年金基金である。その取締役会は、労組の現幹部、引退した幹部で構成されている。取締役の半分近くは建築業界関係者で占められており、取締役会に対し、ロバート・ジョージン会長(アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)の元建築業部門部門長、1974年~2000年)が大きな影響力を持っている。

ジョージン会長は1999年に費用を追加計上する直前に、同社取締役に同社株を一株54ドルで購入するように奨めた。株価は一時146ドルまで上昇した後、下落した。同社株は公式に公開されておらず、一年に一度新たな価格がつく。取締役会は、同社株の再評価額が71ドルに下がっていることを知りながら、2000年に一株146ドルの高値で買い戻すことを決定した。しかし、この買い戻しプランは、全ての株主に提供されず、経営陣だけが利益機会を得ていた。中でもジョージン会長が最大の利益を得ている。

ウリコ社取締役の行った株取引について、司法省、労働省、証券取引委員会、メリーランド州保険行政当局による調査が本格化し始めている。連邦大陪審は、同社取締役に証拠書類の提出を命じ、事実究明のために証言するよう求めている。これに加え、下院の教育・労働委員会は、ウリコ社の経営陣が行った株取引について公聴会を予定している。

ウリコ社における経営陣の株取引は2002年春にマスコミで取り上げられた。ウリコ社は、同社取締役でもあるジョン・スウィーニーAFL-CIO会長の強い要請を受け、前イリノイ知事ジェームズ・トンプソン氏と同氏が経営する法律事務所に調査を依頼した。調査報告書は2002年11月に提出され、2003年4月にようやくウリコ社株主に公開された。報告書によれば、犯意があるという証拠は得られなかったものの、ウリコ社役員や取締役がおそらく間違いなく不適切な行動をし、ウリコ社の株主の利益を損ねた。株取引で同社経営陣が得た利益は560万ドルに上る。

調査報告書は、ロバート・ジョージン取締役会会長を特に批判し、株取引や取締役の報酬に関する情報を公開していないとしている。同会長は、何カ月間も同調査報告書を株主に公開することを拒否し、政府の同報告書入手を拒んで法的に抵抗していた。

調査報告書は、取締役会を小規模にし、経営内容に関する説明責任を果たすよう提言している。また、取締役に対し、株式買い戻しプランを通じて得た利益を返還するよう求めているが、2003年4月中旬までに実際に返還した取締役は少数にとどまっている。

ジョージンCEOに集まる批判

2002年11月にトンプソン氏の調査報告書が提出された直後、株主に内部調査の内容を公開しないという同社の方針に、3人の取締役が強く反発し、取締役を辞任した。辞任したのは、アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)のジョン・スウィーニー会長、リンダ・チャベス・トンプソンAFL-CIO副会長、フランク・ハンリー国際エンジニアリング労組会長の3人で、3人は株取引はしていなかった。3人が辞任した理由は、調査報告書の内容を株主、すなわち多くの労働組合員と共有できないならば、労組幹部としての責任を果たすことができないというものであった。

さらに2003年3月初め、ウリコ社のジョン・グレル最高財務責任者(CFO)は、同社経営陣が経営健全化に真剣に取り組んでいないとジョージン取締役会会長らを批判し、CFOを辞任した。グレル氏は、具体的な健全化計画なしでは、同社は遠からず経営破綻に追い込まれる可能性があると述べた。同社は保険事業で営業赤字を出しているほか、他の数部門でも多額の赤字が発生している。グレル氏によると、経営建て直しのための方策を提言したが、そのほとんどが無視された。

2003年4月、ゲッテルフィンガー全米自動車労組(UAW)会長は、ミシガン州で行われたAFL-CIOの集会で、ウリコ社のジョージンCEO兼取締役会会長の辞任を要求した。ゲッテルフィンガー会長は、ウリコ社取締役が違法取引で得た利得を返還し、ジョージン会長が辞任するよう決議することをAFL-CIOの州組織に呼びかけた。アンドリュー・スターン国際サービス労組(SEIU)会長など他の労組指導者も同様な呼びかけを行っている。こうした批判をかわすため、2003年4月23日、ジョージンCEO兼取締役会会長は取締役会会長を辞任する意向を示したが、CEOからは退かないとしており、批判されている。