「週休二日制」のための労働基準法改正案の立法予告

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年11月

政府は9月5日、「週休二日制」のための労働基準法改正案を立法予告すると発表した。3年近く続いた労使政委員会での話し合いでは結局合意案を見出すことができず、7月22日の本会議を最後に政労使間の話し合いは幕を閉じた。これを受けて、労働部は8月16日にそれまでの議論を踏まえて独自の法改正案をまとめた後、関係省庁間の協議や大統領への報告を経て、立法予告の手続きに入ったのである。

政府が労使の反発を承知で法改正案の立法予告に踏み切った背景には、まず、「世論の支持(世論調査の結果、7割以上が「週休二日制」に賛成)」を味方につけることができるという判断がある。第二に、労使紛争の火種を抱えたまま、12月の大統領選挙にまでずれ込む恐れがあるほか、法改正を待たずに事業所別労使交渉で週休二日制の実施を決めるところが急増し企業間の労働条件の格差が広がるなど、中央と現場とのねじれ現象の歪みが表面化しているため、これ以上は待てないという事情が働いたようである。ちなみに、労働部によると、7月末現在100人以上の事業所4653ヵ所のうち、月1回以上の週休二日制を実施するのは1379ヵ所(29.6%)、そのうち、完全週休二日制を実施するのは284ヵ所(6.1%)で、2月の調査時点より、それぞれ21.9%、48.7%増えている。

では、政府は法改正案をまとめるにあたって、主な争点についてどのようなスタンスをとったのか、それに対して労使はどのような対応をみせているのかみてみよう。

政府の法改正案の主な内容

政府は独自の法改正案を作成するにあたって、国際基準を優先しながら、争点別に労働側の要求(生活の質向上)を反映するところもあれば、経営側の注文(競争力強化)をとり入れるところもあるなど、最善の妥協案を創り出そうとした節もみられるが、全体的にはどちらかというと経営側寄りになっているといわれる。

まず、「週休二日制」の施行時期をめぐっては中小企業の経営側への配慮がポイントになる。1.公共部門、金融保険部門のほかに、従業員1000人以上の事業所では2003年7月から、300人以上は2004年7月、50人以上は2005年7月、30人以上は2006年7月からそれぞれ段階的に施行する。2.30人未満の事業所での施行時期は大統領令で定め、同事業所の状況に合わせて弾力的に対応する。

第二に、休暇制度の調整をめぐっては、国際基準に基づいて、年次休暇の加算日数についてはどちらかというと労働側寄り、年次休暇未取得分の買い取り義務廃止や有給生理休暇の無給化などについては経営側寄りとなっている。1.年次休暇と月次休暇を統合し、まず年次休暇として年間15日を与える。それに勤続年数2年毎に1日ずつ加算するが、25日をその上限とする。2.非正規労働者に対しては1カ月毎に1日の年次休暇を与える。2.年次有給休暇の取得を促すために、使用者側の勧誘にもかかわらず、年次有給休暇を取得しない場合は使用者側に買い取りの義務がない旨を明記する。3.有給生理休暇は無給とする。

第三に、賃金の補填をめぐっては、包括的な原則の明記にとどまり、どちらかというと経営側寄りとなっている。1.既存の賃金水準と時間給の通常賃金の引き下げにつながらないようにしなければならないという原則を付則に明記する。2.既存の賃金水準とは(労働側が要求していた)各賃金項目別ではなく、賃金総額を指すものとし、賃金項目や補填方法などは労使交渉に委ねる。

第四に、週休二日制の施行に伴う労働時間管理をめぐっては、どちらかというと経営側寄りとなっている。まず、弾力的労働時間制をめぐっては、1日12時間、1週間に52時間を上限に、その単位期間を現行の1カ月から3カ月に拡大する。次に超過労働時間をめぐっては、「週休二日制」施行後3年間の期限付きで超過労働時間を現行の週12時間から週16時間に増やし、最初4時間分に対する時間外手当の割増率は現行の半分(25%)にする。

第五に、改正法の実効性を高めるために、労働基準法の改正に合わせて就業規則及び労働協約を変更することを義務付ける条項を付則に明記する。

その他に、「週平均1回以上の有給休日制」をめぐっては、経済関係省庁が「国際基準に基づいて無給にすべきである」と主張したのに対して、労働部は「有給休日制の存続を決めた労使政委員会での合意を尊重すべきである」と切り返すなど、関係省庁の間で調整がつかず、「立法予告期間中に関係省庁間の協議を経て確定する」という但し書きがつけられた。

労使の対応

労使政委員会での最後の話し合いが決裂したのを受けて、政府が独自の法改正案づくりに動き出した時から、早くも政府に圧力をかける労使の駆け引きが目立ち、以上のような政府の法改正案に対しても労使両方は依然として反対の立場を表明している。

