対政府闘争の色合いを強める民主労総系労組の連帯闘争

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

ワールドカップ大会の開催を前に、民主労総は「賃上げ及び労働協約改訂交渉が決裂し、労働争議調停を申請した傘下労組(金属・化繊・保健医療・タクシー)」の労働争議を5月下旬に集中させることで、「労使平和宣言」を呼びかける政府との対決姿勢を強めている。その一方で、韓国労総系労組(金融・観光)は相次いでスト計画を撤回し、「労使平和宣言」を採択している。

民主労総系労組の連帯闘争

まず、民主労総の動きから追ってみよう。民主労総では4月初旬、電力部門での労政合意及びゼネスト計画の撤回に現場組合員が猛反発したため、その責任をとって当時の執行部は総辞職した。その後しばらく執行部不在の状態が続き、5月6日に開かれた代議員大会でようやく執行部代行体制として「臨時非常対策委員会」を発足し、次のような2002年上半期の闘争計画を確定するに至った。すなわち、1中小零細企業の労働者や非正規労働者への皺寄せのない週休二日制導入、2国家基幹産業の民営化阻止、3政府の労働運動弾圧中断、4不正腐敗の根絶などを掲げ、5月下旬に傘下労組の賃上げ及び労働協約改訂闘争を集中させると共に、5月26日には3万人規模の労働者大会を開くというものである。

そして民主労総の非常対策委員長は5月20日、記者会見を開いて「賃上げ及び労働協約改訂交渉が決裂した傘下労組(270カ所余で7万人余)を中心に5月22日から集中的にストに突入する」と発表した。今回のストの狙いについては「賃上げ及び労働協約改定交渉の早期妥結を促すと共に、政府の労働運動弾圧の中断を求めるためのものである」と位置付けている。そのうえで、「ストに突入しても、ワールドカップ大会開催までには交渉が妥結するよう全力を尽くすが、賃上げ交渉とは別途に、(違法スト行為を理由に)労働者の拘束・手配や損害賠償訴訟、組合員の財産仮差押などの労働運動弾圧を中断しない限り、この実態を国内外に知らしめるためにワールドカップ大会期間中でも国際労働団体と連帯して闘争を続ける」と政府に圧力をかけている。

要するに、民主労総は「傘下労組の賃上げ及び労働協約改訂闘争」をワールドカップ大会の直前に集中させることで、政府に圧力をかけ、「違法スト行為に対する刑事民事上の責任追及の最小化」を勝ち取るための対政府闘争につなげようとしているようにみえる。

その一方で、産別労組の金属労組と保健医療労組などは5月21日に記者会見を開いて、「使用者側が産別交渉への移行に合意すれば、その他の争点については妥協する用意がある」ことを明らかにするなど、世論を意識したのか、それとも念願の産別交渉を勝ち取る好機ととらえたのか、産別交渉を改めて要求する場面もみられた。

例えば、金属労組は「今年の賃上げ及び労働協約改訂交渉で、産別労組レベルでの統一協約づくりに向けた基本協約の締結と労使共同実務委員会の設置を使用者側に提案したが、使用者側はそれに及び腰でいまだに合意が得られていない。5月21日の交渉で産別交渉要求が受け入れられれば、基本給の引き上げ率などその他の案件については使用者側と妥協することができるが、もし、その要求が受け入れられなければ、22日午後1時から交渉が決裂した事業所労組を中心にストに突入する」と警告した。また保健医療労連も「週休二日制の導入や私学年金制度の改善などの争点については使用者側全体と交渉しなければならない。産別交渉要求が受け入れられなければ、23日からストを強行する」ことを明らかにした。

結局、民主労総の闘争計画どおり、産別労組単位で22日に金属労組と化繊労組を皮切りに、23日には保健医療労組、24日にはタクシー労組連盟などが相次いでストに突入した。

まず、金属労組は5月8日に傘下事業所労組120カ所の争議調停申請を出した後、5月22日午後1時に「産別の基本協約締結、労働時間短縮、賃上げ、労災予防対策などの要求案をめぐる交渉が決裂したため、ストに突入する」と宣言した。金属労組のうち、自動車や造船などの大型事業所労組は賃上げ交渉の日程がずれていたため、今回の連帯闘争には参加しておらず、機械金属部門における中堅労組の参加が目立っている。

ストの規模をめぐってはいつものように、民主労総は106カ所余で3万人余がストに参加したと発表したのに対して、労働部は86カ所で1万5366人が参加したと発表するなど、両者の間には大きな開きがある。

