労使控訴裁判所の設置へ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年2月

フォン人的資源相は2002年11月8日、労働争議の長期化を防ぐため、労使控訴裁判所(Industrial Court of Appeal)を設置するための協議がが、最終段階に入っていると発表した。

フォン大臣によると、1999年以来、労使裁判所(Industrial Court)に付託される争議件数は約1000件に及んでおり、争議の未決ケースの増大が問題となっていた。99年当時10人しかいなかった判事をこれまでに21人まで増員するなどして対応を図ってきたが、これでも、未決ケースを出さないようにするには各判事が1週間に50件の争議を処理しないとならない。

こうした状況を打開するため、労使控訴裁判所の設置が検討されてきたのだが、実は1996年から97年にかけても同様な経緯から設置案が浮上したことがある。今回の設置案の詳しい内容は明らかではないが、97年当時の案では、労使控訴裁判所が設置されることにより、労使裁判所(Industrial Court)の決定に不服の使用者や労働者は、労使控訴裁判所に上訴することが可能になり、労働争議は、司法制度上の高等法院、控訴院、連邦裁判所の三つの段階を経る必要がなくなる。

解説:マレーシアの労使紛争処理システム

労使紛争は、まず、労使の自主的な話し合いや労働協約の手続きにしたがって解決が図られる。これで解決されない場合、労使いずれかが労使関係局長に調整を申し出、局長が調停に必要な措置をとる(申し出がない場合でも労使関係局長は公共の利益を考慮して調停に乗り出すことができる)。それでも解決しない場合、局長は人的資源大臣に調整を申し出、大臣が調停に必要な措置をとる(局長の調停を経なくても大臣は調停に乗り出すことができる)。

以上の調整手続きによっても解決できない場合、人的資源大臣は労使裁判所に争議を付託することができる。大臣は、紛争当事者の付託申請を受けて、あるいはその権限に基づいて、労使裁判所に付託する。

労使裁判所への付託は人的資源省大臣だけができる(ただし、裁定や認証された労働協約の解釈をめぐる争いについては、その当事者自身も労使裁判所に付託することができる)。

労使裁判所は、法律の専門家である長官と、労使の代表それぞれ1名、合計3名で構成される。付託があってから30日以内に、労使裁判所は公益・国の経済・関連産業への影響を考慮したうえで、裁定を下さなければならない。

労使裁判所から出された裁定や命令は最終的であるから、それをさらに争うことはできない。しかし労使裁判所は法律裁判所ではないため、労使裁判所の手続きにおいて生じた法律問題についてだけは、司法制度上の高等法院に付託することができる。その場合、当事者は裁定が出てから30日以内に、高等法院への付託申請を労使裁判所に提出しなければならない。高等法院の決定は最終的であり、それを争うことはできない。しかし法律問題に関してはやはり、高等法院に対する上訴を控訴院へ、最終的には連邦裁判所へおこなうことができる。

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