2002~2003年の賃金動向:最低賃金引き上げと昇給率の変化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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米系人材コンサルタント会社のヒューイット・アソシエイツ・タイランド(H・A・T)の報告書によると、2002年の平均賃金上昇率は6.2%で、前年より0.5ポイント下回っていることが明らかとなった。また2003年1月より、最低賃金も1都31県で引き上げられた。

ホワイトカラーの賃金動向

H・A・Tの報告書は、58のサービス業、63の製造業、7つの多国籍企業、計128社を対象に行われた調査からまとめられている。各分野の賃金の変化は下表の通り。

2001年に大きく賃金率を伸ばしたコンピューター業界は、2002年度でも若干の減少となったものの10%という伸び率を保った。

一方、最も伸び率が低かったのは厳しい経営状況を反映した金融・銀行業界で4%となっている。

表1:賃金上昇率の変化(2001-2003年)
分野 2001年 2002年 2003年
(予想)
化学 6.2 5.5 6.4
コンピュータ 13.4 10.1 9.3
耐久消費財メーカー 5.2 5.8 5.7
非耐久消費財メーカー 7.7 5.2 5.7
電気 7.1 5.6 6.0
金融・銀行 6.4 4.0 3.9
IT 11.0 5.7 5.9
小売・卸売り 5.3 5.4
通信 7.5 5.9 6.3
平均 7.7 6.2 6.4

出所:ヒューイット・アソシエイツ・タイランド

また、タイでは毎年12月に支給されるボーナスがあり、その平均額は下図の通り。平均賞与額は2.36カ月分で、1999年以降の緩やかな増加をたどっている。

図:平均賞与額の推移(1999-2002年)
平均賞与額の推移(1999-2002年)

出所:パーソナルマネージメントアソシエーション・タイランド

業種別では、繊維産業が約6カ月分で最も高く、病院業や輸送業などは最も低い約1カ月分にとどまっている。

2003年の賃金動向

H・A・T社の予測によると2003年度の賃金の変化は、緩やかな上昇傾向になると見られ、平均で6.4%程度の上昇と予測されている。

また2003年の経済成長率も、民間・公的機関ともに、3.6~4.8%との数字を挙げており、経済回復基調とともに賃金情勢も好転すると見込まれている。

最低賃金も1都31県で引き上げ

一方で、ブルーカラーの賃金の基礎となっている最低賃金も、2003年1月より1~8バーツ引き上げられた。この結果、最低賃金の最高額は、バンコク大首都圏の169バーツ、最低額は中部・北部・東北部・南部の地方で採用されている133バーツ(2001年より据え置き)となった。

今回の引き上げでは、主にチョンブリやラヨンといった東部臨海工業地帯での引き上げが目立った。

表3:県別最低賃金上昇率一覧(2003年1月引き上げ分)

都・県名 引き上げ額
(バーツ)
新最低賃金
(バーツ)
バンコク・ナコンパトム・サムットプラカン・パトンタニ 4 169
ノンタブリ 2 167
チョンブリ 4 150
サラブリ 5 148
ナコンラチャシマ 2 145
ラヨン 8 141
アユタヤ 6 139
クラビ 5 138
ランプ-ン・スコータイ 4 137
ブリラム・ペッチャブリ 4 136
カンチャナブリ・カラシン・カンペンペット・チャンタブリ・チュンポン・チャイナート・トラート・ナコンパノム・ナラティワット・プラチンブリ・ペッチャブン・ラチャブリ・ソンクラー・シンブリ・スラタニ・ノンプアランプー・ウダイタニ 2 135
ナコンヨック 1 134

出所:Bangkok Post、2002年12月20日

最低賃金引き上げ後の影響

最低賃金引き上げによるインフレへの懸念に関しては、バンコク銀行のコシット代表がそれを否定。同代表は、インフレの懸念よりも労働生産性の向上なしの最低賃金の引き上げが生産コストを高める要因になると警告している。そして、最低賃金の引き上げが不法就労者のへの需要が高まる危険性も示唆した。

国家経済社会開発局は、2002年のインフレ率は0.5%程度で、2000年、2001年の1.5%よりも低い数字となった旨発表した。また、2003年は約1.5%程度と見込まれている。

識者の中には、現行の都・県別の最低賃金決定方式ではなく、業種別での賃金制度の方が望ましいのではないかと主張するものもある。例えば、労働集約産業であるテキスタイル、縫製、皮革、食品加工業の経営者団体らは、同産業が賃金の上昇に非常に大きな影響を受けるため、産業別最賃設定の必要性を強調している。また、以前から危惧されている中国やベトナム、インドネシアなどへの生産のシフトも加速する危険性がある。

一方で、ここ数年は一部の県でのみ実施されてきた最低賃金の引き上げが、1都31県で実施されたことで、経済が上向きになってきたとする見方もある。

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