社会的緩衝措置

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年6月

イタリアで、社会的緩衝措置、あるいはより広く福祉(welfare)に関する政策について議論される場合、制度に深刻な不公平性が存在するということがしばしば指摘される。こうした不公平性は、社会的費用の配分を国際的に比較することによって明らかになる。社会的費用総額に占める失業手当の割合は、ヨーロッパの中でイタリアが最も低い。実際、イタリアにおける社会的費用は、年金に集中しており、失業手当や就労年齢にある者のための社会的扶助(障害、家族、住宅、生活扶助)の割合は低い。国内総生産費でみると、失業手当費の占める割合は、EU平均が1.9%であるのに対し、イタリアは0.7%である(欧州社会保護制度統計システムESSPROS,1998)。

失業手当制度に着目して国際比較をみても、配分の不公平性が存在することがわかる。こうした不公平性は、社会的費用の受益者間だけでなく、求職者間に限定しても存在している。たとえば、社会扶助制度と社会保険制度との区別に関して、他のOECD諸国と異なり、イタリアには、失業に対する社会扶助制度が存在しない。したがって、イタリアでは、初めて求職活動をする者(2000年で失業者の40%)や社会保険受給権が消滅した者(典型的なのは長期失業者で、失業者の50%以上に上る)は、困窮要件を満たさない以上何らの所得保障も受けることができない。

社会保険制度に限ってみても、受給者への給付の配分には不公平性が存在する。イタリアには、寛大性という点からいえばまったく性質の異なる失業者の所得保障制度が2つある。すなわち、移動手当制度は、最も寛大な制度の1つであるが、失業手当制度は所得代替率もきわめて低く、また給付期間も短い。

いずれの制度が適用されるかは、労働者が属する企業がどの部門に位置付けられるかによって決まる。つまり、基本的に、工業部門の労働者については移動手当制度が妥当する。これらの労働者については、特別所得保障金庫手当(従前の所得の80%。これは移動手当の1年目の額と同額)の受給後に移動手当が支給されるとの取扱いがされることが多く、また、手当の受給期間が延長される傾向もある。

こうした工業部門のための制度と並んで、一般的な性質をもつ失業手当の制度がある。ただし、農業労働者や建築業労働者については手当額や期間、要件の点で特別な取扱いが規定されている。これらの労働者については季節労働的性質が考慮されており、偶発的な事故(失業の危険)に対する保険というよりは、定期的な所得保障としての性質をもつものである。しかし、失業手当の要件が緩和されることにより、農業や建築業とは異なる部門でもこうした性質が徐々に現れている。つまり、手当全額を受けるために必要とされている拠出要件(ここ2年間に52週間以上保険料を納付していること)を満たしていない労働者であっても、ここ1年間に78日以上就労していれば、当該1年間の実質的就労日数に相当する期間、報酬の30%に相当する手当の権利が付与されるのである。したがって、一定期間を超えずに就労している者、とくに、不安定な労働に従事する者(代用教員などの臨時公務員が多い)、季節労働者(ホテル業、修復作業など。これらについては季節労働性が高いにもかかわらず、農業や建築業と異なり、特別扱いされていない)については、一定の手当が支給されるということになる。こうした運用方法は、有期労働の影響力が大きくなっていることの現れといえる。現在では、受給者や費用の点で、特別な取扱いが要件を完全に満たしている場合を上回る傾向にある。

次に、拠出と給付とのバランスについてみると、所得保障手当や移動手当として多額の手当が支給されるているにもかかわらず、この両制度を全体としてみれば基本的に財政上の均衡を保っている。実際、工業部門において納付された保険料は、これらの手当を賄うのに十分なものである。このことは、非農業部門における通常手当にも当てはまる。一方、農業部門で支給される手当(通常手当・特別手当)については、拠出と給付との構造的な不均衡が存在する。

上記の制度を全体的にみれば(建築業に関する手当を考慮しても)、2000年に関しては、財政上の均衡を保っているようである(好景気に支えられた2000年は、工業部門の黒字が農業部門における手当の構造的赤字を上回った)。全額一般租税により賄われる制度(早期退職制度などは一般に積極的政策に分類されるが、社会的緩衝措置としての性質ももっている)についての財政支出をも社会的緩衝措置の費用に含めると、2000年でも赤字となる。それでも、1990年代前半と比べると、好景気の影響から改善がみられる。

最後に、各種制度の受給者のタイプをみると、いくつか興味深いことがわかる(下記表参照)。給付が最も寛大な制度(すなわち、工業部門のための制度)は、主として成人男性を対象としている。イタリアの福祉が、一家の主たる稼ぎ手である男性に対する支援という特徴をもつことを示している。社会保険的性質が希薄な給付(すなわち、季節労働者のための制度)は、とくに、南部を対象としている。これに対し、一般的な失業手当は、他の制度に比べると、若年労働者、女性、中北部を対象としているといえよう。

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