構造調整をめぐる労働争議や雇用調整に関する判決

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年5月

構造調整反対ストライキは不法行為にあたるとする最高裁の判決

公共部門労組の間で構造調整を阻止するためにストライキに突入する動きが広がりをみせるなかで、「構造調整反対を掲げた労働争議は不法行為にあたる」とする最高裁の判決が出て、その影響が注目されている。

最高裁は2月26日、韓国造幣公社で構造調整に反対して集会やストなどを起こし、業務妨害の疑い等で起訴された同社労組幹部2人に対する上告審で、「業務妨害の疑いに対して無罪を宣告した」原審を破棄して有罪判決を下した。同社労組幹部2人は1998年7月にデジョン、デグ地域で民主労総主催の「公共・金融部門の構造調整等に反対する集会」を主導し、同年11月から約3カ月間同公社の構造調整に反対してストを繰り返したとして、業務妨害の疑い等で起訴され、一審で懲役10カ月執行猶予2年を宣告されたが、二審では業務妨害の疑いは無罪となった。

今回の最高裁の判決は次のような理由から「構造調整反対のための労働争議を正当な行為と認めた」二審の判決を覆したという点で、その影響が注目されている。まず、「整理解雇や事業組織の統廃合など、企業の構造調整の実施如何は経営者の高度な経営判断に属する事項で、団体交渉の対象にはならない。このような構造調整が合理的な理由もなく悪質な意図で推進されるなどの特別な事情がない限り、これに反対する労働争議は正当な行為とは認められない」と指摘し、「構造調整は組合員の解雇や勤務地変更を伴うものなので、それに反対する労働争議は正当な行為にあたる」とした二審の判決を覆した。

第二に、「当時の労働界の動きをみる限り、同社労組がストの理由として掲げていた賃金交渉の早期妥結は争議行為を合法化するための副次的な目的にすぎず、争議行為の主たる目的は政府の整理解雇方針に反対するための対政府闘争にあったという事実が認められる」と述べ、「ストの目的は労働条件である賃金の引き上げにあった」とした二審判決の趣旨を否定した。

第三に、「団体交渉の対象にならない案件(構造調整に伴う整理解雇)に対しては、労働協約に労組との合意を義務付ける条項が盛り込まれている場合でも、それは事前に労組の同意を得なければならないという意味ではなく、労組の意見を誠実に参考にしなければならないという意味で協議の趣旨にあたると解釈すべきである」と述べ、「ストは、労組が使用者側の決定に合意できないことを主張するために起こしたものなので、正当な行為にあたる」とした二審判決の趣旨を否定した。

このように今回の最高裁の判決は、「構造調整を阻止するための労働争議や、労働条件の改善を表向きに掲げるとはいえ、実質的には対政府闘争につながるような労働争議などは不法行為にあたる」ことを強調した点で、いまなお構造調整をめぐる労使紛争の渦中にある公共部門では特に労組の運動路線に少なからぬ影響を与えるものとみられる。

「社内夫婦共働き社員のうち1人に辞職を強要したのは不当解雇にあたる」とするソウル高裁の判決

構造調整の過程で「社内夫婦共働き社員のうち1人に辞職を強要したのは不当解雇にあたる」とするソウル高裁の判決が出て、特に金融業界や女性団体などの間で女性社員を対象にした性差別的慣行に歯止めをかけるケースとして注目されている。

ソウル高裁は2月26日、アリアンツ第一生命の元社員4人が、「社内夫婦共働き社員であることを理由に辞職を強要した」として会社を相手に起こした「解雇無効確認請求訴訟」で原審を破棄して原告勝訴判決を下した。

会社側は当時「経営難の打開策として、整理解雇を断行する場合、労組の反発が強まることを恐れて、夫婦共 働き社員88組を対象に男性社員に圧力をかけて女性社員の辞職を迫った。その結果、女性社員86人を含めて88人が退職したという。今回の訴訟は当時女性社員の退職は会社の強要によるものなのか、それとも、個人の判断による自発的行為なのかを争うものであった。一審では、「女性社員が自発的に辞表を出したので会社の強要によるものではない」として原告敗訴の判決を下した。

今回その判決を覆したソウル高裁は「原告側は辞表を出すことで何かの利得を得たとみることはできず、実質的に解雇にあたる。会社は組織的に辞職を繰り返し強要し、辞職する意思のない社員に対して辞表を出さざるを得ないよう仕向けているうえ、整理解雇の要件をも満たしていないので不当解雇にあたり、辞表は無効である」と述べた。特に、「女性社員は本人のみでなく、配偶者にも不利益が及ぶ恐れがあることに対して大きな負担を感じるようになった点や、会社との力関係からみて会社の強要を前にして選択の余地がなかった点など」を認めたことも個別的労使関係の事情に配慮したとして注目されている。

会社側は上告する方針を明らかにしており、最終判断は最高裁に委ねられることになった。

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