公務員に、夏季週休3日制実施
―夏季週休3日制実施に対する反響

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

フィリピンの記事一覧

  • 国別労働トピック:2002年7月

公務員に、夏季週休3日制実施 -夏季週休3日制実施に対する反響

政府は、公務員に対し、夏季の4月と5月に週休3日制を導入した。この背景には、2001年、国内の治安の悪化と米国同時多発テロの影響により、国内外の旅行者が大幅に減少し、観光産業が不況に陥り、雇用に悪影響を与えていることがある。

1 夏季週休3日制の政策内容

政府は、国家・地方の公務員に対し、2班(月曜日から木曜日までの勤務のグループと火曜日から金曜日勤務のグループ)に分かれて、週4日10時間を労働し、週3日休む行政命令第32号を施行した。企業でも、試験的に一部の企業で実施された。政府は、公務員から着手し、その結果を分析し、来年以降の実施計画について検討する。

アロヨ政権は、「Holiday Economics」と呼ばれるこの政策による雇用開発を重要視しており、2001年の3つの重点的雇用政策、農業の基盤整備事業促進による農業従事者の増加、IT産業などの中小企業振興策による雇用の増加、海外出稼ぎ労働者送り出しの強化に継ぐ、4番目の柱となることを期待している。

2 観光業界の反響

この政策の推進役の一人、リチャード・ゴードン観光大臣は、この制度が開始されるにあたり、「公務員は、多くの部署で週休3日制が実施されるため、家族と共に地方へ旅行に出ることが期待される。このため、中央・地方での旅行代理店、宿泊業、飲食業、土産物の製造・販売業等での営業収入の増加が期待される。また、旅行に行かなくとも、時間とお金を有意義なこと使い、自由な時間が増加したことにより自営業を開始する準備に取り組む人も出てくる」と述べ、国民に理解を訴えた。

観光省によると、4月、5連休となった四旬節のホテルの宿泊率は、全国平均で、61%で、2001年の48%から大幅に上昇した。また、フィリピンツアーコンダクター協会が、全28コースの夏季特別ツアーを発表したころ、100%の予約があった。

特に宿泊率が高かったのは、ダバオの各州が85%、南イロコス州、北イロコス州、ラ・ウニオン州、パンガシナン州が75%、ビコール地方が74%、カミギン州、ミサミス州、カリンガ州、アパヤオ州、マウンテン・プロビンス州が65%、南部タガログ地方が63%で2001年を大幅に上回った。特に2001年と比較し上昇率が高いのは、北コタバト州、北ラナオ州で、前年同期の28%から大幅に上昇し、65%になった。

3 観光産業以外への経済効果

観光産業以外の分野にも、経済効果が現れているのは事実である。

まず、フィリピンは、国土が7000以上の島からできている。このため、何処に行くにも、陸上の交通機関と海上の交通機関を乗り継いで行くことが多い。バス会社やフェリーを運営する会社は、仕事が増え雇用の増加が見込まれている。

水着の製造メーカー、ボート、サーフボート等遊戯用品の製造メーカーも仕事が増えた。

4 地方政府の対応

準備期間が短かったため、各地方政府の対応は、統一されなかった。

マニラ市は、8000人の常勤職員は、政府の指導通り、出勤を2班に分け日頃の業務を行った。ただし、この計画からは、警察、救急隊、病院、保健所等は除外されている。また、リト・アチェンザ市長は、この勤務体制だと、月曜日と金曜日は、業務処理能力が普段の50%になることは認めている。

セブ州、東ネグロス州政府は、中央政府の指導通り勤務体制を2つに分け、勤務時間を朝7時30分から夕方6時30分に延長して開始した。しかし、95%の部局の管理職が反対し、4月中旬に中止した。理由は、出勤時間の7時30分が早過ぎて間に合わない職員がいるし、夕方5時以降は、疲労により労働能率が落ちるためであった。

5 経営者側の意見

経営者側の反応は、あまり良くない。多くの経営者側は、経済のグローバリゼーションが進む中で、フィリピン経済は、品質と生産性を向上させ競争力を高めるのに苦労しており、週休3日制にするのは生産性向上に良い影響を与えるとは考えていない。また、民間企業では、週4日10時間働いても、週5日働くのと同じような成果は上げられないという意見も出ている。

また、製造業の経営者側は、毎年繰り返される最低賃金の引き上げや、中国の製造業の成長が、フィリピンの製造業にとって脅威的な存在になってきている現状では、この制度の導入は、困難だとみている。

個々の経営者からは、「労働者は、増加した休日を、旅行や起業の準備よりピケやデモの準備に使用している。政府は、これらの現状について詳細に調査すべきだ。国家政策を見直し、労働倫理を刷新すべきである」という批判が出た。また、アロヨ大統領が、「私は、一日16時間、週6日働き、日曜日だけ家族と共にしている。時々、私は、倒れそうになる」と述べたことを取り上げ、言行の不一致を暗に批判するものも出た。

6 労働者の反応

この週休3日制は、公務員労組の要求により、出されたものではない。このため、公務員労組からは、週休3日制に対する歓迎のコメントは出ていない。ただ、一部の公務員からは、「我々に、真に必要なのは、旅行に行ったり、余暇を過ごす時間ではなく、旅行に行くためのお金である」という不満がでている。

ただし、多くの公務員は、毎月の給与には影響がなく、また、家族と共に居られる曜日が増えたため満足しているようである。

7 今後の見通し

今後の見通しについて、様々な意見が出ている。

民間企業の労組からは、民間企業で実施された場合、常勤で月給制の賃金を得ている労働者は、減収しないが、非常勤で日給制で賃金が支払われている労働者は減収になる可能性が高い。このため、政府が、全ての労働者に週休3日制を施行するのには、難しいのではないかという意見が出ている。また、ツアーコンダクター付きの団体旅行の料金が、高額で、こうした旅行に参加できる経済的余裕がある労働者層のは限られているという意見もあった。

観光業界からは、次の3つの意見が出されている、1.フィリピンの地方は、道路、港湾、空港などのインフラが未整備で、あまりに不便だと、来年以降も旅行者が増加するか分からない。一層の観光産業の発展には、政府が、こうした公共事業に早急に着手する必要がある。2.政府は、地方の観光産業を十分育成していない、地方の観光施設の充実と観光サービスに従事する労働者の研修制度が必要である。3.急減している海外からの旅行者を回復させるには、政府が新しい観光地の開発する必要がある。

また、これらのことが充分に実施されていれば、政府がこのようにキャンペーンを張らなくとも地方への旅行者は着実に増加しているはずであるという意見もあった。

地方の経済界からは、地方は、日常生活の維持に必要な産業さえ未発達であり、観光関連の事業より、これらの分野の公共事業の方を重点的に実施し、雇用開発に努めるべきだとの意見が出た。

団体旅行に参加した公務員からは、旅行に対する認識が変化し、ツアーの企画内容の充実とサービスの 向上が必要だという意見が出た。

関連情報