2002年雇用に関する全国計画

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年11月

6月6日の閣議で、雇用措置に関する全国計画(以下、NAP)が承認された。同計画は、1997年にルクセンブルクで決定された、いわゆる欧州雇用戦略の実現を目的として、各加盟国から欧州理事会および委員会に送られた年間報告書である。同計画については、9月初頭に、ブリュッセルでの議論および分析が予定されている。加盟国は、この報告書を通じて、雇用に関する各自の政策を実現するために採用した(または採用している)主たる措置を、目的のための「開放的協力」という一定の手続きに従って、他の欧州諸国に示すのである。

欧州理事会が決定した年間指針に従い労働社会政策省が策定した2002年のNAPは、その最重要目標として、リスボンおよびバルセロナの欧州サミットで合意された数値にまで就業率を引き上げ、社会的疎外に取り組むことを挙げている。イタリアのNAPで示されたこの目的の追求は、経済の発展および社会の団結との両立が可能である。

以下では、イタリアの労働市場の主たる特徴に関するデータを提示した後、政府によって作成された雇用および労働に関する戦略のうち重要な点について説明する。説明の便宜上、NAPの構造に言及した後、欧州雇用戦略の4つの側面(就労能力、企業家としての能力、アダプタビリティー、機会の平等)をそれぞれ検討し、とくに第1(就労能力)と第3(アダプタビリティー)を詳細にみることにしよう。

イタリアの労働市場:就業率の上昇

国内総生産の上昇が1.8%にとどまっているにもかかわらず(この伸び率は、前年に比べ鈍い)、2001年の動向が順調であったため、労働市場に関する主たる指標は改善された。就業者数は、2000年に比べ、2.1%(人数にして43万4000人強)上昇し、全体の就業率も54.6%に達した。この率は、1995年と比較すれば4%の上昇であるが、欧州平均と比べれば、10%ほど低く、また、EUが2010年に関して定めた目標値を15%以上下回っている。2001年の就業率の上昇は、女性に関する雇用の大幅な伸び(増加した全労働ポストの約3分の2を占める)が影響したものである。実際、女性就業者の割合は、全体の41%を超え、1995年に比べて約6%も延びている。

中高年(55-64歳)の就業率は、あまり改善されていない(27.7%から28%への上昇)。
非典型雇用は、2000年に大幅に上昇した後、2001年には下降に転じている。一方、報告書によれば、期間の定めのない労働は2.6%増加したとされる。ただし、この増加は、期間の定めのない契約での採用に対する助成措置を定めた2000年法律388号の影響と、非典型雇用からの転換が影響した可能性もある。

2001年と2002年初頭における就業率の上昇は、失業問題を解決するほどのものではない。失業率は、2000年の10.6%から2001年には9.5%に減少しているが、長期失業率は、5.9%のままである。

失業政策と欧州政策の4つの側面

NAPの第1部(経済政策における雇用政策に関する部分)で示されたように、就業率をさらに引き上げるには、イタリア経済の構造に関する問題に取り組む必要がある。このため、7月5日のイタリア協定で労使が合意したように、政府の経済政策は、この問題の解決に充てられている。NAPは、とくに、人材の育成および有効利用を目的とする措置として、次のものを挙げている。

  1. 闇経済の主要部分を直ちに正規化するための臨時措置(2001年10月18日法律383号[経済の見直しのための基本措置])。
  2. 人々の能力や水準を上昇させるための教育訓練制度の改革(教育省によって作成された教育関連法規の改革の提案)。
  3. 就労可能性を高め、就労能力に関する政策を推進し、弾力性に関する政策と労働者の保護とを両立するための労働市場改革(2001年法案848号および2002年法案848の2号)。労働者憲章法18条の一部改革もこのために実施される。

NAPの第1部は、イタリアのように、労働市場におけるセグメンテーションが進み、地域別の不均衡が存在する社会経済では、就業率を高め、とくに南北間の不均衡を緩和する州や地方レベルの措置が欠かせないことを指摘している。

こうした枠組みのなかで考えうる戦略は多様である。とくに、就業率がヨーロッパ平均に近い中北部では、若年者および中高年の訓練水準を引き上げ、女性の活動および就労を促進し、高齢者の積極的活用および保護を図り、労働力欠如の減少に対処し、地域間の移動を支援し、EU域外の労働者の投入を容易にするような政策が求められる。これに対し、壮年者についても失業率が高い南部の州では、民間投資を援助しながら、地域の発展を推進し、地域発展政策と労働政策とを関連付けるような政策が必要であろう。

