労働者の人材育成政策を強化
―ITの専門家と海外出稼ぎ労働者

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年2月

ASEAN諸国がアジア市場で最も脅威としている中国経済。これに対抗するための課題は、生産性と品質の向上だ。そのためには、人材の育成、労働者への職業訓練が不可欠となる。以下、人材育成政策の最近の動向を報告する。

中国経済の台頭と国際的な背景

2002年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談では、加盟国の多くが中国経済のめざましい躍進に対して警戒の念を抱いていることを明らかにした。タイの場合は特に、製造業の生産拠点を中国に奪われるのではないかとの恐れがある。すでにタイの労賃が相対的に上昇しているため、中国の安価な製品に対抗するには、価格よりも商品の質や労働者の生産性を向上させ、生産効率を上げることが必要となってくる。

現地紙ネーションとマッキンゼー社のビリンガー博士との対談では、タイが国際市場で競争力を保つには、生産性の向上が不可欠であるとまとめられている。同氏は、タイの労働賃金が上昇していることをうけ、労働コストの比較優位から生産性の比較優位を持つように努力していかなくてはならないことを指摘している。

また同時に、小売業と消費部門の健全化を図ることが重要であり、特に小売業の構造変化と効率性の向上によって、経済的に大きなメリットを発生させることが必要不可欠であるという。小売業の効率化が生産性を引き上げ、イノベーションを起こし、消費財と製造業の成長を促すというわけだ。

「技能開発基金」の導入と人材開発

2003年1月下旬より「技能開発基金」が開始され、従業員は使用者の提供する人材育成訓練制度に積極的に参加することが求められる。経営者は、この基金のために月額給与の1%相当額を積みたてることになっている。この基金に参加する使用者は、従業員訓練のために使われる電気・水道代の無償提供、機械や設備を輸入する場合の輸入税、付加価値税(VAT)の免除といった特典が受けられる。

海外出稼ぎ労働者への人材教育:ベトナムとの競合を想定

タイの競争相手は、中国だけではない。近年、製造業の拠点として力をつけてきているベトナムとの競争も始まっている。特に、海外労働市場での同国との競争が話題に上ってきている。

現在、タイでは約35万人の労働者が海外で出稼ぎを行っており、その6割にあたる14万人が台湾で労働に従事している。各地からタイへの仕送り額は、500億バーツに上り、貴重な外貨獲得源となっている。そのような中で、アジアの国際労働市場においてタイ人労働者の競合相手になるとみられているのがベトナム人労働者である。

ここ数年ベトナム政府は、労働者の海外出稼ぎ政策に非常に力を入れている。2002年の初頭に問題となったマレーシアにおけるインドネシア人出稼ぎ労働者の暴動及びそれに伴う強制帰国の件でも、マレーシア政府はインドネシア人の代わりにベトナム人を雇用すると発表している。

タイ人が海外出稼ぎの際に就労する業種は、主に建設業・土木業・サービス業などが中心であるが、これらの単純作業(配管、配線、溶接)は、アジアの海外出稼ぎ市場において、ベトナム人と競合することが想定される。

そのため、政府もベトナム人との市場競争を意識した、海外出稼ぎ労働者への職業訓練サービスを提供することを決めているが、具体的な対策はまだ明らかとなっていない。

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