解雇に関する労働者憲章法18条の修正

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年10月

1.序

政府と39の労使団体(CGIL=イタリア労働総同盟を除くほぼすべて)による2002年7月5日の協定(いわゆる「イタリア協定」)により、解雇に関する労働者憲章法18条を修正する合意が成立した。

今回の修正は試験的なものであるため、3年間に限定して実施される。解雇に関する現行法の規制が、イタリアにおける正規雇用や企業規模の増大を妨げていないかについて明らかにすることが、ここでの目的である。

しかしながら、政府の意図が、まさに労働者憲章法18条を改正するという点にあったことを考えると、今回の修正は、試験的実施という目的にとどまらず、イタリアの労使関係の枠組みにとってきわめて重要なものとなる。こうした重要性のために、2002年4月16日にはゼネストが組織され、またその後は、労働組合間の歩調の乱れを招いているのである。CISL(イタリア労働者組合同盟)とUIL(イタリア労働連合)は、最終的には政府に協調して、上記の協定に署名したのに対し、CGILは、労働者憲章法18条の修正を先決問題と位置付けたうえ、政府や他の労働組合と、労働運動上の対立にとどまらず、政治および理念上も明確に対決する姿勢を示している。

2.現行法の枠組み

不当解雇に関する現行法の枠組みは、次の3つの法規制を基礎にしている。

  1. 1966年7月15日法律604号〔個別解雇に関する規則〕
    正当事由または正当理由なく労働者が解雇された場合、当該解雇を違法と判断すると定めている。この1966年の法律によれば、労働者を不当に解雇した使用者は、労働者を再雇用するか、一定額の手当を労働者に支払うかしなければならなかった。使用者に再雇用の義務付けは行うが、直接に労働契約関係の維持を認める効果はもたないという意味で、学説はこの規制を「債務的安定化制度」と位置付けている。
  2. 1970年5月20日法律300号(いわゆる「労働者憲章法」)18条
    一定規模の企業に関して、不当に解雇された労働者(すなわち、正当事由または正当理由なく解雇された者)の原職復帰を義務付けると同時に、解雇された日から現実に原職復帰した日までの事実上の総報酬に相当する額の金銭を、損害賠償として当該労働者に支払わねばならないと定める。損害賠償額は、いかなる場合でも報酬の5ヶ月分を下回ってはならない。また、使用者は、解雇の日から原職復帰の日までの社会保障および社会扶助の拠出金も負担しなければならない。学説は、この規制を「物権的安定化制度」と位置付ける。
  3. 1990年5月11日法律108号〔個別解雇に関する規定〕
    1970年法律300号18条の適用範囲、すなわち、物権的安定化制度が機能する範囲が修正された。現在ではこの新規制に基づき、以下の場合について、不当に解雇された労働者の原職復帰が義務付けられている。
  • 当該解雇が実施される生産単位において、自らの従属下で15人(農業的企業の場合は5人)を超える労働者を雇用している使用者(事業経営者か否かは問わない)である場合。
  • 使用者が、同一市町村内において、15人(農業的企業の場合は5人)を超える従業員を雇用している場合には、より小規模の生産単位で実施された不当解雇にも適用がある。
  • 総計60人を超える労働者(配置場所は問わない)を雇用している使用者(事業経営者か否かは問わない)の場合。

労働者憲章法18条は、物権的保護が及ぶ従業員数に関する基準(その反面として、債務的保護が及ぶ基準も)をさらに明確化している。

まず、労働訓練契約で採用された労働者も、従業員数に含めることとしている。これに対し、見習労働者については何らの定めもないので、従業員数の算定から除外されたままということになる。また、労働者憲章法18条は、(期間の定めのない)パートタイム労働者の算定基準も明らかにしている。つまり、実際に労働が遂行された労働時間数に応じて、パートタイム労働者を従業員数に含められ、その際には、産業別労働協約で規定する労働時間が基準となると定められている。使用者の配偶者や直系および傍系の2親等以内の親族は、算定から除外されることが明記されている。

物権的安定化制度が適用されない場合については、依然として、1966年法律604号が適用される。同法によれば、不当解雇と判断された場合、使用者は、判決の日から3日以内に当該従業員を再雇用するか、代替手当を支給しなければならない。代替手当の額は、解雇される前に得ていた事実上の総報酬の2.5ヶ月分から6ヶ月分でなければならない。具体的な額は、企業規模、当該従業員の勤続年数および両当事者の状況によって決まる。勤続年数が10年または20年を超える労働者に関しては、同手当の額をそれぞれ10ヶ月分または14ヶ月分に引き上げることができる。

再雇用は、不当解雇により終了した労働関係を改めて成立させることを目的としている。したがって、原職復帰制度と異なり、従前の契約関係が解消されることなく、継続することを定めるものではない。再雇用制度は、解雇までに成立していた権利や期待(たとえば、年功、賃金水準、配属など)は尊重されるものの、新たな労働関係の開始と位置付けられているのである。

