労使関係委員会の労働時間に関する決定をめぐって

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年12月

既報のように、オーストラリア労使関係委員会(AIRC)は労働時間と時間外労働に関するオーストラリア労働組合評議会(ACTU)の申請を審査し、2002年7月にこの問題に関する決定を下した。

今回はACTUの申請内容とAIRCの決定の詳細を報告する。

ACTUの申請

ACTUは、2001年11月19日にAIRCに対し労働時間に関するテストケースの申請を行った。ACTUは労働時間規制を求めており、ACTUが提出した証拠に基づくとオーストラリアは先進諸国の中で労働時間が延びている唯一の国であり、またOECD諸国においても2番目に労働時間が長い状態であるという。今回の申請は、1947年に1日8時間労働制を達成して以来もっとも重要な労働時間に関する決定となる可能性があった。しかし2002年7月23日に下された実際の決定は、組合が求めていた明白な勝利ではなく、単に労働者に対し「不合理な」時間外労働を拒否する権利を認めるものに過ぎなかった。

ACTUは研究者などにより収集された証拠を利用しながら長時間労働に対するキャンペーンを展開してきた。これらの証拠では、オーストラリアの総労働時間数はアメリカやイギリス、ニュージーランドと同等である一方、世界的には労働時間が短縮化する中でオーストラリアのそれは増加傾向にあること等が明らかにされている。同時に他国に比較し「サービス残業」も増えていることが指摘された。ACTUの研究者によると、オーストラリアでは労働者の約3分の1が週48時間以上働いており、1982年当時の労働時間規制を現在に持ってくればおそらく55万人分の雇用が創出される可能性があるという。したがって雇用創出の探求は労働時間短縮の探求と密接に関連する。加えて「ファミリー・フレンドリー」な政策に関心が高まる中で、長時間労働が家庭生活に及ぼす影響も問題となっている。

こうした現状認識に基づきACTUは、連邦アワードを通じた労働時間規制を求めた。つまりアワードの中に労働者が「合理的」労働時間を超えて労働しない旨を定める条項を設けるよう申請したのである。労働者が合理的労働時間を超えて労働した場合には、労働者は有給の代休を請求することができる。また労働者は、安全衛生や家族的責任を理由に標準労働時間を超える時間外労働を拒否することができる。以上がACTUの主張の主要なものである。

AIRCの決定

しかしAIRCの決定は複雑なもので、労使双方の勝利の主張を認めるような内容であった。まず第1にAIRCは「合理的労働時間」に関するACTUの定義を受け入れなかった。このことは、労働者が前述のような有給の代休を請求できないことを意味する。

第2にAIRCは、労働者が家族的責任や安全衛生等を理由に「不合理な」時間外労働を拒否することを正当化しうると認めた。そしてAIRCは、使用者による時間外労働の要請が不合理かどうかを決定するにあたり安全衛生や家族的責任を含む個人的事情、そして職場の必要性、使用者による通知の状況を考慮すべきであるとの考えを示した。

この点に関し、ほとんどの識者はAIRCの決定がすでに存在している権利を正式に認めたに過ぎないと指摘している。例えば、労働者が時間外労働命令を拒否し、その結果解雇されれば、労働者は使用者を不当解雇で訴えることができる。現にAIRCはこうした状況であれば労働者の復職や損害賠償まで命じているのである。したがって今回の決定は、少なくとも短期的には経済に与える影響は少ないであろう。

他方、バロウACTU議長は今回の決定を積極的に解釈し、職場文化の変化の兆しを示すものであると主張する。労働者が家族を守るために時間外労働を拒否することが次第に受け入れられるようになるというのである。

AIRCは、今回の決定の中でACTUの主張の不備を指摘している。すなわち長時間労働が危険であるならば、なぜ単純に労働時間規制の強化を求めずに長時間労働を容認し、代休を認めるような複雑な方法をとるのかというのである。答えはもちろん、多くの労働者は金銭的な理由で長い時間働いており、残業代に頼っているために、労働時間を短くしたくはないからである。ここから労働時間短縮を求めるACTUのキャンペーンには次のような危険性があると指摘する。つまり、ACTUのキャンペーンは、賃金が下方に調整されない場合を除き労働時間や残業代を減らしたくない組合員の利害と一致しないというのである。ただこうした可能性は少ないとみられており、ACTUのキャンペーンはサービス残業削減に向けて十分な効果をもたらすと思われる。

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