2002年下半期の雇用情勢

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年12月

好景気に伴い雇用情勢の改善傾向が著しい。2002年9月の失業率はついに2.5%にまで下がり、好景気を支えるサービス業部門では下半期の採用規模を拡大する動きが目立っている。その一方で、若年層の失業問題、とりわけ高校新卒失業者数の累積問題や中小企業の慢性的な人手不足状況などは深刻さを増している。以下、その実態を追ってみよう。

失業率の下落と非正規労働者の増加傾向

統計庁によると、失業率は2002年5月以降2%台を推移し、9月には2.5%を記録するなど、雇用情勢は安定している。しかし、その中身をみると、依然として臨時職・日雇い職など不安定な雇用関係にある労働者の増加が目立っている。正規労働者は8月より1.0%(6万3000人)増にとどまっているのに対して、臨時職は2.3%(10万6000人)増、日雇い職は3.7%(8万8000人)増を見せている。雇用形態別月平均賃金(6-8月までの3カ月間)をみると、正規労働者は179万8000ウオンにのぼっているのに対して、臨時職は96万7000ウオン、日雇い職は75万8000ウオンにとどまっている。そのうえ、退職金、ボーナス、時間外労働手当などの支給対象からも除外されることが多い。雇用形態別労働条件の格差が緩和される気配は一向にみられず、非正規労働者の増加傾向は続いているのである。

2002年下半期の採用状況

2002年下半期に入って不安材料(特に不透明さを増す世界経済)を抱えながらも好景気が続いているため、その波及効果が大きいサービス業部門で採用規模の拡大が目立っている。就職情報専門のインクルートが上場企業528社を対象に2002年下半期の採用状況を調査したところによると、そのうち採用計画を確定した339社の採用規模は4万2792人で、厳しい就職難を経験した2001年同期(3万4099人)より25.2%、2002年上半期(3万9525人)より8.3%それぞれ増えるなど、採用状況の改善が著しい。業種別には教育部門(1万2232人)、流通(1万731人)、電機電子(4421人)、外食・飲食(4051人)、情報通信(1940人)、金融(1575人)など、主にサービス業部門で採用規模の拡大傾向が顕著にみられる。

もう一つ注目されるのは、中途採用(27.5%)より新卒採用(72.5%)の割合が大幅に増えていることである。通貨危機後しばらくは、構造調整に伴い、中途社員の外部労働市場が急速に膨らむ一方で、即戦力としての中途社員へのニーズが高まったこともあって、新卒採用から中途採用へと採用の軸足を移す動きが広くみられたが、ここにきて再び新卒採用重視の動きが浮上しているのである。この背景には、即戦力としての中途社員への需要が減っているという側面より、構造調整が一段落し、中途社員の外部労働市場が急速に縮小したため、企業のニーズに合った中途社員の採用に限界が生じていることもあって、組織の若返りも兼ねて、長期的な観点から人材の育成に取り組まざるを得なくなっているという事情が大きいようである。

ただし、大企業の採用規模及び新卒採用枠が以前より増えているとはいえ、新卒者の間では大企業への就職希望が根強いこともあって、採用試験の倍率は前年と同様に100倍を超えるところも多く、平均67倍に達するなど、かなりの狭き門になっている。インターネットリクルーティング専門のジョブコリアが就職活動中の大学生3599人を対象に調査したところによると、希望する就職先として最も多いのは大企業(25.0%)で、次いでITベンチャー企業(19.8%)、外資系企業(17.4%)、公共機関(16.6%)、中小企業(13.1%)、金融機関(5.8%)、製造ベンチャー企業(2.5%)などの順となっている。

これに対して、インターネット就職情報専門のジョブリンクの調査(新卒求職者1854人)では、10月中旬現在内定をもらった者(34.1%)の就職先として最も多いのは中小企業(45.3%)で、次いでベンチャー企業(24.4%)、大企業(15.5%)、外資系企業(9.8%)、公共機関(5.0%)などの順となっている。そのうち、就職先が希望とは違ったのは61.4%に達し、非正規社員として就職したのも28.5%にのぼっている。

高卒若年層失業者数の累積傾向

雇用情勢の改善傾向が著しいにもかかわらず、若年層失業率は依然として高止まりの状態にある。9月の失業率をみると、10代は8.2%、20代は5.5%で、全体の失業率2.5%の2,3倍以上に達している。

若年層の失業問題は、1990年代に入って高い進学率や需給のミスマッチなどによりすでに慢性化していたが、通貨危機後とりわけ大学新卒者の就職難が深刻さを増したため、社会的関心や政策的対応も大学新卒者の失業問題に集中した。

