「週休二日制」の導入をめぐる労使の攻防

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年8月

労使政委員会を舞台に週休二日制の導入をめぐる中央レベル労使の攻防が延々と繰り返される一方で、法改正を待たずに労働協約改訂交渉で週休二日制の導入を図ろうとする事業所別労使の動きが広がりをみせるなど、中央(法制)と現場(自治)との間にねじれ現象が生じている。特に、金融部門で産別交渉により週休二日制が実現したのを機に、労働界や経済界の内部でも「法改正の前に事業所別労使交渉で週休二日制の導入を図る動き」の是非をめぐって意見の対立が目立ち始めている。では、週休二日制の導入をめぐって何が争点になっており、それに対して中央レベル労使と事業所別労使はそれぞれどのようなスタンスをとってきたのか探ってみよう。

週休二日制の導入をめぐる主な争点

まず、労使政委員会では2000年10月に週休二日制の導入に関する基本合意に達した後、その施行時期や年月次休暇制度の調整および賃金補填などその進め方をつめる段階に入ったが、2002年6月下旬現在なお労使の話し合いは平行線のままで、最終合意には至っていない。

その間、2001年9月には公益委員側が一つのたたき台として妥協案を示したのに続いて、同年12月13日にはその一部を修正し、「合意のための代案」と名づけて最終試案を明らかにした。その試案にはそれまでの話し合いで浮き彫りになった主な争点について次のような妥協案が盛り込まれた。第一に、施行の時期については、特に中小企業への影響に配慮して、公益委員側の妥協案より2?3年遅らせる。(1)金融・保険・公共部門は2002年7月から早期施行、(2)その他の部門では、従業員1000人以上の事業所は2003年7月、500人以上は2004年7月、300人以上は2005年7月、50人以上は2007年7月、10人以上は2010年1月からそれぞれ施行する。

第二に、年月次休暇制度の調整については、年月次休暇を統合したうえで、勤続年数1年以上の者には15日を与え、その後3年毎に1日ずつ加算するが、22日間をその上限とする。そして同休暇制度の変更に伴い、賃金総額および通常賃金が下がることはないように賃金補填に関する条項を付則に明記する。

第三に、弾力的労働時間制については、現行の2週間単位と1ヶ月間単位を6ヶ月間単位に拡大し、1日12時間、1週間に52時間を上限とする。そして週休二日制導入後3年までの期限付で、超過勤務時間の上限を現行の週12時間から週16時間に伸ばし、新たに加算される4時間分の時間外手当の割増率を現行の半分(25%)にする。

その他に、韓国特有の「週平均1回以上の有給休日制度(労基法54条)」と「月1日の有給生理休暇制度(労基法71条)」を無給にすることも盛り込まれている。

この最終試案が発表されてからも、韓国労総側の反対や同委員長選挙、さらに公企業の民営化をめぐる労使紛争などの影響で、労使政委員会での話し合いはしばらく中断された。

その後、2002年2月に韓国労総のイ・ナムスン委員長が再選され、4月初旬に公企業の民営化をめぐる労使紛争が一段落したのを受けて、労使政委員会での話し合いは再開された。その一方で、政府は閣僚会議で「公務員を対象に週休二日制を試験的に実施するために国家公務員服務規定改正案を通すなど」、労使に圧力をかける場面もみられた。この時点ですでに労使政委員会での話し合いは出尽くし、労使の最終決断を待つのみであるといわれた。

しかし、当初上記の最終試案に反対していた韓国労総側が同試案に沿って最終交渉に臨む方向で内部調整に動き出そうとしたところ、今度は韓国労総傘下の「製造業連帯」の反対、さらに民主労総の猛反発に遭うなど、韓国労総側は大詰めの段階で足元をすくわれ、労働側の交渉代表としての責任体制が厳しく問われるはめになった。

まず、韓国労総側の内部事情からみてみよう。金融部門では、法改正を待たずに2002年の産別交渉で労使政委員会の最終試案に沿って週休二日制を勝ち取ることを最優先する方針をいち早く打ち出していた。これに対して、製造業部門は労使政委員会の最終試案を拒否し、「労働条件の切り下げのない週休二日制導入」の原則を貫くよう執行部に求めた。

結局、韓国労総は4月16日の産別労組代表会議で製造業部門の意見に沿う方向で次のような独自案を確定し、17日に労使政委員会での話し合いに臨んだ。つまり、(1)既存の賃金を補填する旨を労基法の付則に明記する。(2)年次有給休暇として勤続年数1年以上の者には18日を与え、1年毎に1日を加算する。(3)超過勤務時間と時間外手当の割増率を現行の週12時間と50%に据え置く。(4)施行時期を2007年1月に繰り上げるというものである。

そして、民主労総は「政府と韓国労総、経営側は休日休暇の短縮や弾力的労働時間制の拡大など労働条件を大幅に引き下げる方向で週休二日制の導入に合意しようとしている。これは中小企業の労働者や非正規労働者の犠牲を招くだけである」と猛反発し、労使政委員会での話し合いを阻止するために同委員長室に立て篭もるなど実力行使に出た。