第二に、保健医療労組は5月7日に傘下病院労組87カ所の争議調停申請を出した。病院は必須公益事業所に指定されているため、仲裁に回付されると、15日間ストは禁止される。そのため、労組側は「使用者側が職権仲裁制度を悪用して今回のストを違法ストに仕向けるなど、交渉に誠実に臨んでいない」と反発していた。労働委員会は5月23日午前労組側がストを強行する直前に、最終的に98カ所に上った争議調停申請病院労組のうち、52カ所に職権仲裁の決定を下した。

保健医療労組は5月23日に「産別交渉のほかに、医療部門の公共性強化、人員の拡充、非正規職の正規職への切り替え及び差別撤廃などの要求案をめぐって交渉が決裂したため、午前7時に41カ所の病院労組で1万6000人余がストに突入したが、午後に入って22カ所で交渉が妥結し、スト中の病院労組は19カ所にとどまった」ことを明らかにした。

これに対して労働部は「全面スト3カ所、時限付スト12カ所など15カ所で2661人がストに参加したにすぎない」と発表した。また「労働委員会が仲裁に回付した52カ所の病院労組のうち、ストに突入した12カ所に対しては違法ストと見なし、法律に基づいて処置する」と述べた。

第三に、民主タクシー労組連盟は5月13日に傘下152カ所(1万3000人余)の争議調停申請を出した。そして5月24日には、「社納金制度の撤廃及び生活賃金の保障、月給制の実施などの要求案が受け入れられないうえ、使用者側が誠実に交渉に臨んでいないため、午前4時から全国106カ所で6500台(組合員9000人余)が一斉にストに入る。使用者側が引き続き交渉に誠実に臨まない場合、ワールドカップ大会期間中に車両を使った大規模な示威行動と高速道路の占拠などあらゆる手段を講じて闘争を強化する」ことを明らかにした。

これに対して、労働部は「午前10時現在全国69カ所で4140台(組合員6337人)がストに入った」と発表した。民主タクシー労組連盟傘下労組がある事業所はタクシー業界全体の20%にとどまっているため、その比重が比較的に高い仁川・光州地域を除いてはあまり影響がないとみられている。

5月26日現在、以上のような産別労組単位の連帯ストは鎮静化に向かっている。まず、タクシー労組連盟はその比重が比較的に高い仁川地域の30カ所余に絞ってストを続けるとしている。また保健医療労組では相次いで労使交渉が妥結し、スト中の病院は8カ所に減っている。そして金属労組では27日、28日に時限付ストを続け、29日、30日には交渉決裂の事業所を中心に全面ストに入るとしている。これに対して、労働部は「労使紛争が長引いている一部の事業所」を除いてはワールドカップ大会の前にストは終結するとみている。

韓国労総系労組のスト計画撤回

その一方、韓国労総系観光労組連盟と金融労組はそれぞれ非正規職の正規職への切り替えや週休二日制の導入などの要求案が受け入れられなければ、5月末にストに突入する方針を打ち出していたが、5月21日、23日に相次いでスト計画を撤回し、ワールドカップ大会期間中の労使和平宣言を採択している。

まず、観光労組連盟では、傘下労組から交渉権の委任を受けて交渉力の強化に努める動きもみられたが、結局、ワールドカップ大会に直接影響するという事情からスト反対の声が多く、争議調停申請や組合員投票すら行えない状態が続き、5月21日に早くもスト計画を撤回し、労使和平宣言を採択するに至ったようである。

第二に、金融労組は5月23日に26の金融機関代表と、「週休二日制の導入、総額賃金の6.5%+α の賃上げなど」を主な内容とする合意案に署名し、5月30日に予定していたスト計画を撤回し、労使和平宣言を採択すると発表した。週休二日制の導入に当たっては、月次有給休暇12日分に対しては賃金補填を行わず、年次有給休暇8日分と特別休暇6日分(最低限4日分保障)に対してのみ賃金補填を行うなど、年月次休暇の調整と賃金補填で妥協が成立した。金融部門は製造業と違って、時間外手当などの割合が比較的に少ないため、週休二日制の導入に伴う年月次休暇の調整が比較的に容易であるということがその背景にある。

週休二日制をめぐっては労使政委員会で労使間の合意がなかなか得られず、法改正は政府の計画より大幅に遅れている。その背景には、労働界内部の分裂(韓国労総と民主労総の間のみでなく、韓国労総の内部における業種別違いも大きい)に加えて、財界でも韓国経総と全経連との間で不協和音が目立つなど、労使代表の代表性や責任体制がきちんと確立されていないことが大きく影響している。だからといって、それに代わって政府単独で法改正案を国会に提出しても今の政局では国会を通過するという保証はないといわれる。

そういうなかで、各産別労組または事業所別労組の間では法改正を待たずに、労働協約改訂交渉で週休二日制を勝ち取ろうとする動きが広がりを見せており、今回の金融部門での合意でそれに弾みがつくとみられている。

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