労使関係の変化とイタリアの課題

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年5月

2002年2月、欧州委員会は、労使関係に関する高等団体とEUにおける変化について報告書を公表した。以下、イタリアの現状と比較しながら、同報告書の概要をみる。

ヨーロッパの労使関係に関する報告書

労使関係高等団体およびEUの変化に関する報告書(以下、「報告書」)は、労使関係に関するヨーロッパのシステムの動向について、数多くの重要な指摘をしている。これは単なる研究ではなく、注視すべき提案を含んだ文書といえる。報告書の主張は、「労使関係を変えなければならない」という点で一貫している。

報告書は、ヨーロッパが対処すべきあらゆる問題(グローバリゼーション、EUの拡大、通貨統合、技術革新、労働市場の改革、人口の変化、家族・労働・制度の新たな均衡関係)の解決のために、労使関係がどのように寄与しうるのかを示そうとしている。より正確にいうと、労使関係の主体だけでなく、各国政府、委員会および他の政策立案者が、上記の問題に素早く対処し、社会的対話、社会参加の促進およびパートナーシップの改善を通じて、現代化を主導する役割を果たせるような方法を示すことが、ニースの欧州理事会に委ねられた任務だったのである。

こうした観点からすると、報告書は、2000年5月に公表された労使関係に関するEU委員会報告書の内容(ヨーロッパの労使関係の状況を詳細に描いたもの)を掘り下げる試みをしたものといえる。そして、報告書は、有用な評価および判断を示しただけでなく、ヨーロッパの変化の過程を主導すべき労使関係の主体に対し、いくつかの助言も行っている。

労使関係のヨーロッパ化

労使関係の将来像を設計するためには、まず、ヨーロッパレベルで企業間の適切な競争を発展させていくことが必要である。EU法が国内市場を規制するようになっているため、イタリアでは他国にない制度や規制を維持することができなくなっている。このため競争の歪みが生じる可能性がある。また、イタリアのシステムを、他国の法律や協約に照らして再考することも必要になっている。企業の海外流出を回避するためには、全く同一の規制は無理だとしても、同等の規制の下での競争を実現するしかないのである。

イタリアの労使関係は、国内市場を規制するために発展してきた。しかし、大陸規模あるいは世界規模で市場が展開している現在では、その役割を国内レベルに止めておくことは不適切である。EUの動向と比較した場合のイタリア国内法制度の不備も、個々の制度および法規を抽象的に比較して、他の加盟国の平均的な状況を基準に比べるだけでは不十分である。むしろ、基本的な社会権に照らして、企業間の競争や、法的枠組と社会経済状況との適合化を阻害している障害物を除去するために、新たな理念(労働法の現代化にとって適切なEU法およびヨーロッパ各国の理念)を承認することの方が重要である。

労使関係システムを適切な競争を実現するための基本的な要素であると考えると、企業の代表は、政府や相手方労使の提案に単に反応するというのではなく、活動の活発化を促進するような戦略をとることが必要である。この点、フランスやスウェーデンでは、ドイツモデルに着想を得て、企業代表に、労使システムに関する急進的な改革の提案を前進させる責任を課している。イタリアでも、これを実現することが望ましい。ヨーロッパ社会モデルの現代化を実現し、労働関係の質を向上させることは、欧州理事会が繰り返し確認していることでもある。

ヨーロッパレベルでの労使関係は、労働関係の現代化を目的とする多様な制度を提供してきた。成功の鍵は、この目的に即した適切な制度を選択したことにあろう。こうしたこともあって、報告書は、数カ年労働計画を議論するにあたって、労使を参加させるという試みを好意的に評価している。ヨーロッパレベルでの労使は、協議および協調の過程を合理化・簡素化を提案し、より高次の新しい政策委員会にこうした合理化・簡素化を担わせたのである。

報告書は、こうした協議および調整の第一次的な重要性は、リスボン戦略で定められた政策について労使に議論の場を提供する点にあるとしている。さらに、こうした調整の影響は、様々な関係者によってとられた措置にも波及すると考えられる。

問題の位置付けは、イタリアとの関係でもきわめて有用である。社会的対話をより適切な形でとり行うため、労働プログラムを割り振り、政府、議会および州が自らの活動を確定できるようにすることが望ましいであろう。EUが各国のシステムの発展を牽引していくことができれば、質の飛躍的な向上を期待できる。

団体交渉の分権化を促進するのと同時に、EUレベルで行われる決定の戦略的重要性が徐々に強調されるようになっている。実際、EUレベルでは、イタリアの労使関係システムとの関係でもより重要な決定がなされるようになっている。今では、イタリアの立法者の役割が、EU法を国内法へと転換するための措置をとることに限定されている場合も多い(パータイム労働・有期労働に関する指令など)。

1970年代から1980年代の抑制的傾向を転換して、現在、EUは現代化を強く推し進める姿勢を示している。欧州委員会の中には、社会的対話を、企業および労働者の期待に沿うように誘導するものもある。また、労使関係に関する国内法システムの動向を考慮することによって、補完性の原則の遵守を改めて強調すべき場合もあるように思われる(労働者が欧州会社法で定められた運営組織に参加する場合など)。

労使関係に関してEUの状況が重要な役割を果たし、加盟国がこれについて大きな期待を抱いてきたことは確かである。報告書が述べているように、今や労使関係に関するEUの水準は、労使関係の将来に関するEUの戦略的要となり、各加盟国の状況に見合った国内合意の締結を促進しているのであり、重要な付加価値を提供するものとしてきわめて重要な位置付けがなされているように思われる。

EUに関する一連の状況は、制限ではなく純粋に機会と捉えるべきである。このため、EUの水準の戦略的役割を完全に理解・活用し、また、国レベルの議論においてもEUの問題を考慮する必要がある。

労使関係の質に関する基準設定

EUの水準が設定されれば、国、地方および企業レベルの経験から導き出された最善策を効果的に共有することが容易になるだろう。これによって、相互的な基準設定や情報の習得が促進され、また、EUレベルの労使間交渉の重要性が強調されることになろう。

情報の共有などを通じて、労使は、労使関係の質を向上させ、労使関係を規律する適切な規制を制定することが可能になるように思われる。報告書が述べているように、こうした新たなアプローチを積極的に評価することが必要である。

さらに、ニースの欧州理事会は次のように述べている。すなわち、新たな問題に対処するため、欧州社会アジェンダは、「質の向上に関するすべての社会政策分野を重視しなければならない。訓練の質、労働関係の質、労使関係の質およびすべての社会政策の質は、EUが設定した競争および完全就業という目的を達成するにあたっての基本的要素である。」

労働市場の質と労使関係システムの質は相互に影響し合う関係にある。このため、労使関係に関しても基準設定を実施するという報告書の提案はきわめて効果的と考えられる。この点、社会政策アジェンダの勧告に従って、進行状況を明らかにする指標のほかに、労使関係の質を向上させるような指標を設定することが必要である。

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