闇労働(最近のデータによると、イタリアの闇労働はEU諸国の平均を上回っている)に対処するため、イタリア政府は、2001年に実施された「闇経済の正規化に関する法律」のなかで採られた税制優遇措置を補足する政策の採用を決めている(2001年法律383号参照)。政府は、とくに、契約類型および助成措置の整備を通じて、起業と雇用を増やすことを考えている。このため、様々な制度を用いて闇労働に対処し、正規化の過程における労使と地方自治体の役割を復活させることが定められている。この措置の他に、EU域外の国民に関する労使改革の規定(いわゆるBossi-Fini法)や非合法の移民を正規化し規律する措置がある。

就労能力

欧州雇用戦略の第1の側面である就労能力に関して、NAPは、労働への組み入れを促進し、保護を積極的なものに改善するため、労働市場を改革する必要性を強調している。直接的な措置としては、女性、若年者、高齢者および労働ポストを喪失した者のように社会的疎外のおそれのある人々を対象とするものがある。これに対し、間接的措置は、労働と家庭での責任との両立を可能にすると同時に、社会的疎外の「隠れた」形態に対処するため、社会および職場での保育サービスの強化を対象にしている。

失業の予防について、政府は、労働市場の機能改善が最も重要と考えている。これを達成するために、受動的労働政策と積極的労働政策との融合を強化し、既存の契約類型の合理化および新たな契約類型の導入を可能にする措置を定めることによって、労働市場の効率を高めることが目標に挙げられている。

また、就労能力に関する欧州理事会の指針に照らして、若年者や高齢者が労働市場へ参入し、また新たに組み入れられるための待機時間を減らすことも、重視されている。これらの目的が達成できるかは、経済の活性、労働の需要と供給との一致を容易にする職業訓練制度、そしてとくに、雇用サービスの効率性にかかっている。需要と供給の一致は、職業紹介に関する行政手続きを簡素化し再編するような措置を採用することで改善されるだろう。また、こうした措置は、公的機関と民間業者との協調を可能にし、雇用サービス制度の実施を確保し、その効率性を最大にすることができるだろう(これまでのところ、公的職業紹介を介して成立した労働契約は4%にすぎない)。

統一された許可制度を通じて(ただし、活動類型によって段階を設けることはあろう)、労働協約への定義の留保を悪用して、間歇労働や労働仲介に関する法律や請負労働の規制を回避しようとする者に対処することが可能になる。さらに、NAPは、労働サービスのネットワークに関する情報システム(SIL:州レベルのデータと全国レベルのデータを統合するデータベース)へのアクセスの完全化についても定めている。

企業家としての能力

第2の側面は、起業、既存の企業の発展およびすべての大企業内部におけるイニシアティブ促進の保護を目的とする企業家としての能力である。この企業家としての能力は、コストの削減、行政手続きの簡素化、企業家としての能力の向上、州や地方レベルでの雇用措置の促進および新たな雇用の受け皿の創出を目的とするのが特徴である。この側面は、雇用戦略のなかでも、イタリアが当初から力を入れてきた分野である。これは、イタリアには数多くの中小企業からなる繊維産業が存在し、また、様々な独立労働類型および準従属労働類型に支えられてイタリアが発展してきたためである。

企業家の支援に関して、NAPは、租税優遇政策や66億ユーロを超える予算を充てた助成政策について分析している。発展促進措置としては、国庫や地方財源からなる基金を創設した1992年12月19日法律488号[南部への臨時措置に関する統一規則関連の財源見直し法]などがある。

NAPで検討された他の措置としては、就労が困難な人々も利用しうる直接的な支援がある。2001年12月28日法律448号[2002年財政法]は、1999年12月23日法律449号[2000年財政法]27条11号によって定められた基金について、今後3年間に関して5億1500万ユーロの財源を割り当てた。この基金は、企業家としての能力の向上を支援する措置を合理化するために、支援策に関する既存の様々な制度の財源を統一したものである。

アダプタビリティー

第3の側面であるアダプタビリティーは、国レベルの労働法の整備を強く推進することを目的としている。これは、労働への参入が容易になるように保護を改善し、アダプタビリティーを高めることを目的として、イタリアに対し労働市場の弾力化を要求した欧州理事会勧告2に応えるものである。