まず、韓国労総は「今回の法改正案は、30人未満の中小企業に勤める労働者(雇用労働者1360万人のうち58.6%)をその対象から除外し、労働時間の短縮とは関係のない条項まで使用者側寄りに改正した改悪案である。特に母性保護条項である有給生理休暇の無給化や、年次休暇未取得分の買い取り義務廃止、中小企業での施行時期の長期猶予、改正法に合わせての労働協約変更の義務付けなどは労働条件をさらに悪化させる条項である」と指摘した。そのうえで「政府の法改正案の成立を阻止するために、署名集めを開始するほか、2002年下半期の賃上げ交渉と連携して11月に総力闘争を展開し、12月の大統領選挙で週休二日制に反対する大統領候補にその責任を問う」方針を明らかにした。

そして、民主労総も「30人未満の中小企業での施行が長期猶予となり、週休二日制はその意義を失ったうえ、労働生活の質向上どころか経営側の労働条件引き下げ案に変質してしまった」と指摘したうえで、「政府の法改正案は労働基準法の改悪を企てるものであるので、それを阻止するために総力闘争を展開する」ことを明らかにした。特に、韓国労総と民主労総は「賃金及び労働条件の改悪のない労働時間短縮のための連帯闘争体制」を結成し、具体的な連帯闘争計画を立てることで合意するなど、労働界挙げて徹底抗戦の構えをみせている。

その一方で、経営側は「施行時期が早過ぎることや、年間休日数が多いこと、賃金補填の原則が曖昧になっていることなど」を問題点として指摘し、「政府の法改正案は受け入れられない」との立場を明らかにした。まず、施行時期については、「(中小企業への影響を最小限に抑えるために)1000人以上の大企業から段階的に施行するとはいえ、実際には大企業と下請け協力関係にある中小企業もその影響を受けざるをえない」。第二に、休暇制度の調整については、「年間休日数が136-146日に増え、日本のそれ(129-139日)より7日多くなり競争力が低下する」。第三に、賃金補填の原則については、「その内容が曖昧で、具体的な補填方法は労使交渉に委ねられるため、労組の影響力が強い現場では諸手当の引き上げなどによる補填で人件費の上昇につながる恐れがあること」などが指摘された。

しかし、その後、経営側の方針は、「次のような条件付ならば、週休二日制を受け入れる用意がある」という方向に変わっている。つまり、1.施行時期を2年延ばすほか、10人未満の中小企業の場合2012年7月から施行する。2.無給になる有給生理休暇や廃止される月次有給休暇に対しては手当の補填を行わない。3.週平均1回以上の有給休日制を無給とするほか、弾力的労働時間制(単位期間1年)や時間外手当の割増率(25%)などは国際規準に基づいて改正することなど。

ただし、中小企業協働組合中央会は「人手不足が深刻な状況で週休二日制が施行されれば、超過労働時間が増え、人件費は平均20%以上上昇するなど、中小企業の負担は急増する」と指摘し、「その負担を軽減するためにも施行時期を2010年以降に延ばすべきである」と主張している。

その他に、産業資源部も関係省庁間の意見調整に向けて次のような経営側寄りの意見書を労働部に提出した。つまり、1.年次休暇日数を勤続年数3年毎に1日ずつ加算し、22日をその上限とする。2.最初4時間分の時間外手当の割増率25%に対する3年間の期限付条項を削除する。3.弾力的労働時間制の単位期間を3カ月から6カ月に拡大する。4.業種や企業規模別に7年かけて段階的に行うように施行時期を延ばし、早期施行の中小企業に対しては金融・税制上の支援策を講ずることなど。

9月17日に国会の環境労働委員会で開かれた労働部に対する国政監査でも、あたかも国会審議の前哨戦のように法改正案に対する厳しい質問が相次いだようである。いまのところ、政府の法改正案をめぐっては与野党の間で意見が大きく分かれている。与党側は「年内に政府の法改正案の成立」を目指しているのに対して、野党側は「時期尚早であり、労使合意を待つべきである」との立場を堅持している。

いずれにせよ、労働部は「週休二日制は労使政委員会での話し合いで事実上合意されたうえ、世論の支持も得られている」との立場から、法改正案の成立を急いでいるが、労使の反対や駆け引き(与野党への働きかけ)に加えて、関係省庁間の意見の食い違い、さらには少数与党体制や大統領選挙の政局などが深く絡んでいることもあって、いまのところ年内成立はかなり難しいとの見方が優勢である。その一方で、大統領選挙後を睨んで、次期政権による急展開もありうるとの希望的観測も流れている。

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