ユナイテッド、アメリカン航空で人件費大幅削減の新協約

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年6月

既に経営破綻し再建中のユナイテッド航空で大幅な労働コスト削減が行われた。ほぼ並行して協約交渉が進行していたアメリカン航空各労組は、ユナイテッド航空の状況を参考にして、労働条件の引き下げに応じて経営破綻を回避した方が従業員の犠牲が少ないと考え、4月25日に新協約に合意した。

ユナイテッド航空

2002年12月9日に経営破たんした米ユナイテッド航空の持ち株会社UALは、破産審査裁判所のもとで会社更生手続を進めており、全労働費用の36%にあたる年25億6000万ドルの経費節減を目指して労組と協約交渉を行った。UALは、もしも労組が自主的に譲歩しないならば、現協約を破棄できるように裁判所に求めており、これを背景に労組から譲歩を引き出している。

UALは2003年3月27日、パイロット労組(ALPA)と6年協約に暫定合意した。年11億ドル、6年で66億ドルの経費節減効果がある。8200人の組合員は4月にこの協約を承認した。協約は2003年5月1日に発効し、2002年末の水準に比べ30%賃金を削減する。パイロットの賃上げは2006年まで凍結され、同年以降は年1.5%の賃上げが実施される。ユナイテッド航空によれば、大幅賃下げにより、これまで大手6社の平均を20%上回っていた同社パイロットの賃金水準は、平均を15%下回るようになる。

パイロットを対象とする新協約は、同社による年金拠出額を引き下げ、休暇日数削減、運航時間の延長を定めている。その見返りとして、従来通り、UALの取締役会にパイロット代表者の席が確保された。さらにパイロットは利益分配制度に参加し、2005年以降の税引き前利益率8%を達成した場合、分配金を受け取ることができる。

客室乗務員労組(AFA)および運航管理者を組織する労組は4月初めに6年暫定協約を締結した。これらの協約は、合計で年3億ドル以上の経費節減を実現する。これとは別に、同社ホワイトカラー、管理職は年3億3400万ドルの労働コスト削減に応じている。

組織化された労働者の中では最後に、国際機械工労組(IAM)に属する整備士は4月11日、6年間で20億9000万ドルの労働コスト削減に相当する6年暫定協約を締結した。IAMによれば、暫定協約では賃金が13%削減され、給付も引き下げられる。この協約に関する承認投票は4月29日に実施され、IAM組合員が新協約を承認した。同社は、全ての労組から、総額年25億ドルの譲歩を得ることに成功し、債権者からの追加融資を受けることが容易になった。

アメリカン航空

アメリカン航空の親会社AMRは2003年3月31日、主要3労組と暫定協約合意した。これら3労組の組合員は、暫定協約承認投票を行い、4月16日には3労組とも承認したため、連邦破産法第11章による会社更生手続を回避できるように思われた。しかし、客室乗務員組合(APFA)員の投票直後、経営陣が高額の慰留ボーナスを受けていたことが明るみに出た。この事実を経営陣が公開していなかったことに労組は反発、投票のやり直しを求める労組もあった。同社は、協約内容を譲歩し、さらに労組と交渉を続けた。土壇場になってカーティーAMR社取締役会会長兼CEOは引責辞任、4月25日までに3労組から新協約への同意を得て経営破綻を回避した。

アメリカン航空は、他社に比べ、ビジネス客依存度が高く、IT部門の不振に直撃された。アメリカン航空の労働コストは、単位労働費用(1座席を1マイル移動させるごとにかかる費用)がUSエアウエイズ社に次いで2番目に高く、ユナイテッド航空より2%、コンチネンタル航空よりも32%高い。便数が過剰であることが低い効率性の一因である。同時多発テロでアメリカン航空機がハイジャックされたことが客離れを加速させている。ごく最近ではイラク戦争や重症急性呼吸器症候群(SARS)のため、旅行客が減少している。