3.2002年7月5日の社会協定により成立した法的枠組み

小規模企業の規模を増大させ、正規の労働市場における就業を増加させる(そして、闇労働を減らす)ために、2002年7月5日の政府と労使間での協定は、1970年法律300号18条に関する暫定的な適用除外措置を定めた。すなわち、3年間に関しては、新規採用者(期間の定めのない契約や労働訓練契約で採用された者も含む)はすべて、18条の適用を左右する従業員数の算定には含めないのに対し、現在すでに採用されている労働者で従業員数の算定から除外されるのは、見習労働者、原職復帰契約で採用された者、派遣労働者、社会的有用労働に従事する者、親族および配偶者に限定する。

ただし、適用除外の基準は、上記社会協定を実現する法律の施行日において、1970年法律300号18条およびその修正規定の適用範囲にすでに含まれていた使用者(経営者か否かは問わない)が、従前の12ヶ月間に、平均して、18条の定める数の従業員を雇用していた場合には適用されない。これは、適用除外の要件を満たすために、使用者が労働者の一部を解雇することのないように定められたものである。

以上の基準(適用除外は、新規採用者と18条の適用範囲からすでに除外されている企業にのみ認められる)は、適用除外の試験的実施によって、現在すでに物権的保護を享受している者の権利が侵害されないようにと、CISLおよびUILが強く望んだものであった。この結果、18条の適用を受けない企業(従業員数60以下の企業または生産単位が15人以下の労働者で構成された企業)は、新規に労働者を採用することによって、適用除外の基準を超える従業員を雇用することになったとしても、原職復帰義務が課されることはないのである。

また、同じく偽装を回避するため、上記協定を実現する法律の施行日後に成立した企業で、企業設立と同時か、その後12ヶ月以内に、1970年法律300号18条の適用される従業員数の基準を超えた企業についても、適用除外の基準は適用されない。

協定は、措置の暫定性に即した監視制度も定めている。また、措置の延長やより急進的な18条の改正をなすべきか判断するために、措置の施行日から24ヶ月経過後に、比較的より代表的な全国規模の使用者組織および労働者組織と協力して、企業規模、労働市場および就業水準に対する影響を、労働省が調査することになっている。

先に述べたように、労働法の保護(とくに、一定規模以上の企業に適用される原職復帰義務)が、正規の就業や企業規模の拡大を阻害しているのか否か、阻害しているのであればどのような形でかを明らかにすることが、今回の目的である。実際、1970年法律300号18条の適用を回避するために、イタリアには数多くの小規模企業や零細企業が存在するとの主張がある。

4.労働者憲章法18条の暫定的適用除外に関する議論

1970年法律300号18条の措置は、法技術上および政治上の重要な問題を引き起こしている。実際、法技術上の問題が解決されれば、この問題はイデオロギーから開放され、協定に署名した側と、CGILや反対政治勢力のように、18条に関する措置に反対する側との対立のために現在閉ざされている対話の道が開かれる可能性もある。

とくにCGILは、18条の改正に反対して、憲法裁判所に提訴する考えを明らかにしている。CGILの指導者によると、従業員数が15人を超える企業の労働者に18条を適用しないことになれば、「労働者間、そして企業間の待遇が区別されるおそれがあるために、重大な事態」が生じるかもしれないとしている。つまり、「明らかな憲法違反」の差別というわけである。

この問題を解決するには、政府の採用した措置が合憲か否かについて、イタリアの法制度上、一義的な答えが存在しないこと認めることから始める必要がある。この問題が憲法裁判所に持ち込まれれば、当該事項について確立した判例に従って、採用された措置の合理性を状況に応じて判断し、対立する利害関係を比較衡慮することになろう。

同数の従業員を有する企業間で取扱いに格差を設けることは、イタリアの制度にすでに存在するものである。既述のように、見習労働者、1991年7月23日法律223号〔所得保障金庫、移動、失業手当、EU指令の実施、労働開始および労働市場に関連する他の措置に関する規則〕20条にいう原職復帰契約により採用された労働者、社会的有用労働に従事する労働者、準従属労働者、使用期間中の労働者および奨学生、使用者の配偶者および2親等以内の直系・傍系の親族労働者は、労働者憲章法18条による保護の適用を決める従業員数算定の際に考慮されない。1990年法律108号が成立する前には、有期労働者を算定に含めるかについては議論があったものの、労働訓練契約を締結した者は算定から除外された。派遣労働者も、派遣先で労務を提供しているにもかかわらず、従業員数に含まれない。

したがって、企業あるいは生産単位において同数の者を採用した場合でも、企業がこれらの契約形態を利用するか否かによって、不当解雇につき異なる保護制度が妥当しうるのである。たとえば、従業員数に算入される14人の労働者と6人の見習労働者を有する生産単位には、18条が適用されないのに対し、14人の労働者と2人の労働訓練契約者を有する場合には、前者の企業より総従業員数が少なくても、18条が適用されるのである。また、連携的かつ継続的協働労働関係の濫用について法的取扱いの格差があることはいうまでもない。

