労使関係委員会、アワード最低賃金の引き上げを決定

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年8月

オーストラリアでは、企業別交渉の普及とともに交渉力の弱い労働者が十分な賃上げを獲得できないことが問題となってきた。そこでオーストラリア労働組合評議会(ACTU)は低賃金労働者の生活水準を引き上げるために「生活賃金ケース」という形で労使関係委員会に賃上げ申請を行っている。ACTUによる申請は毎年行われており、2002年5月にはこの申請を審理していたオーストラリア労使関係委員会が最低賃金の引き上げを決定している。

決定の内容

オーストラリア労使関係委員会は、5月9日にすべてのアワード賃金率を週18豪ドル引き上げる決定を行った。これにより連邦最低賃金は週431.40豪ドルとなる。この引き上げ幅は過去20年間で最も高いものである。

連邦政府や使用者団体は10豪ドル程度の引き上げを望ましいとしていた一方、ACTUは25豪ドルの引き上げを求めていた。

労使関係委員会は、相矛盾する経済状況を考慮しながら今回の決定を行わざるを得なかった。つまり、オーストラリア経済の力強さを示す指標が存在する一方で、オーストラリア連銀が不動産価格や世帯債務の急騰に歯止めをかけるために金利引き上げを決定したことから、一部の使用者は金利引き上げと賃上げという2重の負担を強いられるのではないかと恐れていた。さらにオーストラリア統計局によると、2002年4月には失業率は6.3%を維持したものの、5万5000人ものフルタイム労働者が仕事を失った。

決定に対する評価

同決定の影響を受ける労働者は170万人以上に及ぶとみられており、ACTUは歓迎の意向を示しているものの、使用者団体は一様に批判的な見解を示した。特にオーストラリア産業団体(AIG)などは賃金制度ではなく社会保障制度を通じて低賃金労働者に補償する政策を支持するようになっている。

ACTUの「生活賃金ケース」の短所は、その本来の目的が公平性を確保するために低賃金労働者の賃金を引き上げることにあるにも関わらず、実際には高賃金労働者にもその効果が及んでいる点である。そのため労働党でさえ、「貧困の罠」にとらえられた人々の生活水準向上の方策として税額控除等の方法を検討している。またACTU自身も政府に対し低賃金労働者の税負担軽減を求めている。

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