2003年3月31日に暫定合意されていたリストラの内容は、賃金削減、ワークルールの変更、数千人にも上る解雇であった。合計年18億ドルの労働コスト削減となり、破産審査裁判所が関与しないリストラとしては異例の規模の労働条件の引き下げを労組が受け入れた。

同社のコスト削減の約半分は給与引き下げで、残り半分は解雇などによって実現する。パイロットはより長時間運航することで生産性を上昇させる。2001年にはパイロットの1カ月間の平均運航時間は、アメリカン航空39時間、ユナイテッド航空36時間、コンチネンタル航空49時間、サウスウエスト航空62時間と大きな格差がある。

1万3500人のパイロット労組(APA)が譲歩した金額は、年6億6000万ドルである。しかしユナイテッド航空パイロットが年金も削減されるのに対し、アメリカン航空パイロットは年金給付を削減されない点が大きく異なる。

客室乗務員労組は、賃金15.6%削減、給付、ワークルールの変更などで毎年3億4000万ドルの譲歩をするように要求されている。他の労組もほぼ同率の譲歩を求められ、属する労働者グループによって、賃金削減率は2003年5月1日より16%~17.5%(ただしパイロットの1年目は23%削減、2年目以降は17%削減)である。

整備士、手荷物取扱係、地上勤務職などが所属する運輸労働者労組(TWU)の組合員はあわせて年6億2000万ドルの譲歩に同意した。

AMRでは2003年4月15日、各労組の幹部が合意した暫定協約に対する組合員の投票が行われた。客室乗務員労組では、投票の方法に不備があり、再投票が行われたが、3労組とも賛成多数で承認した。労組幹部は、経営破綻した場合には、労働条件の悪化と解雇者の増加が避けられないとして、協約を承認するよう組合員に促していた。経営陣も歩み寄りを見せた。組合員からは6年間の協約は長すぎるという苦情が上がっていたため、投票開始までに、協約期間を4カ月間短縮した。また、業績回復した場合に従業員が報われないという意見に応え、AMRの格付けが元通りになるまで改善した場合には、最高で年4.5%のボーナスを約束した。

経営陣への慰留ボーナスに労組が反発、修正案提示へ

ところが、投票直後、AMR社が、経営陣には慰留ボーナスや年金保証のための基金を新たに設けていたことが明らかになり、労組は経営陣に裏切られたとして強く反発した。慰留ボーナスは2005年まで取締役が同社にとどまれば基本給の2倍のボーナスを支払うというもので、優秀な人材の流出を危惧したものである。労組は、これらの厚遇を撤廃するよう要請した。これに対し、4月25日、カーティーAMR社CEOと6人のアメリカン航空取締役は慰留ボーナスを返上すると発表した。しかし、撤回する上での技術的な理由もあって年金支払保証は実施されることになった。

カーティーAMR社取締役会会長兼CEOは労組に対して過ちを犯したと謝罪、この問題の責任をとって4月24日に辞任を発表した。AMR社は、協約承認再投票を主張した3労組に対し、協約内容の改善を打診した。修正案では当初6年協約であった協約期間を5年に短縮、次回交渉が2006年にも開始されることになった。加えて、従業員は、既に合意されていたストック・オプション付与、利益分配制度参加に加え、財務目標、あるいは正確な発着時刻など業務上の目標の達成度に基づいて最高10%のボーナスを獲得した。

3労組全てがリストラ案に応じなければ経営破綻する運びであったが、3労組は4月25日までに同案に合意し、経営破綻を免れた。AMR社新CEOには財務部門出身のアーぺイ氏が就任した。

航空業界労働者の失業給付期間延長

議会は、イラク戦争に関連した総額800億ドルの政府支出を行う法案を4月中旬に成立させた。航空業界は、2003年春に24億ドルの補助金を現金で受け取り、2003年夏には連邦保安費用を減免される(5億2000万ドル相当)。また、航空業界の労働者に対し、通常よりも26週間長い失業給付を提供することになった。この他、戦争リスク保険を1年間延長することなども含め、航空業界支援のための長期的な費用は、総額で38億ドルとなる。

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