自動車産業での緊張高まる

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年9月

BHP社での労使紛争

2002年6月に自動車産業のある供給業者における労使紛争が解決をみた。BHP社のある製鋼所で起きた労使紛争自体はそれほど大規模なものではなかったが、自動車組立産業等はジャスト・イン・タイム(JIT)方式を通じ部品などの定期的な供給に依存する度合いを増しているために、予想外に多くの労使がこのストライキの影響を受けることとなった。

自動車産業はこれで過去10カ月間に3度も部品・材料不足で操業停止を余儀なくされた。1回目はウォーカーズと呼ばれる会社、そして2回目はトライスター社でのストライキであったが、いずれもオーストラリア製造業労働者組合(AMWU)が関係していた。ある論者によれば、労組はJIT方式により提供されたその影響力を労組の戦略として利用するようになっているという。しかし別の論者は、労組は通常の戦略を実行しているに過ぎず、JIT方式を通じた第3者への影響は付随的なものであると主張する。確かなのは、JIT方式を通し製造施設がお互いに密接に関連するようになったため、1つの工場でのストの影響が即座に他の工場に伝わるようになったことである。紛争の第3者がこうした労使紛争による損害の賠償を求めるのも時間の問題とみられていた。

政府の介入?

今回の労使紛争がそれまでの2回の紛争と異なっていたのは、職場関係法により開かれた法的救済措置の利用を連邦政府が使用者に強く勧めたことであった。連邦政府の労使関係改革案は上院で留まったままであり、それに失望した政府は現行法規定を使って使用者が労組と対決するよう促すようになったのである。一部では、雇用職場関係省が法的措置を勧めるためにBHP社と接触を持ったと伝えられている。また産業省長官も使用者に労組との対決を促すための手段として産業保護政策を利用する意向を示した。産業保護政策は2005年に見直し(現行15%の関税率を10%に削減する計画)が予定されており、労使関係の最適化(賃金カットや労働強化など)のためにこれが利用される可能性がある。そうなれば、相対的に協調的な自動車産業の労使関係が明らかに混乱するであろう。

BHP社の労使紛争の争点は、メンテナンス業務の外注化であった。その条件をめぐる交渉が行き詰まり、2002年5月にストライキが始まった。労組は工場を閉鎖したわけではなかったが、ピケラインにより鋼製品の輸送はほとんど不可能となった。6月になって騎馬警官がピケラインを突破し、400トンの鋼製品が外に持ち出された。また輸送のためにヘリコプターも利用された。

連邦政府は、BHP社に労使関係委員会による職場復帰命令を求めるよう促した。自動車組立会社(GM、フォード、トヨタ、三菱)も、ストライキによる損害賠償をスト実行者に求めうると主張した。職場復帰命令の請求は認められたが、多くの労働者がそれを無視したため、会社は12名の労働者を裁判所侮辱で訴えた。その後、BHP社と労組との間で話し合いがもたれ、妥協が成立した。自動車組立会社も損害賠償請求と裁判所侮辱の訴えを取り下げ、労使紛争は終結した。

同種の労使紛争は今後とも発生

しかし、こうした紛争は今後も生じる可能性が大きい。実際に、2003年にはビクトリア州の製造業で労使紛争が増加すると考えられている。製造業の労組は企業別協定の満了日を同じ日に設定し、産業規模の争議行為を合法的に行う準備をしているのである。連邦職場関係法は産業規模の争議行為を違法としているため、労組はこのような形で法律の裏をかこうとしている。企業別協定の満了日は2003年6月であり、使用者たちは連邦政府からより厳しい対応をするよう圧力を受けると思われる。

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