失業保障制度改革

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年9月

5月、政府は失業保障制度改革案を議会に提出した。

前回は93年の改革で、失業手当受給に必要な就業月数を増やすこと、及び失業手当基準額の80%から70%への削減が行われた。当時は、公的失業保障制度の財政が悪化し、制度の維持が困難になったとの理由で、こうした削減の正当化が行われた。300万人を越える失業者を抱え、手厚い保護制度による支出はGDPの3%近くに達し、賃金労働者による制度への負担金支払いだけでは維持できなくなっていた。

2000年以降スペインの失業保障制度財政は大幅な黒字に転じており、余剰分は積極的雇用創出政策にあてられている。それでも、現在の保守政権は相変わらず財政赤字ゼロ政策に固執しており、今回の改革が行われるにいたった。

以下はその内容。

  1. 農業部門の有期雇用労働者を対象とした失業保障制度を全国に広める。そのかわり、新規労働者の制度へのアクセスを認めない。 現在までは農業労働者への失業保障制度はスペイン南部のアンダルシアとエストレマドゥラの2つの州だけに限られていた。両州ではラティフンディオと呼ばれる大土地所有制度がみられるが、これらラティフンディオでの農産物収穫作業は季節性が高く、多くの農業労働者が収穫期以外は失業状態にある。80年代初頭にこのような労働者を対象とした失業保障制度が導入されたが、これは両州における農業部門の余剰人口の発生につながった。
  2. 特定の条件のもとで、賃金と失業手当を同時に受け取れる可能性が開かれる。現在までは、パートタイム労働者の場合のみ、労働時間分を差し引いた手当額を受給できるとされていた。改革により、55歳以上の労働者は労働を続けながら失業手当の一部が受給できるようになる。これは、手当の一部を雇用創出に向けることで、公的失業保障制度から積極的な雇用助成政策への移行を意味するものである。このほか、従業員数50人未満の企業に対して、労働者のいずれかが職業訓練コースに参加する間、失業手当を受給している労働者をそのかわりに提供するプログラムが導入される。この間、企業は職業訓練コース受講中の労働者に通常通りの賃金を支払うが、かわりに雇用した労働者に対しては賃金の一部のみを支払えばよく、残りのコストは国立雇用庁(INEM)が支払う。また改革により、52歳以上の労働者は失業手当を数年間受給したあとで定年前早期退職にアクセスできなくなることになる。
  3. 改革によって、就業経験を得るために職業訓練プログラムを通じて公部門で労働する労働者は、失業保障制度への負担金を支払わなくてもよいことになるが、そのかわり失業しても手当は受給できない。現行制度では、公務員(無期雇用)は失業保障制度に負担金を支払わないが、解雇あるいは辞職後に失業手当を受給する権利を有しないことになっている。
  4. 現行制度では、解雇が法定の理由に基づかないとして訴訟になった場合、裁判所の判断が出るまでの間企業が当該労働者に賃金を支払わなければならなかった。しかし、今回の改革ではこれを国立雇用庁(INEM)が支払うとしている。解雇が実際に法定の理由に基づかないとの判断が下されれば、企業はこの額をINEMに払うか、場合によっては労働者を再雇用しなければならない。
  5. 失業手当受給者は、自分にとって「相応しい雇用」の提供を拒否した場合、手当受給資格を失うが、ここでいう「相応しい雇用」の概念が修正されることになった。今後は「相応しい雇用」を労働者が過去6カ月以上にわたって従事したいずれかの職業(当該労働者の通常の職業)に対応するもの、最後に従事した職業、あるいは労働者の肉体的能力・教育で取得した能力に合うものとされる。賃金面からいうと、各部門での集団協約で定められた賃金を提供するものが「相応しい雇用」になる。また、自宅からの通勤距離が30km以内のものも「相応しい雇用」とされる。「相応しい雇用」を拒否した場合の罰則は、失業手当1カ月分の喪失から3カ月分の喪失へとより厳しくなる。なお現行制度と同様、3回拒否すれば手当受給資格を失う。
  6. いわゆる「断続的無期雇用」労働者(毎年一定期間だけ働く形で雇用される労働者)は、6カ月間働けば6カ月間失業手当が受給できたが、この制度が排除される。この雇用形態は特に観光部門の雇用者及び労働者にとって都合のよいもので、夏場の観光シーズンだけ働き、残りの期間は失業手当を受給することができた。
  7. 失業手当受給資格の有無を判断する上では労働者の収入を考慮しなければならないが、現行制度では当該労働者個人の収入、及び住居である不動産だけが考慮の対象となった。しかし今後は家族全員の収入(解雇に際しての補償金があればこれも加える)が考慮されることになる。

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