産別交渉への移行や「経済自由区法」をめぐる労働界の動向

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年1月

最近、労働界の勢力分布の変化がより顕著になっている。1995年の民主労総結成以来、同労総傘下の組合員数は増加傾向にある反面、韓国労総傘下の組合員数は減り続け、両労総間の組織規模の差は年々縮まっている。それとともに、民主労総系労組を中心に事業所別労組から産別労組体制への転換を図り、産別交渉を試みる動きも広くみられる。そういうなかで、産別交渉への移行をめぐって労使紛争が長引くケースや、「週休二日制関連法案」や「経済自由区法」の制定などを阻止するための労働界の連帯闘争の動きが目につく。以下、最近の労働界の動向を追ってみよう。

民主労総の組織拡大傾向と産別労組体制への転換の動き

労働部が2001年末現在の労働組合の組織状況をまとめたところによると、単位労組および組合員数は、通貨危機後休廃業の急増などで一時急減したが、1999年には早くも増加に転じ、2001年末現在なお増加傾向にある。単組の数は1997年の5733カ所から98年に5560カ所に減った後、2000年に5698カ所、2001年には6150カ所へと増え続けている。また組合員数も1997年の148万4194人から98年に140万1940人に減った後、2000年に152万6000人、2001年には156万8000人へと増え続けている。

ナショナルセンター別勢力分布をみると、韓国労総系組合員数は1995年の110万3000人から2001年には87万7827人(全組合員の56%)に大幅に減ったのに対して、民主労総系は95年の41万8000人から2001年には64万3506人(41%)へと増えるなど、民主労総の組織拡大傾向が相対的に目立っている。

その背景にある単位労組の上部団体変更の動きはいまなお続いている。特に、韓国労総の中核メンバーである鉄道労組(組合員数2万1540人)が11月6日に組合員投票で54%の賛成を得て民主労総への上部団体変更を決めたことで、その波及効果に注目が集まっている。同労組の場合、(2001年に、)1948年の結成以降初めて行われた2001年の委員長直接選挙で、既存の穏健派執行部に代わって強硬派執行部が誕生し、2002年には初めて「公企業民営化反対」の連帯闘争を主導するなど、すでに民主労総への鞍替えを予告するかのような運動路線の転換がみられた。同労組執行部は今回の組合員投票の結果を受けて、「今後政府の民営化計画の撤回と解雇された組合員の復職などを求めて闘争体制を強化していく」ことを明らかにしており、政府の公企業民営化計画をめぐる労政対立の構図はしばらく韓国の労使関係に重い影を落とすことになりそうである。

その一方、事業所別労組から産別労組体制への転換とともに、産別交渉への移行が広く試みられるなかで、それが新たな争点となり、労使紛争が長引くケースが目につく。

まず、労働部によると、2001年末現在産別労組の数は31カ所で、組合員数は47万3000人(全組合員の30.2%)にのぼっている。そのうち、民主労総系単産の金属労組(130カ所の事業所別支部)は11月21日に初めて107社の使用者側代表と産別基本労働協約を締結した。その主な内容は次の通りである。まず、2003年から産別交渉を行うが、そのために使用者側は早期に使用者団体を結成しなければならない。第二に、使用者側は組合費を給与から天引きし、金属労組に一括して渡さなければならない。第三に、同協約は2003年3月まで有効で、その後は1年単位で延長することなど。

しかし、その一方で、金属労組の傘下支部のうち、その規模が最も大きい斗山重工業では、「産別交渉への移行」などをめぐる労使紛争が長引き、11月23日にはついに経営側による「労働協約の一方的な中止」が効力を発する事態に発展するなど、労使交渉は難航を極めている。(注:斗山重工業の前身は発電設備メーカーで公企業の韓国重工業。通貨危機後5大財閥間のビッグディールの一環として三星重工業と現代重工業から発電設備事業が移管され、2000年末には民営化計画の一環として斗山グループに買収された。その後、1200人の雇用調整や人事制度の改革などの構造改革を経て、2001年には黒字に転換した。)

3月から始まった賃上げおよび労働協約改定交渉の際に「産別交渉への移行」をめぐる話し合いが平行線のままであったため、経営側は5月22日に「労働協約の一方的な中止」を通知した。労組側はこれに反発して、ストライキに突入した。ストライキは47日間に及んだが、その責任を問う形で、今度は経営側が労組幹部および組合員80人に対して懲戒処分を行うとともに、給与および財産の仮差し押さえ請求、刑事告発などに踏み切った。(注:「労働協約の一方的な中止」は労働組合および労働関係調整法32条に基づくもの。労使交渉が不要に長引くか、協約の締結がむやみに延期され続ける場合、労使のどちらかの一方が労働協約の中止を通知することができる。通知した日から6カ月後その効力が発生する。これにより、組合活動に関する労働協約上の保障は受けられなくなる)