バルセロナで欧州理事会が強調したように、弾力性と保護との適切な均衡を確保するため、労働関係および労働市場の規制を適正化することが重要である。このための第1歩として、有期契約に関する新たな規制が導入された(2001年9月6日委任立法368号[有期労働の枠組協定に関するEC指令1999年70号の実施法])。これは、有期契約の締結に関する一般原則および最低限の要件を定めるものである。

また、イタリア政府は、労働市場に関する2001年法案848号によって、現行法に関する措置案を作成した。弾力的な契約類型の利用を妨げている法律上の障害を排除し、労働組織を現代化し、企業の競争力を高めて産業の変化に対応できるようにするため、政府は、まず、EU指令に沿って、パートタイム労働の規制を改革することを約束している。この改革では、(とくに女性による)パートタイムの利用を容易にし、農業部門へパートタイム労働を拡大することが予定されている。さらに、新たなタイプの「柔軟な」契約(派遣契約やプロジェクト労働)を導入することで、生産および組織に応じて変化する必要性に配慮し、非正規労働の正規化を促進することが図られている。年金受給年齢に近く、労働市場へとどまることを考えている労働者が、これらの契約制度を利用することもありうるだろう。

アダプタビリティーや技術革新を推進するため、生涯教育に関する合意が締結された(EUの指針15で強調されていたものである)。この点に関して、労使は、労使と協定を結んだ企業、地域または部門別の訓練に関する計画に対する助成を予定して、継続的な訓練のための基金に関する合意を締結した。この財源は、使用者の負担する0.3%の補足的拠出によって賄われる。

これまでのところ、合意を締結したのは5部門のみである。2001年法案848号では、この基金を失業期間における所得支援制度に統合する可能性について定めている。

機会均等

第4の側面である機会均等は、男女が、経済上および法律上同じ待遇で、かつ、欧州経済の発展のために同じ責任を担って働けるように、社会の経済的社会的現代化を強化するものである。この側面は、男女の機会均等を制度上促進することを基本にしている。

性別によるギャップを緩和し、女性の雇用を促進するため、女性が直面する障害(とくに、労働時間に関する非弾力性、多くの職業指導を選択することの困難)を除去できるように、継続的な訓練を実施する。女性の雇用増加を支援し促進するため、NAPは、労働生活と家庭生活の2つを両立する必要性に対応できるよう弾力的な労働形態を促進することを主張している。

こうした措置は、労働時間の弾力化を定め、生活と労働との関係を円滑にすることを目的とした2000年3月8日法律53号[養育に対する権利および都市での時間の調整に関する母親および父親のための支援措置法]によって実施された。最後に、イタリア政府は、最近、議会に「保育所に関する全国計画」を提出した。これは、家族支援のための様々な措置の1つとして、家庭の要請と個人の必要性とを調整するための解決策を提示している。

まず、2000年から2005年までの5年間に全体の就業率を5%引き上げることを定めた。この数値は、1995年から2000年までの前5年間の上昇率(3%)に比べて約2倍である。労働ポストの増加目標は、140万とされている。これが実現すれば、就業率は、現在の54%から2005年には58.5%に達することになる。

この目標を達成するために、労働市場や契約形態に関する措置計画が数多く定められた。これらの措置は、租税制度や社会保障制度、経済制度に関する措置にとどまらず、広く社会保障制度に関するものである。

いわゆる非典型的な契約形態は、労働市場および就業率の上昇に寄与したが、2002年の当初数カ月に関しては、その寄与は小さくなったようである。労働市場に関する措置の枠組みがこの傾向を強めるとすれば、他の促進措置を拡大し、契約形態の再分類といった他の計画へ移行する必要があるだろう。労働ポストを増加するためには、弾力的な契約制度を拡大することだけに頼るわけにはいかないのである。

この意味で重要なのは、女性労働の支援および促進や、高齢者労働および若年者労働の積極的な活用政策(労働への組み入れ、雇用サービスの効率化)にとって有効な制度、職業訓練(とくに、いわゆる継続的訓練)、契約形態の選択に関する当事者への援助(労働関係の認証など、個人に対する技術的「支援」制度)などである。

従前から議論されてきた新「労働者憲章法」草案に関する計画は、遂行される労働の性質や内容に応じて保護の程度は異なるが、不可侵の基本権を定めており、すべての労働形態に関連するものである。この計画は、労働における安全衛生に関する保護、労働者の自由および尊厳の保護、未成年労働の排除、採用段階におけるあらゆる差別の禁止、公正な報酬に対する権利、センシブル情報の保護に対する権利、組合活動の自由に対する権利について定めている。

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