民主労総傘下事業所労組による労働争議の長期化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年9月

労働部によると、2002年上半期の労使紛争発生件数は前年同期の113件より倍近く増え、207件にのぼった。そのうち、不法争議件数も2001年の31件から41件に増えた。特に、電力部門労組に続いて保健医療労組・タクシー労組など民主労総傘下事業所別労組を中心に労使紛争が長引いていることもあって、ストへの参加者数と労働損失日数もそれぞれ6万5000人、76万4000日へと、前年同期より倍近く増えた。

その一方で、ワールドカップ大会を前に政府の呼びかけが功を奏したのか、「労使平和宣言」に応じた事業所は2125カ所で前年同期の1528カ所より大幅に増えた。これと共に、労組の賃上げ要求に応じる形で賃上げ交渉の早期妥結を図る事業所が増えているせいか、6月19日現在従業員100人以上の事業所5401カ所のうち、賃上げ交渉が妥結した1887カ所における平均賃上げ率は6.8%で前年同期の5.8%を上回っている。

7月下旬現在の労使紛争の状況をみると、病院労組やタクシー労組などによる労働争議は依然として終結のめどがたたず、警察隊の投入による解決をめぐって政府と民主労総の睨みあいが続いている様子である。その一方で、5月23日から産別交渉への移行をめぐって労使紛争(労組による工場占拠)が長引いていた斗山重工業では、労使が「地域仲裁団」の仲裁案(労組による正門封鎖の解除および完成品出荷への協力、労使間の信頼回復のための民事・刑事上の告訴・告発および懲戒処分の最小化)をそれぞれ受け入れたことで、労使間の話し合いによる解決の糸口がやっと見出されたようである。そのほか、6月24日から賃上げおよび労働協約改訂交渉が難航し、労使紛争が続いていた起亜自動車でも7月19日にようやく交渉が妥結した。以下、その詳細を追ってみよう。

病院労組・タクシー労組などによる労働争議の長期化

5月下旬民主労総主導の連帯闘争に参加した保健医療労組傘下病院労組のうち、7月下旬現在なお、労働争議を続けているのは6カ所である。病院労組の労働争議に対しては「職権仲裁制度」が適用されるが、今回の病院労組の労働争議は同制度上の法的手続きを踏んでいないとして、早くから不法行為に当たるとみなされた。

そのため、7月下旬現在すでに労組執行部22人に対して逮捕状が出され、66人に対しては告訴告発が行われるほか、402人に対する懲戒処分案件が同病院の懲戒委員会に持ち込まれるなど、政府と病院側の強硬な対応が目立っている。特に、労働争議の長期化に伴い、組合費および賃金の仮差し押さえや争議期間中の賃金に対するノーワークノーペイ原則の適用などで、組合員側の経済的負担も日増しに大きくなっている。

民主労総はこのような使用者側の経済的圧力に対して、「厳しい財政状態にある労組および組合員の弱みにつけ込んで、組合活動の弱体化を図ろうとする新たな労組弾圧である」と主張し、「損害賠償および財産仮差し押さえ請求訴訟の撤回のほか、職権仲裁制度の撤廃、労働基本権に関わる民事上の免責範囲の拡大などのための法改正」を求めている。民主労総の集計によると、使用者側が民主労総傘下労組および組合員を相手に起こした損害賠償および財産仮差し押さえ請求訴訟は39カ所で1264億ウオンにのぼっている。

そのほか、今回保健医療労組とともに、民主労総主導の連帯闘争に参加したタクシー労組のうち、仁川地域タクシー労組も7月下旬現在労働争議を続けている。争点は報酬制度の変更である。労組は現行の「社納金制度(一日の収入総額から会社への納入金を差し引く、一種の歩合制)」を「成果給方式の月給制(会社の月平均収入を基準にそれを上回る場合は賃上げ、下回る場合は賃下げとする方式)」に変えるよう求めている。これに対して、使用者側は「労使間の信頼関係が形成されていないだけに、成果給方式の月給制は時期尚早である」との立場を堅持している。

起亜自動車での賃上げおよび労働協約改訂交渉妥結

起亜自動車労使は、5月2日に賃上げおよび労働協約改訂交渉に入ってから18回にわたって交渉を重ねた末、7月19日にようやく暫定合意案を見出した。これを受けて、労組は6月24日から続けていた時限ストを取りやめ、操業の再開に応じることを決めた。経営側によると、今回の時限ストで生産台数は3万5400台減り、売り上げ上の損失額は4500億ウオンにのぼった。

今回の暫定合意案の主な内容は次の通りである。第一に、賃上げについては、当初労組側は基本給12万8800ウオン(12.5%)の引き上げと成果給3カ月分を要求したのに対して、経営側は基本給7万8000ウオンと成果給1.5カ月分を提示していたが、最終的に次のような妥協案が成立した。つまり、(1)基本給を9万5000ウオン(9.1%)引き上げる。(2)年末に目標を達成した場合、成果給として一律80万ウオンプラス1.5カ月分を支給する。(3)生産・販売台数を挽回するための激励金名目で150万ウオンを支給するなど。

第二に、労働協約改訂については、(1)「合併および事業譲渡、外注・分社化、工場・販売店の移転および統廃合などの構造調整と、新車種の投入や新技術・設備の導入に伴う労働条件など」を決定する際には労使が意見の一致をみなければならない。(2)「時間外労働・休日勤務、週休二日制導入に伴う賃金および労働条件、配置転換の際の労働条件など」を決定する際には労組の合意を得なければならないという経営参加条項が新設された。ただし、週休二日制については「労働法が改正されるか、または他の自動車メーカーで先に導入されること」がその条件となった。その他に、非正社員の労働条件を改善することや、定年を58歳に延長することなども盛り込まれた。

この暫定合意案のうち、特に注目されているのは、労組の経営参加を認める条項が盛り込まれたことである。起亜自動車は1997年に経営危機に陥り、会社更生法の適用を受けた。その過程で、労組側がそれまで勝ち取った経営参加権の放棄や構造調整への同意などが争点となり、労組側は経営再建に協力する形で経営参加権を一部放棄せざるを得なかったという経緯がある。

その後、現代自動車グループに買収されたのを機に、経営業績が急速に回復したこともあって、労組側は現代自動車労組の後を追うように、再び経営参加を要求するに至った。これに対して、経営側は労使紛争の長期化を避けるために労組の経営参加を認めざるをえなかったようである。

1997年の通貨危機後、労働界では経営危機や構造調整から雇用および労働条件を守るための有効な手段として、経営参加を求める動きが広がっている。今回の労使合意は労働界にとって新たな先例となり、経営側に圧力をかけるきっかけにもなるだろう。早くもそれを危惧しているのか、財界では「今回経営側が労組の経営参加要求を受け入れた」ことに驚きや不安を隠しきれない向きが少なくないようである。

いずれにせよ、「労組の強い交渉力に裏打ちされた経営参加」は、経営危機・構造調整から雇用および労働条件を守るための有効な手段になりうると同時に、それが行きすぎると、構造調整をむやみに遅らせるなど、経営危機の一因にもなりうる、という諸刃の剣のような側面を起亜自動車の労使は身をもって体験している。それだけに、同じ失敗を繰り返さないためにも、その使い方にきちんと責任をもつ、より成熟した労使関係につなげることが期待されている。それは、財界の驚きや不安の声に応える道でもある。

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