その後、再開された労使交渉では、「ストライキの責任問題」が新たな争点として浮上したため、話し合いは再びこじれてしまい、結局経営側が「労働協約の一方的な中止」を通知してから6カ月が過ぎても、労使は合意案を見出すことができず、「労働協約のない」異常な状態を招いてしまったのである。

そこには労使間の根深い相互不信が横たわっているようである。つまり、経営側は「1987年以降労使紛争の慢性化で大きな損失を被っているだけに、これ以上労組の不法行為を容認することはできない」と強硬な立場を堅持するのに対して、労組側は「民営化後、経営側が雇用調整や労組に対する弾圧に続いて、労働協約の一方的な中止という極端な措置をとった背後には労組に圧力をかけ手なずけようとする意図が働いている」と経営側への不信感を募らせているのである。労使は11月26日から再交渉に入ることにしているが、労使の相互不信を払拭する道を見出すことができない限り、膨らむばかりの労使交渉コストが経営業績や雇用に跳ね返ってしまうシナリオはますます現実味を帯びてくるだろう。

「経済自由区法」の制定と労働界の反対闘争

一方、労働関係法上の特例措置(労働基準の緩和)などを盛り込んだ「経済自由区域の指定および運営に関する法律」が11月14日に国会を通過し、2003年7月から施行されることになった。同法案をめぐっては労働界や市民団体など社会各界から反対の声が高まったこともあって、8月19日に立法予告されてから、閣僚会議、国会の財政経済委員会での審議、本会議での審議などを経る過程で法案の一部修正が繰り返された。ここでは「経済自由区」の指定要件や労働関係法上の特例措置を中心にその経緯を追ってみよう。

まず、「経済自由区」の指定要件をめぐっては、本来の目的である「外資誘致」に加えて「地域間の経済格差是正」が新たな争点として浮上した。当初の政府案は、外資誘致の観点から、「国際空港や国際港湾などのインフラが整備されているところに限定するもの」であった。これに対して、国会の財政経済委員会ではどちらかというと地域間の経済格差是正を優先する立場から、「交通や通信などのインフラが整備されているところにまで拡大するもの」へと修正が加えられ、「経済特区から経済自由区へ」と名称の変更が行われた。結局、本会議で、後者の指定要件緩和案は、「地域間の外資誘致競争激化や特例措置目当ての国内企業(外資との合弁で)の殺到などで特例措置をむやみに拡散させる恐れがある」という批判の声に押されて破棄され、当初の政府案が再修正案として採択された。

第二に、「派遣労働者保護などに関する法律」の適用をめぐっては、「派遣対象業務および派遣期間の制限条項」をどこまで緩和するかが争点となった。当初の立法予告案は、「同制限条項を適用しないもの」であったが、閣僚会議で「経済特区委員会の審議・議決を経て派遣対象業務の拡大および派遣期間の延長を認めるもの」に修正され、国会の財政経済委員会ではさらに「派遣対象業務の拡大および派遣期間の延長は専門職種に限定するもの」に再び修正が加えられ、本会議で再修正案に盛り込まれた。

第三に、「労働基準法上の月次有給休暇・生理有給休暇関連条項」の適用をめぐっては、「週休二日制関連法案」との関連が争点となった。当初の立法予告案は、「(経済特区向け特例措置の一つとして)同有給休暇関連条項を適用しないもの」であったが、労働界のみでなく女性団体などからも反発が強かったため、閣僚会議で「月次有給休暇を廃止し、週平均一回の有給休日・生理有給休暇を無給とするもの」、つまり「週休二日制関連法案に沿うもの」にとどめられ、そのまま再修正案に盛り込まれた。ただし、「週休二日制関連法案」は11月初旬に国会で審議保留となっているため、今回の特例措置はそれに先駆けて施行されることになる(本誌2002年11月参照)

その他に、障害者雇用促進法(障害者雇用の義務付け)を適用しないことや、労働争議関連法上の手続きを遵守し、産業平和を維持することを労使に義務付けることなども盛り込まれている。

以上のような経緯を経て「経済自由区法」が国会を通過してからも労働界や市民団体などの反対闘争は続いている。韓国労総と民主労総は共同闘争本部を設置し、市民団体との連帯で、大統領府に「経済自由区法」に対して拒否権を行使するように求めるとともに、「憲法に保障されている平等権・労働基本権・環境権を侵害する条項が盛り込まれている」として違憲訴訟を起こすことにしている。また大統領が拒否権を行使しなければ、来年1、2月の臨時国会会期中に「経済自由区法」のほか「週休二日制関連法案」、「公務員組合法案」などの破棄を求めて連帯ストライキに突入することを明らかにしている。

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