2001年の賃金費用動向

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

2001年を通じて企業労働者1人当たりの名目賃金費用は4.15%上昇した。実質上昇率は1%弱となる。1999年~2000年の2年間の上昇率3%未満と比べわずかながら増加しているのがわかる。

労働者1人のコストは年平均2万1970ユーロ(約365万ペセタ)である。このうちほぼ4分の3が賃金であるが、EUで最も低い割合である。労働費用全体に占める賃金費用の割合は2001年に労働費用が3.5%上昇したことも手伝って、75.5%から75%に減少した。

賃金以外の費用のうち94.3%(労働費用全体の23.2%)は、社会保障制度への負担金支払い分である。これは2001年を通じて4.5%と、労働費用全体の伸びを上回る伸びを示した。一方、納税者が支払う労働費用である社会保障制度の助成及び減額分は15%減少している。

各種労働者の雇用に対する税務上の新たな優遇策がとられたにもかかわらず、その効果は時と共に薄れつつある。それでもスペインではこうした優遇策によるコストは労働者1人あたり160ユーロとなっている。その意味では、2001年を通じて労働者が受け取る賃金以外の報酬は15%増えているが、その大部分は金銭以外の現物支給によるものである。

2001年の労働協約による賃金上昇率は3.43%で、労働費用アンケートの平均上昇率に近い値となっている。

インフレ率を賃金上昇率の目安とする労働協約がますます増え、また交渉戦略も同じ方向をとる中、賃金上昇は過去数年間におけるインフレ傾向の反映にとどまっているがスペインの主要労組が賃金上昇要求を強める方針をとる一方、雇用者側は近年の好況を反映してこれを受け入れる姿勢を示すという変化も生じている。

民間部門の賃金労働者のうち集団交渉のカバーを受ける労働者の割合(集団交渉のカバー率:公部門の労働者は集団交渉に含まれない)は、年とともに増加する傾向にある。逆に言えば、集団交渉のメカニズムの外で労働条件が決定される労働者の数は、年々減少している。しかしながら、2001年はこの傾向が崩れ、集団交渉のカバー率が約5%近く低下している。これは2002年向け集団協約の多くがいまだに交渉中であることによる影響もあるが(スペインの法制では遡及効果を持つ協約締結を認めているので、奇異なことではない)。2001年の労使紛争が減少していることを見ると、集団交渉が長引くという状況とはあまり一致していない。

スペインにおいては県別の労働協約をめぐる集団交渉が大半を占め、民間部門の賃金労働者50%以上がこれによってカバーされている。政策的には全国規模の労働協約と企業別労働協約を優遇する措置が交互にとられてきたにもかかわらず県別協約の割合いはほぼ保たれており、フランコ独裁時代より続いている集団交渉の伝統を政府主導で変えてゆくことの困難さを示している。県別に続いて多いのは全国規模の部門別協約である。カバーされる労働者は全体の4分の1強にのぼる。企業別協約は80年代以降ほぼ一貫して減少傾向にあり、カバーされる労働者も全体のわずか11%程度となっている。集団交渉の枠外にある労働者は、公式統計によれば全体の6%のみである。

スペインの二大労組であるスペイン労働者委員会(CCOO)とスペイン労働者総同盟(UGT)は、交渉の種類に関らずほぼすべてに参加している。2000年のデータによると、CCOOとUGTが賃金労働者全体の95%以上に参加している。両労組を比べると、CCOOの方がわずかにUGTを上回っている。その他の労組(特定部門労組、特定自治州労組、及び小規模の全国労組など)が参加する集団協約は、労働者全体の35%をカバーしている。

もともと共産党系のCCOOは、集団交渉の38.1%を占める最大。社会党系のUGTが37.8%でこれに続き、その多の労組は15%となっている。全国レベルの労組は企業別協約よりも部門別協約交渉への関与が目立っており逆にその他の労組は企業別協約の交渉でより多く見られる。

より詳細な分析のために96年~98年にかけて行われた3つの特定部門における県別・自治州別の協約交渉を調査してみると、二大労組のCCOOとUGTが統一行動路線を維持したにもかかわらず、CCOOの代表がより多く参加している交渉、あるいは二大労組以外の労組が多い交渉において、平均を上回る賃金上昇率が獲得されていることがわかる。逆に集団交渉における労働者代表の組み合わせがこれ以外の場合には、賃金上昇率は平均を下回っている。これは下記のグラフに表すとおりであるが、地方及び部門によるばらつきを差し引いた結果である。

集団交渉の場でCCOOが労働者代表の過半数を占めた場合、賃金上昇率はその年の部門別平均を0.5ポイント上回っている。CCOOが過半数を占めないが35%?50%と主要な割合を占め、同時に二大労組以外の労組が35%未満の場合には、2ポイント近くもの差が見られる。しかし、CCOOの割合が同様に35%?50%であっても、同時にUGTの割合が大きいと、交渉結果には変化が見られる。つまり、CCOOが最大の割合を占めていてもUGTが35%~50%であると、賃金上昇率は平均を6.5%下回っているのである。調査対象となったケースには二大労組以外の労組が単独で過半数を占めるものは一つもないが、単純多数を占めるケースはいくつか見られ、その場合賃金上昇率は平均よりも3.5%大きい。ただしこの場合には地方による要因が決定的で、実際これはバスク州でしか見られなかった現象である。

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