ハンガリー/全国労働調停仲裁サービスの活動の概観1996~2001年

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年4月

1996年夏、労働調停仲裁サービス(ハンガリー語で"Munkaugyi Kozvetitoi es Dontobiroi Szolgalat")と呼ばれるLRS機関が新設され、労働組合・使用者間の労働争議の解決を目指している。この機関は、IRC協定を基礎とし、IRCの監督の下に独立機関として機能している。

「全国労働調停仲裁サービス」(ハンガリー語で"Munkaugyi Kozvetitoi es Dontobiroi Szolgalat"、以下MKDSZ又は「本サービス」と略す)の1996年から2001年までの活動の評価にあたり、MKDSZの管理者の評価および労使関係者のMKDSZに対する役割と成果の評価が興味深い。以下、これらの評価を紹介し、将来の展開についてのMKDSZの提案を示す。

MKDSZのスタッフによるその成果の評価(MKDSZの活動の自己評価)

MKDSZの設立(1996年)後、この機関は、依頼者並びにMKDSZの仲裁過程の内容と提案を体系的にフォローする「標準データ収集システム」を作成し、使用している。この関係で、本サービスは、対立の最も重要な特徴に関する(月次および年次の)「統計登録」を利用し、それにMKDSZも参加している。1998年以降、この登録システムが個人請求を含むようになったことは注目すべきである。1998年から2001年の間に、MKDSZに対する問い合わせ又は請求の件数は1500から1800であった。こうした請求の大半は、個人的苦情、単なる求人情報であった。後者については、個人が「労働サービス」という用語を誤解し、その多くが求職又は雇用についての援助を期待して本サービスを利用しようとした。本サービスに問い合わせする人の大半は、どの機関(例えば地域労働市場センター、労働安全監督局)が、労働情報やコンサルティング、苦情に対応するのか知らなかった。従業員だけでなく、使用者もMKDSZの活動について十分知らない。MKDSZのサービスを利用しようとする個人の大半が中小企業に雇用されているため、労働組合や労働協議会(WC)が活動していないのだ。どちらの組織もないので、従業員が個人的にMKDSZのサービスを求めるのである。1998年以降、書面による個人請求は、本サービスにより登録された。

次表は、MKDSZが扱った問題の主な性格を示している。

表1 全国労働調停仲裁サービス(MKDSZ)の扱った問題の種類(1996~2001年)
問題 1996 199 1998 1999 2000 2001 2002 合計
労働争議 26 21 13 3 12 11 93
労使関係の改善 2 4 3 5 1 0 0 15
レイオフ 5 6 6 5 1 0 0 23
労働時間と条件 0 3 3 0 0 3 0 9
労働組合とWCの活動 1 9 5 4 4 6 2 31
条件  
団体協約 4 9 8 3 1 1 34
社会福祉 1 3 3 1 5 2 2 1
個人的問題 2 4 2 3 5 30

表1のデータを見ると、労使間の論争又は対立の大半は、「団体労働争議」(例えば労働争議、労使関係の改善、労働組合とWCの活動条件)である。労働争議に注目すると、その内容の順位は以下のとおりである。

  1. 賃金に関する労働争議
  2. 団体協約に関する争議
  3. レイオフに起因する対立

MKDSZが関与した比較的少数の「事件」(1996年から2001年までに合計200未満)は、ハンガリーにおける労使対立の問題、より正確には労使対立の顕在化又は定式化を提起し、企業における職場対立の「潜在性」を示している。ハンガリー労使関係における労使対立の規制についてのMKDSZの役割を理解するため、本サービスは、競争的分野の150の企業のサンプルについて調査を行った。次項は、本調査の主な結果を示している1。

MKDSZの活動調査の教訓

「全国労働調停仲裁サービス」(MKDSZ)の活動調査は2001年に行われ、「MKDSZの調停仲裁サービスの利用が少ないのはなぜか?」という主な疑問があった。これに対して調査の中で明らかになった理由は以下のとおりであった。

a) 従業員が、労働に関係する対立を明らかにしたくない。レイオフのおそれや将来使用者から差別されるかも知れないからである。

b) 使用者は労働関係に対して中立的態度を取り、労働組合を重要な社会的パートナーとして扱わない。彼らは、職場の労働組合が弱い方がよい。

c) 労働組合は戦闘的でなく、MKDSZを利用することはその弱さを示す。彼らにとっては、MKDSZの利用は職場での労働争議の解決について労働組合の弱さを示すことになる。

d) MKDSZの活動は余り知られておらず、他の機関が労使対立の解決に参加し、対立の解決は個別的で非公式な規則に規制されている。表2は、産業別に回収されたアンケートの割合を示している。