それにもかかわらず、大学新卒者の就職難は容易には解消されず、むしろ高校新卒者に思わぬ皺寄せをもたらしている。つまり、就職難にあえぐ大学新卒者の多くが就職先を高校新卒者と競合するところまで広げていることもあって、高校新卒者は労働市場の底辺に押しやられてしまうという構図が定着しているのである。韓国労働研究院によると、大卒の場合2001年の新卒失業者数は10万5000人で、累積失業者数は10万4000人台を推移している。これに対して、高卒の場合は2001年の新卒失業者数は2万7000人に累積失業者数は22万人に達しており、高校新卒者ほど失業の長期化に伴い早くも貧困層に転落する可能性が高くなっていることが新たに焦眉の雇用問題として浮上している。

特に、工業・商業系高校の場合、3年生の現場実習は主に求人難に陥っている中小企業などに見習社員として早期就職するような位置付けになっており、実習後正規社員として採用されるケースが多い。しかし、正規社員になっても低賃金や劣悪な労働条件などに耐えられず、1年も経たないうちに辞めてしまい、職場を転々とするか、長期失業者に転落するケースが非常に多くなっているようである。

結局、このような高卒労働者の厳しい現実(いわゆる採用時の学歴差別)がむやみに大学進学を助長し、いわゆる「学歴インフレ」の罠にはまってしまうことになりかねない。高校での専門職業教育の充実化や労働市場での学歴差別の解消、中小企業の労働条件の改善などが以前にも増して強く求められている。

中小企業の人手不足状況

その一方で、中小企業の慢性的な人手不足状況は深刻さを増している。中小企業協働組合中央会が製造企業401社を対象に調査した「2002年下半期の採用状況」によると、中小企業の人手不足率は10.7%で、2002年上半期(6.3%)より4.4%増えた。特に従業員20人未満の小企業のそれは19.3%に達しており、労働条件が劣悪な小企業ほど人手不足はより深刻であることがうかがえる。職種別にみると、生産職は11.5%、事務職は8.0%のように生産職ほど人手不足状況はより深刻である。

このような人手不足状況への対策として、調査対象企業の54.1%が「外国人産業研修生や日雇い労働者、インターン社員、産業技能要員(兵役の代わりに勤めるのが認められた者)」などの非正規社員に頼っているが、その割合は12.6%(平均生産職従業員33.4人のうち4.2人)を占めている。

もう一つ、韓国産業研究院が中小企業(従業員5人以上300人未満の9万6830社)を対象に実施した「製造中小企業労働力実態調査」でも、中小企業の人手不足がより深刻な状況にあることが明らかになった。同調査によると、平均人手不足率は9.36%で、不足人員は20万4900人にのぼっている。20人未満の小企業のそれは14.1%に達している。職種別には生産職が10.86%で最も高く、次いで、営業職6.82%、事務職4.14%などの順となっている。生産職の人手不足率が相対的に高い理由については、「中小企業への就職忌避傾向(39.7%)」、「賃金及び労働条件が合わないこと(33.3%)」などが挙げられている。

そして調査対象企業の54.2%が非正社員を採用しているが、非正規社員のうち日雇い労働者の割合は69.3%にのぼっている。その他に調査対象企業の21.2%は外国人労働者を採用しているが、その理由としては「国内労働者の採用が難しい(43.6%)」、「賃金が安い(19.7%)」、「離職率が低い(12.3%)」、「残業させやすいこと(12.1%)」などが挙げられている。外国人労働者の賃金と生産性水準は国内労働者の81.5%、86.3%を推移しており、生産性を勘案した場合、賃金格差はあまりないというのがその根拠となっている。つまり、劣悪な労働条件が決定的な要因になっているとはいえ、中小企業の求人難はいわゆる「労務倒産」を引き起こしかねない水準にまで達しているという声が外国人労働者の採用に反映されているのである。

政府が7月に打ち出した「外国人労働者管理制度改善案(不法就労外国人労働者26万5848人の一斉強制出国と合法外国人産業研修生の受け入れ枠拡大など)」に対して、中小企業の間で噴出した「机上の空論にすぎない」という批判の声は前述のような厳しい現実を訴えるものでもあろう。しかし、その一方で、外国人労働者支援団体や労働団体などの間では、外国人労働者の権利保護の観点から、「不法滞在者の数を増やすことにつながる外国人産業研修生制度の廃止と外国人労働者の就労を合法化する雇用許可制の導入(外国人労働者の職場移動容認の弊害や人件費上昇などを理由に中小企業側は反対)」を主張する声も高まっている。

そして関係省庁の間でも、産業資源部は前者の中小企業の立場、労働部は後者の外国人労働者権利保護の立場をそれぞれ後押しするなど、対立構図は容易には解消されないでいる。中小企業の慢性的な人手不足の緩和と外国人労働者の権利保護の両立を目指す制度改革が待たれるところである。

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