実際、少なくとも憲法裁判所の判例に従えば、取扱いに格差があること自体は差別ではなく、利益衡慮により正当化されれば、当該格差は肯定されると考えられている。

こうした観点からすると、政府や協定に署名した組織が採用しようとしている措置は、基本的権利(具体的には、イタリア憲法4条の定める勤労権)の追求を目的としている。一方、憲法裁判所は、労働者憲章法18条にいう労働ポストの「物権的安定性」が、労働者の基本的権利でないと明確に断言してきた。労働者の基本的権利は、不当に解雇されないことである。逆に、正当性を欠く解雇による効果(原職復帰ないし再雇用)は、これとは別物であり、憲法裁判所によれば、立法者の広範な裁量に属する事項であるとされている。

とくに、憲法裁判所は、18条を、いわゆる「憲法に内容を拘束された」法律(すなわち、規定の廃止や修正により、憲法の原則に反することになるかが問題となる法律)と考えていない(2000年36号判決)。換言すれば、18条は、「明らかに、憲法4条および35条により定められた勤労権を漸次保障していくという姿勢の表れであり、時期の選択だけでなく、実現の方法の点でも、この保障を立法者の裁量に委ねることにより、使用者の有する解除の権限を制限したのである」(1970年194号判決、1976年129号判決および1980年189号判決)。2000年36号判決は続けて、こうした裁量に関し、次のように述べている。「上記の憲法原則に関係する要請があることが明らかでも、18条の規定が、同原則を実現する唯一の方法であると考えるべきではない。したがって、いわゆる物権的保護が廃止されたとしても、勤労権の保障を実現するための方法の1つを削除する効果しかもたない。ゆえに、物権的保護や債権的保護に関して妥当している現行法の規制のなかで、解雇には正当性が必要であるという根本的基準に回帰するだけである。1970年法律300号18条が 廃止されたとしても、1990年5月11日法律108号によって修正された1966年7月15日法律604号の定める債権的保護(この保護が、潜在的にすべての場合に適用される性質をもつことが、ここでは強調されるべきである)が法制度において機能している限り、1999年2月9日法律30号により承認され現在施行されている欧州社会憲章から演繹される原則に照らしても、不当解雇に関する保護が不十分になることもない。」

したがって、憲法裁判所が断言したところによれば、立法者は、憲法上の勤労権を実現する時期および方法を判断する権限をもつことになる。このため、今回の場合のように、職をもたない者や闇労働や非正規労働の影で制限されている者の権利により配慮した方法で、立法者が、憲法4条の定める基本的勤労権を追求することを妨げるものは何もない。ISTAT(国立統計局)によると、イタリアの労働力の約23%にも上るとされている非就労や隠蔽された労働形態(他の形態の比率を明らかに上回っている)には、18条のような正規採用に対する硬直性も阻害要因もない。こうしたイタリアの労働市場の状況は、ヨーロッパのなかで失業率が最も高く、逆に、就業率は最も低い国の1つであるということも相俟って、政府により提案された試験的措置を正当化し合理化することになるのである。

当然、採用される措置が目的に見合ったものであることは必要である。この場合、政府の実施しようとしている措置が、暫定的・臨時的性質のものであり、また、イタリアに対し、正規就業の率を引き上げ、企業数を増加させることを当初から求めているEU当局によって強く要求されたものであることを考慮すると、合理性を認めうるように思われる。また、前述のように、措置の試験的性質に即した監視制度も規定されている。

そのうえ、憲法裁判所はすでに、類似の問題(解雇法の適用範囲を定める基準から、見習労働者が除外されていること)について判断している。すなわち、憲法上の重要な目的を追求する(この場合は、若年者の就業の保護)ということによって正当化され、かつ期間を限定して実施されるのであれば、同規模の企業間で取扱いに差を設けることは合憲であると明言している(1989年181号判決)。

5.結論

法技術上の分析から明らかであろうが、ここで問題となっている措置が、企業規模を拡大し、正規就業の率を引き上げるという目的に対して、無益であるばかりか逆効果でさえあることを主張することはできよう(ことによると、試験的実施期間が終了するまでに、これを証明することも可能かもしれない)。しかし、法的枠組みに関するここまでの検討に照らせば(また、原職復帰制度が他のヨーロッパ諸国の法制度で一般的に認められているわけではないのだからなおさらであるが)、今回の措置が、クーデター的であるとか、憲法違反の性質を有するとまではいえないように思われる(CGILはこれを主張するが)。

労働問題の研究者がしばしば警告するのは、こうした形式的・技術的事情を、措置の反対者はまったく考慮していないということである。この結果、イタリアでは、労働組合の対立が拡大しつつあり、1968年から1969年にかけてのいわゆる「熱い秋」と呼ばれる労働闘争の時期の状態にまで、社会的対立を悪化させるおそれもある。しかし、イタリアにおいて、社会的対立は、労働者、求職者、企業システムのいずれにとっても有益ではない。ますます激化し、労働者憲章法18条のような過度の保護にはほとんど関わらないソーシャル・ダンピングを生じさせるまでに不衡平なこともある国際競争に対処するため、まさに労働保護について、法規制による支えが必要なのである。

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