表2 MKDSZが回収したアンケートの産業分類
分野 アンケート件数 アンケートの割合(%)
農業 3 5.5
鉱業 0 0
食品、飲料、タバコ 10 18.2
繊維、衣料および革製品 5 9.1
木材、紙、印刷 1 1.8
石油、科学、タイヤ 5 9.1
他の非金属原料 2 3.6
金属製造 3 5.5
機械産業 5 9.1
その他製造業 2 3.6
エネルギー、水道 12.
建設 0 0
ホテル 0 0
小売、自動車 4 .3
運輸 5 9.1
郵便および通信 1 1.8
金融 0 0
その他サービス 1 1.8
小売業 1 1.8
合計 55 100

63のアンケートのうち、分野が分かったのは55のアンケートだけだった。つまり、八つの企業が分野を書いていなかった。ほとんどの回答企業(92%)の労働組合書記および従業員代表は、MKDSZの活動についてすでに知っていると述べている。その約3分の2が、「調停人」の全国リストをよく知っており、5分の2(42%)が本サービスの規則も知っていた。本サービスの活動を知っている労使相互が、「マスメディア」からの情報に頼っているのはやや驚きである。第二の情報源は様々な訓練・再訓練コースであり、第三の情報源は労働組合であった。回答者の10分の1(13%)は、本サービスの情報源が使用者であると述べている。

労使間の労働争議に関する調停および仲裁に本サービスの専門家が関与した少数の事件との関係で、回答者の3分の2(63%)が過去5年間労働協約に関する労働争議がなかったと回答したことを述べておく必要がある。過去5年間の主な労使対立は1件だけと回答した企業は9%にとどまり、過去5年間の労使対立が10件を超えたのは三つの企業だけであった。調査期間中、企業の大半は進行中の利益対立および交渉について報告しなかったことは注目すべきである。

こうした情報は、団体協約によって労使間の職場対立が規制される企業において、論争件数はきわめて少ないということを示している。本サービスの調停仲裁活動に対する請求件数が少ない理由として、他に以下のようなことが挙げられる。労働協約を結んでいる企業は、その枠組みの中に「対立解決の仕組み」を含んでいる。このパターンを示すものとして、回答企業の4分の3が現在の労働協約が労使対立の場合の必要な仕組みと「第三者」の援助を利用する方法を含んでいるとしている。回答者の5分の1(19%)は、対立解決に「本サービス」の援助又は関与を利用するのは、直接交渉又は「運営委員会」の援助によって妥協を見いだせない場合だけであると回答している。

公表される労働争議の数が少ないのは、ハンガリーだけでなく、国際的傾向である。OECD諸国で行われた国際労働事務所(ILO)の調査によれば、過去20年間に労働争議の数は減少し、その原因としてグローバリゼーションの進展と、それに伴う従業員の継続的失業圧力が挙げられ、労使関係の個別化もその一因とされている。

過去5年間、ハンガリーにおけるストライキその他の争議行為の数が減少したことも注目すべきである。例えば、1996年から2000年までに、我が国で9件のストライキがあり、そのうち4件がハンガリー鉄道会社で発生した。2時間の「警告ストライキ」が16件あり、本サービスの従業員は、「ストライキ委員会」の設置又はストライキ対処に関する情報を30件集めた。

MKDSZの将来の活動

職場労使対立調整におけるMKDSZの役割の質と重要性を改善するため、次のような変更が望ましい。

  • 職場対立の原因の共通解決策を通じた「予防的調停および仲裁」
  • 労使双方の教育訓練への参加。MKDSZには訓練委員会があり、教育パッケージの開発や、教育訓練への参加が期待できる。
  • 新しいサービスの開発。例えば、法的個別労働紛争への参加。ただし、国会の決定を必要とする。
  • 現在「仲裁」に関する法的規則はない。現在の「調停」の実務においては、本サービスの調停機能により作成された労使協定は、両者の署名を必要とする。法的に認められた「仲裁」の場合には、係争関係者に対して仲裁人が決定を下す。しかし、仲裁人の法的地位を変更するためには、ハンガリー労働法の改正が必要となるだろう。
  • 何点かのMKDSZの法的地位の変更。先ず、現在の機能を維持すること。全国リストに掲載されている調停人と仲裁人は常勤でなく、紛争毎に参加している。本サービスは法的自律性を持っておらず、独自の予算がなく、本サービスの事務局長は雇用政策労働省の一単位である。第二には、調停仲裁組織を現状維持とするが、本サービスを法的に独立させ独自の予算をつける。

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