1月から8月までの海外出稼ぎ労働者、638,000人

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年12月

政府発表によると、2002年1月から8月までに、海外に出稼ぎ労働者として出国したフィリピン人の総数は638,875人に達した。ただし、この数字はあくまでも公式のルートに限定した数値であって、非公式のルートを含めれば、出国者数は更に増加する。また就労を目的に海外に滞在しているフィリピン人の総数は、2002年8月現在、少なくとも500万人いると推定されている。

1 出稼ぎ労働の功罪

フィリピン中央銀行によると、海外出稼ぎ労働者からの本国送金は、2002年上半期、約41.4億ドル、前年同期比43.2%増加した。1999年以来、フィリピン人の本国への送金額は減少する傾向にあったが、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカに出稼ぎに出た労働者が増加したことが、送金額の増額につながったと分析されている。

フィリピン経済は、慢性的な高失業率を解決できないため、多くの労働者は海外に出稼ぎ労働に出ることを希望し、それが失業率の上昇に歯止めをかけている。また、これら出稼ぎ労働者のドル建てによる本国送金額は、為替市場におけるフィリピンペソの安定に貢献している。加えて、フィリピンの年間為替取引手数料収入のかなりの部分は、海外出稼ぎ労働者から送金に関連するものと見られている。

フィリピン政府は、国家の命運をも左右する海外出稼ぎ労働者を支援するため、職業訓練など幅広いサポート体制の構築に積極的である。また、これら出稼ぎ労働者が不当な労働条件にさらされないよう、関係国に働きかけたりしている。しかし、政府のサポート体制はすべての分野において高い評価を受けているわけではない。最近、権利意識の高い海外出稼ぎ労働者の間で不満になっているのが、整備の進まない不在者投票制度であり、早期実現に向けて多種多様な運動が各国において展開されている。

ただし、近年出稼ぎ労働者の中には、単身で海外に長期滞在するケースも決して稀ではなく、そうした情況は家庭の絆を弱めているという批判も出ている。最近の調査によれば、両親の一方、特に母親のほうが海外に出稼ぎに行っている家庭の子供は、学校の成績があまり良くなく、概して情緒不安定になりがちであるという調査報告が出ており、何らかの対策が望まれている。

2 海外出稼ぎ労働者の多い主要国の動向

(1) イタリア

現在、イタリアに滞在するフィリピン人労働者は、約15万人存在し、この内約10万人は、就労目的に非合法に滞在している。イタリア政府は、こうした事態に対処するため、2002年10月、非合法出稼ぎ労働者を対象とする「滞在適正化申請手続」政策を始めると発表した。この申請手続を行なわない非合法労働者には、3ヶ月間の拘留と5000ユーロの罰金を内容とする罰則規定が導入される見込みである。

なお、イタリアの法律では、経営者は、外国人労働者の雇用に際しては「外国人雇用申請手続」をとることが求められており、被用者一人あたり250から300ユーロの経費が必要である。書類審査に合格し、かつ労働者の住宅環境が一定水準を満たした場合に限り、2年間を限度とする雇用許可書がおりる。

(2) イスラエル

現在イスラエルには、30,000人の不法滞在フィリピン人労働者がいるといわれている。近々、イスラエル政府は、不法滞在労働者の一斉摘発を行うであろう見られている。

(3) イラク

イラクと米国の間で戦争の危険が高まる中、フィリピン政府は、イラクに就労滞在する118人のフィリピン人に早急な避難と帰国を命じた。なお、これら118人のフィリピン人をヨルダンからマニラまで運ぶため、政府は、現在90億ペソ積立てている海外労働者厚生基金から、資金を引き出す見込みである。政府の方針では、この避難命令を、事態が悪化する前の予防策として位置づけている。一方、イラクに就労滞在しているフィリピン人の中には、国外退去を渋る者もおり、両当事者間では、危機に対する認識に差があることが露呈している。

なお、米国を中心とする連合軍とイラクの両国が全面戦争に突入することになった場合、最悪な場合は、中東全体に就労滞在している140万人のフィリピン人を避難させる必要が生じる可能性があり、そのような場合の必要経費は、最低でも86億ペソになると見積もられている。過去の事例を見てみると、湾岸戦争が勃発時には、25,000人のフィリピン人が一時的に中東を離れた。

(4) サウジアラビア

サウジアラビアには、正式な滞在許可手続を踏んだフィリピン人出稼ぎ労働者が、現在40万人いると見積もられている。

フィリピン議会は、労働雇用省(DOLE)とサウジアラビア政府間で、最近フィリピン人出稼ぎ労働者の処遇協定を改定したが、その内容に対し厳しく批判している。この協定により、フィリピン人労働者の一ヶ月の労働賃金を200ドルから130ドルに下げること、フィリピン人労働が解雇されても救済申立手続を認めないこと、経営者に一方的な解雇権益を認めることなどが取り決められた。これらの合意項目は、フィリピン人労働者にとって不利なものが多い。DOLEは、議会の批判を考慮し、合意項目を修正を目指し、サウジアラビア政府と再交渉に乗り出すと発表した。

また、サウジアラビアのジェダ地域を中心に、「海外にいるフィリピン人を対象とした不在者投票制度の法制化を求める運動」が昨今高まっている。この運動の指導者は、早急な法制化を求めて、反対する政治家の落選運動等を展開している。最近では、政府を相手とする行政訴訟も辞さないと発表している。また、仮に2002年末までに、不在者投票制度の確立を求める議案が否決されるようなことがあれば、本国への送金額を大幅に減らすことも辞さないとまで主張し始めた。仮に送金額を減額されるような事態に陥ると、海外からの送金額は、少なくとも数百万ドル減少すると予想されている。

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