住宅事業と建設産業

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

2002年を通じて新築不動産物件の価格は14.7%上昇し、過去5年間における新築住宅価格上昇率は66%に達した。中古住宅の価格上昇は2002年で18%、過去5年で75%と、新築住宅を上回っている。スペイン銀行の調査によれば、100平米のマンションの価格は98年には労働者の賃金4年分相当であったが、2002年には5.6年分となっている。住宅価格が高騰する一方、全住宅の15%にあたる300万件近くの住宅は空家である。つまり、住宅は消費財だけでなく、明らかに投資の対象となっているのである。

80年から2001年にかけて、スペインにおける住宅平均価格は7倍になり、実質上昇率は125%となっている。この間スペインにおいては、住宅への投資が株式投資よりも収益性が高くなっている。例えば米国の場合で見ると、同時期において有価証券市場は住宅価格より5倍も上昇している。

1980~2001年の国別に見た住宅平均価格と上昇率(%)
画像:グラフ1

出所:「エコノミスト」誌及びOECDのデータ

スペイン経済における建設部門の重要度は、雇用面でも見られる。建設部門の労働者は95年には70万人足らず、賃金労働者の7%だったが、2002年には200万人の労働者、すなわち就業人口の12%を雇用するにいたっている。94年以来、建設部門は雇用成長の主役となっており、工業及びサービス部門における雇用増がこの間20%前後であるのに対し、建設部門では実に50%を越えている。

1994~2002年の部門別に見た雇用成長率
画像:グラフ2

出所:国立統計庁

建設部門における雇用には、以下のような特徴が見られる。

  • 男性労働者が非常に多い。
    建設部門で働く労働者の95%は男性である(工業及び農業では75%、サービス部門では51%)。建設部門に おける女性労働者数は76年よりほぼ3倍に増えているが、それでも10万人に達しない。
  • 年齢が若い。
    建設部門における労働者の15%は25歳未満で、就業者全体における11%を上回る。一方55歳以上の労働者は10%のみで、他部門と比べもっとも低い値となっている。
  • 賃金労働者が少ない。
    建設部門労働者の20%は自営で、工業及びサービス部門と比べ非常に高くなっている。また過去20年間で賃金労働者の割合が85%から80%へと減少しているのも、他部門と異なる点である。そればかりでなく、雇い主無しの自営労働者の55%は、自分もまた他の労働者を雇用していない。
  • パートタイム労働がきわめて少ない。
    建設部門労働者の1.3%のみがパートタイム労働者である(工業では3%、サービス業では10%)
  • 有期雇用率がきわめて高い。
    建設部門労働者の58%は有期雇用契約で働いている(賃金労働者全体では32%)。
  • 公部門労働者がきわめて少ない。
    賃金労働者全体の20%が公部門労働者であるが、建設部門ではわずか1.6%である。これは建設における公共サービスを外注化する傾向によるもので、例えば87年にはこの数値は5%であった。
  • 外国人労働者が多い。
    建設部門における外国人労働者の割合は5.8%で、87年の0.07%から急激に増加している。また工業及び農業の1%未満、サービス業の3%よりも高い。
  • 賃金が低い。
    建設部門の平均賃金は非農業部門全体の平均賃金を15%下回っている。しかしこの差は近年縮小している。これは建設部門における労働力需要増により、賃金が上昇傾向を見せたためである。
  • 労働時間が長い。
    建設部門における労働時間は平均で週39時間で、スペイン全体の平均37.3時間よりも長い。また過去10年間で全体では40分短縮する傾向であったが、建設部門では逆に30分長くなっている。
  • 労働者の回転が速い。
    i建設部門では同じ使用者のもとで6年以上働いている労働者は全体の30%しかいない(賃金労働者全体では46%)。現在の使用者のもとで働いている期間が1年に満たない労働者は34%である(賃金労働者全体では25%未満)。
  • 技能訓練水準が低い。
    コスト面から見ると、職業訓練費は全賃金費用の0.14%にしかならない。全体ではこれより3倍多く0.41%である。
  • 生産性が低い。
    労働条件が不安定で低賃金であるにもかかわらず、建設部門の労働者1人あたり生産性は平均の95%にしか達していない。この値は95年以降ほぼ変化していない。
  • 労災が多い。
    建設部門は労災がもっとも多い部門で、平均の2倍となっている。年間、労働者10人のうち1人は何らかの事故を経験している。
活動部門別に見た労働者1000人に対する事故欠勤数(2001年)
燃料物質 336.3
機械設備建設 323.8
非燃料物質採掘 145.7
建設 131.8
ゴム・プラスチック加工 119.4
平均 60.1
ホテル業 55.4
商業 49.8
繊維・縫製業 39.5
農業・畜産業・狩猟・林業 38.0
公共行政・国防・社会保障 37.1
教育 7.2
金融仲介業 5.7
家事労働 1.1

他の部門と同様、労働者当たりの欠勤を伴う労災件数は92年から30%増えている。

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