その一方で、経営側は韓国労総側の独自案に対して「賃金補填の原則は受け入れられるものの、年月次有給休暇日数の調整や施行時期などについては譲れない」との立場を貫いた。ただし、経営側でも、交渉代表の韓国経総とその他の経済団体(全国経済人連合会、中小企業協働組合中央会など)の間で立場の食い違いが表面化した。つまり、韓国経総は「事業所別労使交渉で週休二日制の導入が一気に広がる前に法改正を急ぐべきである」との立場をとるのに対して、その他の経済団体は法改正を急ぐ必要はないとの見解を表明し、韓国経総の足を引っ張るようなスタンスに傾いたのである。

このように週休二日制の導入をめぐって労使の立場が錯綜するなかで、それぞれの立場を裏づけようとする誘引が強く働いているせいか、週休二日制の賃金上昇効果をめぐって論争が巻き起こっている。まず、民主労総は次のように賃金が下がると主張した。つまり、「労使政委員会の最終試案がそのまま適用されれば、(1)勤続年数10年の労働者を規準に正規職男性の賃金は3.4%、女性のそれは6.5%下がる。(2)賃金補填の原則が労基法の付則に明記されても、月給制以外の時給制・日給制・歩合制労働者の場合、現在有給休日と見なされる日曜日の無給化で賃金は20.3%下がる」というものである。

これに対して、韓国労働研究院は「労使政委員会の最終試案通りに実施されれば、賃金は平均2.83%上昇する」という分析結果を出した。つまり「法定労働時間が短縮されても超過勤務時間は生産職の場合週4時間、事務職は週2時間それぞれ増え、それに時間外手当の割増率として25%が適用されれば、賃金は生産職の場合4.66%、事務職は1.91%それぞれ上昇し、平均2.83%上昇となる。その他に長期勤続者が多い大企業の場合年次有給休暇の短縮で賃金下落効果が大きいのに対して中小企業では賃金上昇効果が大きい」というものである。

この韓国労働研究院の分析結果に対して、今度は大韓商工会議所が「(間違った前提の下で、賃金上昇効果を平均2.83%とかなり低めに推計するなど)中立的立場にたつべき政府系研究所が労働界寄りの分析結果を出して、現実を歪めている。客観的な前提に基づいて新たに分析しなおすべきである」と強く反駁した。その賃金上昇効果については、「時間当りの賃金が上昇することを前提にすれば、企業にとってとりわけ負担が大きい生産職などの時間給制労働者の賃金は14.4%上昇する。その他に、シフト制をとる企業の場合、新交替組を追加するのにかかる人件費は3組3交替制では29.5%、2組2交替制では37.0%それぞれ上昇する」と主張した。

これに対して、韓国労働研究院は「時間当りの賃金を固定させたのは労使政委員会の最終試案に沿って算定したからである。時間当り賃金が上昇することを前提にした韓国労総側の案に沿って計算しても賃金は6.8%上昇するのにとどまる」と反論した。

その他に、全国経済人連合会付属の韓国経済研究院も「韓国労働研究院が2001年8月に発表した分析結果(「週休二日制の国民経済および社会に及ぼす影響」と題した報告書で雇用の5.2%増加と賃金の2?3%上昇効果があると指摘)は事実を著しく歪めている」と反駁した。その賃金上昇効果をめぐっては「韓国労働研究院の数値は実際の労働時間が週2時間減少するという仮定の下で算出したものであるが、最近5年間実際の労働時間はあまり変わっていないのに、名目賃金は毎年平均7.3%上昇したことを考えると、時間当りの名目賃金上昇効果は11%を超える」と指摘した。そのうえで、「週休二日制の法制化は急ぐ必要はなく、中小企業への深刻な影響などに配慮し、事業所別労使の選択に委ねるのが自然な流れである」と結論付けている。

事業所別労使交渉での週休二日制導入の動きと労使の対応

以上のように週休二日制とその影響をめぐって労使の利害関係が錯綜し、中央レベル労使の交渉代表は窮地に追い込まれる一方で、事業所別労使の間では週休二日制の導入に踏み切る動きが広がりをみせている。

まず、労働部が2002年2月下旬に週休二日制の実施状況を調査したところによると、従業員100人以上の事業所5027カ所のうち、完全週休二日制を実施しているのは191カ所(3.8%)、月3回は52カ所(1.0%)、月2回は784カ所(15.6%)、月1回は62カ所(1.2%)となっており、合わせて1131カ所(22.5%)で週休二日制が実施されている。

