外資系企業の労使問題の現状

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年4月

  中国に進出している外資系企業の労使関係は、全般的には双方協調的で、比較的安定しているが、近年、進出企業の増加に伴い、一部の外資系企業おいて、様々な労使紛争が発生し始めている。

労使関係の現状と問題

(1) 労働契約上の問題

労働者は、市場経済化の中で、安定した地位を確保するには、労働契約が基礎となる。しかし、現状では、全ての外資系企業が書面で労働契約を交わしているわけではない。

  1. 労働契約の未締結

    一部の外資系企業は、人件費を圧縮するために、不法に出稼ぎ労働者や児童労働者を雇用し始めている。このような場合は、多くは、労働契約は未締結である。その結果、使用者側は、法定休息時間を削減したり、各種社会保障制度に加入させない場合が多い。また、技術的に高い企業であっても、企業の技術開発に対する投資を重視し、人件費を不法に圧縮する事例が出ている。このような企業は、労働者の使用期間を短期化したり、口頭で試用期間を決め、使用者側の有利なように雇用条件を決めている。

    出稼ぎ労働者や技術的に劣っている労働者は、労働契約の締結要求を言い出せずにいる。一方、技術が高く職歴も豊富で、従って高収入を得ている労働者であっても、労働契約に関する知識が乏しく、結果的に、労使間で賃金紛争が発生する場合も生じている。

  2. 不平等な契約内容

    外資系企業の中には、政府の行政指導を聞き入れ書面で労働契約を決めてはいても、契約内容を故意に曖昧にし、使用者側に有利なように取り決めている場合もある。

    また、労災に関する規定などを使用者側に賠償責任が課されないように取り決め、明らかに労働法に違反する内容になっているものもある。

(2) 社会保障制度加入に関する問題

政府は、労働法第9条において、使用者側が労働者を各種社会保険制度に加入させ、保険料を納入する義務があることを定め、また、労働法第3条において、労働者が、退職、傷病、労災、失業、出産において、法に基づいて各種保険の恩恵を受ける権利があることを明確に定めている。

しかし、一部の外資系企業の中には、人件費を圧縮するあまり、労働者の各種保険加入を故意に送らせている場合や長期的に未加入のまま雇用する企業が出始めている。

(3) 労働基準に関する問題

政府は、1993年より外資系企業の労働者の雇用に際し、労働基準を遵守するよう指導してきた。特に、労働集約型の工場においては立ち入り検査などを実施してきた。しかし、近年、非常階段などの防災施設を整備せずに、非常に混雑した労働環境の中で就労させて事故が発生している。

労使紛争の原因

労使紛争の原因は、以下の3つに集約される。

(1) 一部の小企業の経営方針によるもの

一部の外資系企業は投資資本を可能な限り早期に回収することを計画し、労働契約を企業側に有利なように故意に取り決める傾向が見られる。こうした経営者は、中国の供給過剰の労働市場では、労働者側から労働契約の改善要求が言い出しにくい事情を熟知している。

最近の、中国企業連合会の調査によると、大企業では、長期的な計画に基づいて投資しているため比較的労使関係が安定しているが、小企業においては、投資資本の回収を急ぐあまり、労働契約が不平等に決められ、結果的に労使紛争が発生しているケースが出ている。

(2) 労働者自身の意識に起因するもの

外資系企業の労働集約型企業で就労する労働者の学歴は、高卒の場合が多い。そうした労働者は、労働法に対する知識が非常に低い。また、労働者は、長期に同じ職場で就労しようとする意識は低く、賃金以外の雇用条件に無関心なものが多い。

(3) 法律や政策の不備によるもの

現行の労働法は、市場経済に十分対応できるものに整備されていない。このため、先進国の労働法に比較し、未熟で必ずしも悪質な使用者を摘発できるようになっていない。

また、政府の運営する各種社会保険制度にまだ不備な部分が多いため、数十年後に本当に養老年金を受けられるのかどうか不安を抱いている労働者もいる。このため、労使のとり決めで政府の社会保険制度への、加入を拒否し商業保険に加入する事例も出ている。

 また、開発の遅れている地方政府は、企業誘致を重視するあまり、外資系企業の行政指導を緩和している事例が出ている。こうしたことも労働者に不利な環境を作り出している。

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