消費者物価指数を上回る公務員の賃金引き上げ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

90年代半ばより維持されてきた労組・使用者団体・政府の三者間における対話路線は、失業保障制度改革推進をめぐる政府の強硬姿勢と、これに反対して行われた2002年6月20日のゼネストで破綻したかのように見えたが、夏を経て政府は再び対話回復の意向を示した。その中で政府は、2003年に向けて公務員の給与引き上げ率を消費者物価指数(IPC)以上とする旨提案した(労組組織率が低いスペインで、公務員は労組の力が非常に大きい層である)。これは96年に民衆党(保守派)が政権を獲得して以来初めてのことで、2002年11月7日に2003年の予想インフレ率2%を0.7ポイント上回る2.7%の賃金引き上げで合意に達した。ちなみにインフレ率2%とは政府が2003年予算編成にあたって用いた数値であるが、スペインは最近になってインフレ傾向が目立っており、2002年12月には対前年比で4%に達している。今回の合意ではインフレ率が予想から大きくそれた場合のいわゆる「賃金見直し条項」は含まれていない。

一方、公共行政省はこれと引き換えに公務員側に対し行政サービスの向上などの要求も行っている。具体的には現在のような午前中だけ(一般に8時~14時)の勤務でなく、午後も勤務すべきとしており、郵便局や国立雇用庁(INEM)事務所、警察での国民身分証明書更新手続など、国民の需要が大きいサービスで午後の窓口業務が行われることになる見通しである。お役所仕事といえば「明日また来て下さい」が代名詞となっていたスペインでは、かなり画期的といえる。もっともこれは単に労働時間を延長するというのでなく、実際には各省庁ごとに必要に応じて午後勤務の当番制を定める等の形で対応することになると見られる。

労働市場の柔軟化を大きな目標として掲げる現政権は、もっぱら労働者の転勤・配置転換による人材の最適利用を追及しているが、公務員に対しても同様の条件が求められることになる。転勤へのインセンティブとして、同一の市町村内で勤務先を変える公務員には1200ユーロ、同一県内で転勤する公務員には2400ユーロが支払われることになった。一方、仕事と家庭の両立を助ける目的で、政府は公務員の3歳以下の子供を対象とした保育園建設にも120万ユーロをあてるとしている。

公共行政省は公務員の欠勤・遅刻等に対するコントロールを強め、欠勤の原因を追及してゆきたいとしている。公務員の労働時間は通常週37.5時間であるが、実際にすべての公務員が定時通りに勤務することが目的。これは行政における生産性の向上、サービス改善とも関係するといえる。

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