そして、韓国労総が3月初旬に傘下事業所別労組208カ所を対象に労働協約改訂交渉で週休二日制を要求するかどうかを調べたところ、41.8%でそれを要求し、36.1%ではまだ決めかねていると答えている。週休二日制を要求する労組の業種別分布をみると、公共・金融部門で74.4%、運輸サービス業では40.6%、製造業では33.3%などの順となっており、業種別に大きな開きがある。特に注目されるのは、週休二日制の導入にあたって、「年月次有給休暇や賃金の一部を譲歩してでも導入すべきである」と答えたのは13.5%にすぎない反面、「年月次有給休暇の短縮や賃金の削減につながる場合は反対する」と答えているのは74.5%に上るなど、「労働条件の引き下げのない週休二日制」の導入を求める向きが圧倒的に多いということである。

このように法改正を待たずに、早くも週休二日制を実施するか、もしくは労働協約改定交渉で「労働条件の引き下げのない週休二日制」の導入を要求する動きが広がりをみせていることに対して、労使はそれぞれ違うスタンスをとっている。特に、金融部門で産別交渉により2002年7月から週休二日制を実施することで合意されたのを機にその違いはより顕著に現れている。

まず、労働界は「労働条件の引き下げのない週休二日制」の早期実施要求を貫くのに対して、経済界は「国際基準に基づいた休日休暇制度調整を伴う週休二日制」の漸進的実施を主張するという対立構図には変わりはなく、平行線のままである。

問題は、妥協案として示されている労使政委員会の最終試案をめぐって、労使の利害関係が錯綜していることである。つまり、その試案に沿って、「労働条件の引き下げのない週休二日制の早期実施」が比較的に容易な部門(大企業や金融・公共部門)と、その試案に沿う場合、労働条件の引き下げが著しい部門(中小企業や製造業、非正規労働者)が混在しているため、その利害関係を調整し、全ての部門が満足する法改正案を見出すのは至難の業であるということである。

そのため、労働界では「労働条件の引き下げのない週休二日制」の早期実施を実現する道として、法改正よりは事業所別労使交渉での妥結に頼る動きが広がっている。特に、製造業部門労組の間では、いままで労働協約改定交渉で隔週土曜休日制(週42時間)を勝ち取ってきたこともあって、「法改正による完全週休二日制の導入は既存の休日休暇制度・時間外手当割増率の調整や弾力的労働時間制の拡大などを伴うだけに、労働条件の引き下げにつながるもの」と受け取られている。それゆえ、既得権益の放棄を強いられるような法改正よりは現行法の下で完全週休二日制を勝ち取る道を好んでいるのが実情である。

ということもあって、労働側の交渉代表である韓国労総も事業所別労使交渉で「労働条件の引き下げのない週休二日制の早期実施」を勝ち取ることが大きな流れになるならば、製造業部門や民主労総などの反対を押し切ってまで法改正に合意することは得策ではないと判断したのか、労使政委員会の最終試案に沿った法改正の話し合いにそれほど乗り気ではなくなっているようである。

そして経済界でも、中小企業協同組合中央会は一貫して法改正に強く反対するほか、全国経済人連合会の国際企業委員会(外資系企業の集まり)も「週休二日制を法的に強制するよりは、企業の自主的な導入に委ねるべきである」としたうえで、それとともに不合理な休暇制度および時間外手当割増率の調整、弾力的労働時間制の拡大などを求めている。

これに対して、経営側の交渉代表である韓国経総は「労働界が労働協約改定交渉で週休二日制を勝ち取ろうとする動きは、現在労使政委員会で行われている法改正のための話し合いに好ましからぬ影響を及ぼしかねないので、法改正が実現するまでそれに応じないよう」会員企業に求めている。ただし、やむを得ず、所定労働時間を短縮する場合はその分の賃金を削減し、週休二日制の導入を検討する場合は月次有給休暇を利用して'隔週土曜休日制'を導入するよう勧めている。そして「週休二日制を導入するためには現行の休日休暇制度上の過剰保護規定を国際基準に合わせて改善しなければならない」との立場を堅持し、「労使政委員会での話し合いを続ける」ことを再三強調している。

その他に大韓商工会議所も「労使政委員会での話し合いを通じて法改正が実現するまで、事業所別労使交渉で週休二日制を導入するのは控えなければならない」との見解を表明している。特に「金融部門では週休二日制の導入に伴い年次休暇・特別休暇に対する賃金補填を保障したが、大半の製造業部門にとってそれは容易に受け入れられるようなものではないだけに、労使政委員会での話し合いに混乱を巻き起こし、法改正をより難しくする恐れがある。また業界の現実を無視した週休二日制の導入は生産体制上の不都合や人件費上昇などを招くことにより、限界企業の海外進出や空洞化を加速させ、労働条件が劣悪な中小企業に深刻な影響を与えることも無視できない」と述べ、製造業の競争力に配慮した法改正を求めている。

いずれにせよ、ここにきて、労使政委員会での法改正のための話し合いに望みをかけているのは経済界の一部という構図が浮き彫りになっており、法改正を急ぐ政府もこれ以上なすすべがないというのが現状のようである。

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