貧困層の拡大・遅れる地域医保険医療制度の改善

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年4月

フィリピン社会は、増加し続ける人口、製造業を中心としたリストラによる失業者数の増加、ペソ安に起因する諸物価の上昇の中で、最低生活費以下の人口が増加している。このため、医療制度の整備が急務となっている。また、国連開発計画(UNDP)は、雇用対策を中心に4つの分野に対する支援を決定した。

最低生活費の上昇

国家統計調整委員会(NSCB)の発表によると、2000年、最低生活費は、インフレにより1997年より22ポイント上昇し、1カ月当たり1万3823ペソに上昇した。この中で大きな比率を占める食料費は、7710ペソから19%上昇し、9183ペソになった。

この結果、最低生活費以下で生活するフィリピン人は、7000万人のフィリピン人口の実に33.7%、世帯数では、510万世帯に達した。都市部では、19.9%、地方では、46.9%まで上昇した。

地域的にみると、ムスリム・ミンダナオ自治地域は、治安の悪化により1997年の27.7%から、2000年には、35.5%に上昇した。一方、コーディレラ地方(CAR)は、1997年の24.9%から2000年は、18.0%に減少した。

改善進まぬ地域保健医療制度

貧困対策の中でも、地域保健医療制度の改善が急務となっている。

地方政府が、インフラ整備等の景気対策に重点を置くあおりを受けて、地域保健医療予算が押さえられる傾向にある。特に、MHOsで働く医療従事者の間では、仕事の量の増加にもかかわらず、賃金が低く押さえられたままで、不満が出ており、政府が、公共の医療機関で働く労働者の権利を定めた共和国法7305条を厳守することを要求している。財政状態の良くない地方は、財政的な理由でこの法律の完全施行を見合わせている自治体が多い。実際、不景気の中で、MHOsの業務を軽視する地方行政官や市長が多く、彼らがMHOsを長期に無視している地域は、地域保健医療制度が未整備のままで、若い医療従事者や優秀な医療従事者が転職し、MHOsの医療水準を低下させている。

MHOs側は、MHOsの運営に関し国の統一基準があるにもかかわらず、中央・地方での政権交代により、地方行政官や保健医療の担当者の移動が激しく、政策に一貫性がなくなり、長期的な計画が立てられていなかったり、地方行政の首長が、MHOsを重要視するか否かによって、地域保健医療政策や医療従事者の待遇に大きな差が生じていると主張している。

MHOsの中には、地方政府が、治療に必要なワクチンを購入する資金を支給してくれるかどうか危惧している地域や、ワクチンどころか一般の解熱剤さえ購入できない地域がある。あるMHOsの担当者は、全人口の60%が、十分な医療を受けられないのではないかと指摘している。

地方の首長がMHOsの要求を受け入れている地域もあるが、現状では、地方で実施できることは限られており、中央政府からの援助が必要であるが、今のところ、要求は受け入れられていない。

UNDP貧困対策に援助

このような中で、UNDPは、フィリピンの貧困緩和事業に13.5億ペソを出資することを決定した。

国家経済開発局のギルバート・ラント副局長は、UNDPが雇用対策、環境保全、統治、平和と秩序の4つの分野に重点的に援助を計画していることを明らかにした。事業期間は、2002年から2004年で、特に、経済開発、女性を中心とした雇用機会の増大、人権の保護、開かれた予算作成過程の構築、社会的サービスの公平な分配を通じて、貧富の差を緩和しようと計画している。

UNDPは、フィリピンの統治状態に関して、民主主義が、過去25年間に普及されたが、まだ不十分な面もあると分析し、政治、法律、行政の構築は、市民層、特に貧困層の期待に答えるものであるべきだと指摘している。

UNDPは、環境の悪化は、貧困層に深刻な影響を与えるとみている。その理由として、貧困層は、水質・土壌・空気汚染の影響に無防備だからである。このため、UNDPは、地球的な良い環境習慣を促進する政策に、触媒的介入をすることにより、環境を保全しながら持続的発展する国家の建設を支援している。

また、計画書は、フィリピンが、平和を構築し、荒廃を緩和するために、開発計画に悪影響を与え、更なる貧困と不平等をもたらす武力闘争や国家的混乱を解消することを要求し、この分野にも援助を計画している。特に、この点に関し、国家的危機を回避するために革新的政策をするよう求めており、闘争の解決、国際的な人道主義支援組織との協調政策、緊急の救援事業と長期の発展計画の調和ある政策の必要性を述べている。

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